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魔法少女、再臨  作者: 音無ミュウト
第一章-b
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【2018年9月14日-02】

「少し、話せないかな? 笹部蓮司にお茶でも奢ってもらおう」


「っ、は? アンタ、女子高生をナンパ? 自称神さまが聞いて呆れるね」



 遥香はドルイドを前にして、動揺している事を悟られたくないと感じた為か、自分でも驚くほどに、彼を嘲笑する言葉が口に出たが、彼は特に何と感じる事も無かったようだ。



「神さまだからこそ、人間の年齢的価値などに興味は無いのさ。君が女子高生だろうが中学生だろうが、はたまたオバサンだろうがね」



 近くにあったカフェに入店をした彼に続き、蓮司が遥香を呼ぶようにしながら入店。仕方なしと遥香も続き、ドルイドと遥香は『アイスコーヒー』とだけ蓮司に告げる。蓮司はレジへ向かい、二人は人目の付かない奥の席へ着席。


その間は無言だった。アイスコーヒーを三人分運んできた蓮司が着席し、アイスコーヒーにガムシロップを三個ほど入れたドルイドが、ようやく口を開いた。



「まず、現状の確認をしようか。笹部蓮司」


「ああ。俺達レックスハウンドは」


「弥生ちゃんから聞いてるよ。アンタら防衛省だったんでしょ?」



 蓮司が【レックスハウンド】を名乗ったので、既に知り得ている情報として止めた遥香と、それに苦笑しつつ頷いた蓮司。



「……そうだね。俺達は【四九】だ。かつてレックスハウンドと名乗っていたのは、君や弥生にとって、解り易い正義の味方であった方が好ましいだろう、という判断からだ」


「子供だって自衛隊って言われりゃ分かるっての。正義の味方気取って、いい大人が恥ずかしくなかったん?」


「は、遥香ちゃんはだいぶ変わったね? 随分口が悪くなった」



 話を戻して、とした蓮司には何も言わない。ただ視線をアイスコーヒーにだけ向ける。



「俺達【四九】は元々公安に近い組織だ。テロの未然防止等が主な目的で、国内外問わず活動する。他にも近い部署が幾つかあるが、今は考えなくていい。


 そんな四九は、八年前にレックスを探知するシステムを開発し、またそれを常置させた。今でもレックスが確認されれば、俺達が即時対応が出来る様になっている」


「……この八年間、ずっとレックスの反応は無かったんでしょ? あれば流石にベネットが気付いていると思うし」


「その通り。少なくともレックスという脅威は無かったよ」


「なんか引っかかる言い方。レックス以外の脅威はあったっての?」



 少し興味があり口を挿んだ。しかし答えはドルイドから帰って来る。



「色々あったよ。けれどそれは、水瀬遥香には、そして四九にも直接関係のない事だ。今回は飛ばしていいだろう」


「……チッ」



 机を人差し指でトントントンと突きながら、早く続きを話せと苛立ちで示す遥香に、蓮司は僅かに困惑していた。



「あのさ、遥香ちゃん。流石にあの頃から違い過ぎないかな? 八年の間で何かあったのか?」


「別に。いいから続けてよ。アイスコーヒー分は聞いたげるから」



 こちらの事情は話すまいとする遥香の態度に未だ慣れぬ蓮司だが、ドルイドが彼に代わり、続ける。



「で、今回活動を再開したレックスだが、誓って言おう。ボクは生み出していない」



 レックスを作り出した元凶が、今度はアイスコーヒーにスティックシュガーを三本ほど入れ、それでも一度口を付けた後にもう一つガムシロップを追加する。



「流石に一つ一つのログデータを取っているわけではないので、状況の解明自体は出来ないが、仮説を立てる事は出来る。活動を再開したレックスは、当時の生き残りか、もしくは繁殖の末だろうね」


「はぁ? アレ、繁殖すんの? 交尾でもして?」


「さてね。自己増殖か、それともツガイによる交尾の末に繁殖なのか、はたまた細胞分裂に近い増殖か、それは不明だね。だからこそ興味が湧いて、こうして笹部蓮司に協力しているというわけさ」



 ドルイドの言葉を借りれば、彼は【メーティス】という【知識】の概念を司る神と同化を果たした元人間らしい。故に新たな知識の収集に関してのみ、彼は夢中になる。



「現在この秋音市に確認できているレックスの数は、先日の個体を除けば八体。けれどこの八体は未だに、君たちの持つマジカリング・デバイスや四九の探知システムに引っかからない事から、上手く身を隠している事になる。産みの親であるボクでさえ、その動向は掴めていない」


「その八体ってのはどうやって見つけたのよ」


「たまたま発見した個体さ。けれど見つけてもすぐに隠れてしまう。ボクでも探し出す事は一苦労だよ」



 やれやれ、と残念と言わんばかりの言葉、しかし口調は楽しそうだ。


 遥香は続いて彼のアイスコーヒーに追加されたガムシロップにいい加減苛立ちを覚えて「アンタ最初からアイスコーヒー頼むんじゃねぇよ」と毒づいて、自分のアイスコーヒーを飲み干した。



「で、話は以上? なら帰るけど」


「いや、もう一つだけ。遥香ちゃんの元に、まだベネットはあるよね?」


「……居るっていいなよ。あの子をモノ扱いすんなっての」



 蓮司の言葉に、更なる苛立ちを覚える遥香の言葉に、蓮司は「ごめん」とだけ謝り、しかし意を決して言う。



「また、俺達と一緒に、レックスと戦ってほしいんだ。どうかな?」


「ヤだ。てか、これ弥生ちゃんと話して、もうアタシは関わらないって決めてンだけど。情報共有しなよ、アンタら組織なんでしょ? ホウ・レン・ソウは基本だって、学生のアタシでも知ってるよ」


「なんでだ。なんで君は、そこまで変わってしまった? あの誰かの為にって戦ってくれていた遥香ちゃんが、どうして」



 そう言って、如何にも心配だと表現する顔に、遥香は無性に苛立ちを感じてしまう。


頭を掻きむしりながら深くため息を吐き、立ち上がる。



「八年間も放置してたクセにさぁ、保護者みたいなツラすんじゃねぇよ……!」



 最後に蓮司の足を蹴って、多少気が晴れた。遥香はそのまま退店し、窓から見える二人へ、一応手を振った。


その時、僅かにドルイドの口が動いた事を、遥香は見逃していない。



「……『面白い』、?」



 読唇術と言える程では無い。表情から観察した、おそらくこう言った言葉だろうという予想である。


だが、その読みは正しかった。



――ドルイドは、今の水瀬遥香という人物に、興味津々だったのだ。



**



結局、二者と話した事によってムシャクシした気持ちを抑える事が出来ず、遥香は帰宅する事となった。


家に着くとベネットが何時もと変わらず出迎えてくれる。



「お帰りなさい、遥香さんっ」


「うん、ただいまベネット」



 靴を脱いで、荷物を預かってくれるベネットへ預け、リビングに座る遥香と、飲み物を二人分用意した上で隣に座るベネット。



「今日は、レックスの登場は無かったみたいですね」


「みたいだね」


「所で今日の晩御飯なんですが、イタリアンと中華、どっちがいいですか?」


「あー、イタリアンかな。ていうかベネットはホントに料理上手になったよね」


「はいっ! 二年間必死に勉強した甲斐がありました! 料理ってホントに楽しいんですよ。遥香さんもしませんか?」


「ベネットが美味しい料理作ってくれるし、アタシはそれを食べてる方がスキ」


「嬉しいです! ――所で」


「ん? どしたのベネット」



 ベネットは、少々言い辛いといった様子で、しかし言わねばならぬと意を決して、遥香と視線を逸らしながら、言う。



「今、レックスの反応がありました」


「そ」


「これは、ウェストの反応ですね。どうやら弥生さんが変身して、レックスと戦ってるみたいです」


「そ」


「……イタリアンは準備がかかるので、取りかかっちゃいますね」


「ありがと」



 遥香とて鈍感では無い。ベネットが何を言いたいのか、理解している。


ベネットは「遥香さんは戦わないのか」と問いたかったのだ。


しかし、彼女の答えは「否」。


既に弥生にも、レックスハウンド――四九へもその答えは突き付けている。



「ベネットはさぁ」


「はい?」



 キッチンでパスタ用の大型鍋を用意していたベネットが、動きを止める。



「ベネットは、戦いたいの?」


「あー……率先して意気揚々と戦いたい、という訳では無いです。こうして料理が楽しいって気持ちも、ホントの気持ちです」



 けど、と言葉を繋げる。



「アタシは、元々戦う為に生み出されたマジカリング・デバイスです。だから、こうしてレックスが出現しているのに、なぜ戦わないのか……そう、言われているような気がして、ちょっと」


「そっか……でもベネットは、アタシにとって、そんな戦う為の道具でも何でもない。アタシの大切なお姉ちゃんなんだから、そんな事気にしないで」


「……はい」



 遥香は、そのままソファに横たわる。


こうして横になっている間も、弥生はマジカル・リチャードとして、戦っている事だろう。


ベネットと同じく、遥香の心中にも「なぜ戦わないのか」という想いもある。


けれど、それを無視する。



「……もう、ヤだもん」



 クッションを強く握りしめ、小さく呟く。


その言葉は、集音性の高いベネットの耳にも、しっかりと届いていた。

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