護衛任務開始
導入部が終わり、このあたりから本編開始になります
四時限目のチャイムが鳴ると、生徒の行動は二極化する。
すなわちのんびりと昼を迎える弁当派と、慌ただしく教室を飛び出す購買派だ。
俺は基本的に弁当派だが、最近母さんが忙しくて弁当が間に合わなかったので、今日は購買組となった。
のんびりと行くと案の定席は一杯だ。
相変わらずだるまのような顔に、口ひげが立派な食堂のおっさんからおにぎりと、適当なパンを三つほど買う。
教室で食おうと思っていたのだが、見事なぐらいの五月晴れでなんだか中で食べるのが惜しくなった。
よし、今日は外でピクニック気分でも味わうか。
もっとも有力な場所はグループが占有しているか、カップルがいちゃついているのが関の山だ。
だがどこの学校にも人があまりいない、隠れスポットがあるものだ。
購買から五分ほど歩き、久しぶりにそこに来ると先客があった。
見た顔だ。
何よりあの派手な髪の毛は間違いようがない。
見つけた以上放っておくのもなんなので、聞こえるように声をかける。
「何やっているんだお前?」
そいつは一人でスカートから伸びる長い足を、だらんと行儀悪く伸ばしてスマホをいじっていた。
俺を見て「よ」と手をあげる。
「八代じゃん、今からお昼?」
「ああ、てかもう名前かよ。なれなれしい奴だな」
「まあいいじゃ無いか。それとも八代先輩の方がいい?」
「今更先輩とかさん付けされる方がきもい。何しているんだ?」
「見てわかるだろう? 昼ごはんだよ」
サンドイッチと野菜ジュースを持っているのはわかる。
だがそれしかない。
「俺ならそれを昼ご飯とは言わないな」
「八代って結婚したら、奥さんに朝ご飯で文句を言うタイプだろう?」
「朝はご飯だろうがパンだろうが何もいわないよ。そんな量じゃあ食った気にならんだろう」
「お昼なんか少なくてもいいんだよ。元々日本人は二食の時代が長かったんだから」
「食が欧米化してから、半世紀は過ぎているが」
「あたしは古き良き、日本の伝統を守ってんの」
「良い台詞だな。食べているのが日本食でないのが残念だが」
すごくどうでもいいことを言い合いながら隣に座る。
植木が生えていないところしか座れないから、場所があまり広くないのだ。
おにぎりを最初に食べ、次に焼きそばパンを取り出す。
口にほおばっていると視線を感じた。
「なんだ、欲しいのかシンヤ」
シンヤはこいつ、黄泉坂深夜のあだ名らしい。
まあ普通に読めばそうなるわな。
名字が長いし、かといってミヤと呼ぶのも抵抗があるので俺もそれに乗っからせてもらっている。
「ご飯にパンなんて食い合わせで、よくそれだけ食えるな」
「昼しっかり食べないと夜まで持たないんだよ。明け方家がばたついていて朝もちゃんと食えなかったしな」
そう言ってから二つ目を取り出す。
「お前は朝はしっかり食っているんだっけ?」
「んー、朝は食べないことが多いかな」
「日本人は元々二食しっかりじゃなかったのかよ!」
「あたしあんまり食が太くないんだ」
確かにひどくやせているけど。
足もめっちゃ細いし。
「お前だから……いやなんでもない」
さすがにこれはセクハラになる。
ついつい向けた慎ましい胸元から、慌てて視線を外した。
「なんだよ。途中で言いかけてやめたら、よけい気になるだろう」
なおもしつこく食い下がる深夜を、
「そういえば」
とごまかす。
「スマホでさっき何をやっていたんだ?」
「ダウンロードしたゲーム」
突っ込んで聞いたら俺でも知っているような有名なゲームではなく、割とマニアックな奴だった。
「おまえゲームとかするんだな」
「学校へ来たときだけな」
おいおい、学校にはゲームしに来んのかよ?
ま、そんなかんなで昼を食べて適当にだべっていたら予鈴が鳴り出した。
やれやれ、午後の授業がめんどくせー。
それにここからだと、教室が遠いんだよな。
立ち上がった所で、「八代」と背中から声がかかる。
「また放課後でな」
軽く手を振って応える。
ああ、今日も放課後でだ。