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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
2章 若き鬼祓師たち
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再会

 ある程度方針も決まったし、今日はもうお流れだ。

 少しこれからの打ちあわせをつめて、解散となった。

 肝心の護衛対象はおそらく帰っているだろうし、明日から学校に登校次第月雲が彼女に接触することに決まった。

 鬼は不安につけ込むので、なるべく『門』が開く前にそういうのを解消させておきたい、と月雲は張り切っている。

 打ち合わせが終わると、清十郎は早足に出て行った。

 剣道部のエースでもあるので、今から部活に顔を出すのだろう。

 本当に忙しい奴だ。

 月雲の方も、今から合唱部の方に顔を出すらしい。


「途中まで一緒に行こうよ。どうせ帰るだけでしょ?」


 そんな月雲の申し出に頷きかけたが、鞄を教室に忘れていることに気付いた。

 教科書は放って置いてもいいが、弁当を忘れると母さんがうるさい。


「悪い、忘れもんだ。合唱部の部屋と逆方向だし俺は先行くわ」

「そう……」


 月雲は一瞬顔を曇らせたが、すぐに明るい顔を向ける。


「じゃあ、また今度ね」

「おう」


 手をひらひらとふって、教室へと戻る。

 授業が終えてからだいぶ経っているので、廊下ですれ違う生徒もいなかった。

 グラウンドから運動部の声だとか、吹奏楽部の演奏の音などが響くので、静かというにはほど遠いが。

 まだ受験まで時間があるので、教室には残って勉強をするといった奇特な生徒はいないようだ。

 鞄を取り、さっさと廊下に出る。


「とーまじゃんか」


 俺を呼ぶ甲高い声に立ち止まった。

 声の主を探して見回すと、廊下の離れた所に体操服を着た小柄な生徒がいた。

 うちの学校は学年でジャージの色が決まっている。

 そいつは緑色だから一年生だ。

 違う学年の棟にくるのは珍しいが、それより俺を呼んだのはこいつか?

 帰宅部の俺に年下の知り合いは多くなく、先輩を呼び捨てるような無礼な知人はいないはずだが。

 立ち止まっていると、向こうが駆け足で近寄ってくる。

 顔がはっきりと見えてきた。

 この特徴的な、赤とも茶色いともいえないこの髪の毛は……。


「お前この間の!」

「よ、また会ったね」


 いつぞやの夜に会った、鬼に取り憑かれた(マヤ)の飼い主だ。

 明るいところで見ると、アイドルと紛うような整った白い顔立ちがはっきりとわかる。


「同じ学校で驚いた?」

「……まあな」


 むしろ高校生だったことの方に驚いたんだが。

 そんな俺の内心などお構いなしに、先日とは違って愛想良く話しかけてきた。


「食堂のおっさんのことを言っていたから、うちの学校だと思ってたよ。二年生だったんだ」


 ああ、そういえばそんな話をしたっけな。


「じゃあ俺を探していたのか」


 途端に表情が引きつった。


「いや……そんなわけ……」

「違うのか」

「そうだけど、ないよ……」


 なにやらごにょごにょ口の中でつぶやいている。

 こいつ言いたいことをはっきり口にするのか、そうでないのかわかりにくい奴だ。

「何もないなら帰るぞ」

 離れようとすると「ああ」とか「うう」とかなにやらうめいている。

 仕方ない、待ってやるか。

 たっぷり数十秒は経った後、ようやく本題を喋り始めた。


「その……この間のこと謝ろうと思って」

「何かしたっけ?」

「だって……とーまはきちんとしてくれていたのに、何も知らずに邪魔してたじゃんか。後でそれに気付いてさ。……ごめんな」

 

 そういえばあのとき首を絞められたっけ。

 その件には触れてこないけど。


「そいつは律儀なこった」

「……なんだよその適当な言い方。折角こっちが素直にあやまっているってのに」

「適当にいってるんじゃあねえよ。人からそんな風に言われ慣れていないだけだ」


 元々一般の人間から、お礼を言われるようなことが少ない仕事だ。

 助けた相手に「お前達のせいだ!」と罵られたこともある。

 それが一般人の反応だと、長年この世界にいるといい加減悟っている。


「ま、そういうことだから気にするな」

「そうか、へえ」


 犬歯をむき出しにして不機嫌そうな顔を向けたが、俺の言葉に納得したらしく表情を緩める。

 それから興味深げに見上げてきた。


「遠間は子供の頃からああいうことやっていたの?」

「まあ家業だからな」

「家業? 一子相伝の技とか受け継いでいたりするんだ」

「……どこの世紀末覇者だ、それは。基本お寺や神社と同じだ。家がやっているから自然子供も覚えたり目指したりするんだ。もちろん実家が普通の人でもなる奴はいる」

「じゃあ高校卒業後の進路志望とかで書いたら先生が教えてくれたりするの?」

「そこまでおおっぴらじゃあない。鬼の被害に遭った奴が自分も同じようになりたいとかで弟子入りするとか、霊力がある奴が……」


 飛輪にスカウトされて、とあやうく喋りそうになる。

 なんで俺は、こんな事をぺらぺら喋っているんだ。


「みんなには内緒だと言ったろう。好奇心だけで突っ込んできていい話じゃない」

「そ、そんなつもりはないよ。ただ……」

「ただ?」

「借りを作りっぱなしというのも気持ちが悪いからさ。何か手伝って借りを返せないかと思ったんだよ」


 口が悪いけど案外律儀みたいだな、こいつ。


「気持ちはありがたいが、手伝えることなんて……」 


 無いと言いかけて、ジャージの胸元の数字が目に入った。

 うちの学校のジャージには、クラスを記入する事になっている。

 こいつのクラスは一年C組だった。

 護衛対象と同じクラスか。

 学校にはあまり来ないって話だが、少しは俺たちの知らないことを知っているかも知れない。

 

「……そうだな。お前、黄泉坂深夜って奴のことを知っているか?」

「――なんの用?」

「あまりおおっぴらには言えないが、俺たちの仕事についての話だ」

「だから何の用さ」

「悪いがお前には関係の無いことだよ」

「なんで? 当事者なのに」


 当事者って同じクラスなだけだろ。

 まさか俺の仕事を知ったから、自分も当事者って言いたいのか?

 それとも、もっと親しい関係とかなのだろうか。

 恋人とか。


「もしかして仲良かったりするのか?」

         

「仲良いもなにも、あたし(・・・)がその黄泉坂深夜だけど」

「…………はい?」

「だからあたしが黄泉坂深夜。名前言ってなかったっけ?」


 自分を不機嫌そうな顔で指差す。


 …………ちょっと待て。何かおかしい。


 えーと、落ち着いて整理しよう。


 俺たちは黄泉坂深夜という人物を、護衛するように言いつかっている。

 黄泉坂は深窓の令嬢という言葉が似合う、我が校の女生徒だ。

 で、こいつはその黄泉坂だと名乗っている。


 ……………………


 てことはこいつ……女? 


「…………まじで?」

「マジだよ。生徒手帳を見せようか?」


 思わず顔を見つめ、視線を胸元に落とす。

 服の上とはいえ全然わかんねえぞ。

 ……でも高校男子の声にしてはそりゃあ高すぎるし、背も低い。

 そして顔が綺麗すぎる。

 何より本人がそう言っているしなあ。

 珍しい名字だから、同じ名前なんて古典的な勘違いも無いだろうし。


「納得したか」

「……あ、ああ」

「それであたしに何の用があるっていうのさ」


 ああ、それは当然主張すべきことだ。

 でもさ、俺は俺で主張したいことがあるのさ。


「写真、全然違うじゃねえか……」


 後で小角にとことん問い詰めんと。


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