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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
7章 ワルプルギスの夜
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雨が降り、大地は固まる

「さっきのを見ていた連中も多いだろうが、あれは本当に門が少し閉じたんだ。それは深夜の力によるものだ。……そして門が前倒しで開いたことも」

 

 ざわめきがあったが続ける。


「これは深夜の能力の源に関係することだ。ナハトの乙女と呼ばれる、深夜や静乃にある特殊な力のな」

 

 親父は静乃が深夜と同じ能力を持っていたことに驚いた顔を見せる。本当に生け贄云々は一部のものだけの極秘任務だったようだ。

 さておき。

 ゲートとは陰気に集まる「とあるエネルギー」が集まってできるのではということ。

 女王蜂とは「とあるエネルギー」と同質のものであること。

 悪魔は現界では本来の力を失っており現界とは違う姿であること。

 ……前に深夜といるときに襲ってきた陰符。あいつらはあの凶悪な方の姿が本来の姿なんだろう。

 そしてこれが一番大事なことだ。

 「とあるエネルギー」はこちらの術で管理が可能であり、それを利用すれば門を完璧にとじることが出来るかもしれねえってこと。


「それは本当なのか?」


 清十郎が一同を代表して疑問を口にする。

 信じられないが実際ここにいる連中は、先程やって来た親父達援軍以外は門が一部閉じるのを見ている。


「では今回この場で門が開いたのは、黄泉坂がそう望んだからか?」

「少し語弊がある。前にこいつの力を使って無意識に門を開いたのは俺だろう。そして今回三週間も早めて閉まったのは……これが原因だ」


 深夜の両手首に巻いてある封印を指さした。


「深夜の力は本来身体から常に漏れている。だから鬼どもはこいつの力をたどってくる。無理矢理封印したってなくなるわけじゃあねえ。その力が内部にこもって膨大になり、一気に破裂する」

「では……」

「つまり閉じ込めたのが原因ってこった。ま、出なくても影響はありまくっていたけどよ」


 最初の悪魔は、こいつが住んでいるマンションだった。

 二回目の時は、能力に目覚めたこいつが、結界から離れたところで最もよく通っていた通学路兼スーパーへの通り道。

 門そのものと言ったが開く時はきっかけになる『歪み』が必要で、それは俺も詳しくは知らないが飛輪が今回察知したのはその歪みを発見したからだ。


「感情が高ぶるとエネルギーが漏れるのは間違いない。ただそれに加え周囲の感情もどうやらこいつ感知してしまうみたいなんだ。その辺りはみんな俺より詳しいだろう?」


 子供の頃は能力があっても大人になって無くなるのが多い所以だ。

 要は情緒不安定で周囲に対して敏感であるってことだ。


「それに術の媒体体質なのもあるようだ。特に力をコントロールする術士の激しい陰気は良くないようでね」


 最初の二回は近くの俺がかなり動揺していた。

 ここでは百人以上が不安を抱えていた。それがいわば発動のきっかけだったのだろう。

 同時に深夜が感じていた得も知れない不安。

 それが形を変えて歪みを呼び、門を開いた。

 特に今日のは絶望的な状況で「何かあってほしい」という暗い気持ちが鍵となったと見ている。

 不安や焦り、恐れのような陰気が魔界から鬼を呼んじまう。

 不浄物は陰気に集まるってのは陰陽道では常識だが、それが大きく転用されているってこった。

 だが逆に言うなら安心感や幸福感のような陽気は、プラスの要素として働く。

 門が開くのを押しとどめることが出来るほどに。

 つまり深夜は現状、唯一ゲートを閉める能力を持った人間だということだ。


「彼女の力があれば、門を確実に閉じることが出来る?」


 期待の目を向ける若い(―といっても俺より年上だが)鬼祓師に対して、ゆっくりと首を振った。


「確実かというと、正直自信がない。能力自体が未知なもんだし、そもそもどういった原理の力なのかよくわかっていない。だがさっき俺の術で効化があったから、全く人が扱えないものじゃあないってことぐらいしかわからねえ」


 とたんにその鬼祓師は泣きそうな表情になる。

 いや、気持ちはわかるけどあんた二十歳越えているだろう?

 俺だって、他に深夜と仲間全員を助ける手段なんて思い浮かばない。

 失敗すれば自然に開いた門から出た悪魔に飲み込まれる。

 一か八かの賭けだった。 


「成功するかどうかも解らない術にこの場にいる全員と多数の命をかけるのか……」


 やっぱり後から来た精兵達も難色を示していた。 

 しかも俺の仮説はあやふやの所が多い。

 それならばまだ生贄の方が勝算があるのでは? 

 他の鬼祓師たちの何人かがそう考えているだろう。

 だが、俺にはもう一つ懸念材料があった。


「小角。本来数十年から百年周期のワルプルギスの夜が、時々今回みたいに数年で来ると言っていたな。それはもしかして生贄を出した直後とかじゃねえのか?」


 深夜みたいな能力者が毎回都合良く用意できるとは限らない。

 そもそも毎回使っていたらさすがに記録に残されているだろう。


「……確かに全ての記録が残っているわけではないが、生贄を使ったと思しき後は必ず数年で起こっている。今回も含めてな……」


 これは呪禁師。なぜこいつが詳しく知っているかと言うと、小角と同じ正四階位で全貌を知らされているかららしい。

 ということは清十郎は四階位二人を含む四人とガチでやり合ったのか。

 今度あいつを怒らせることがあったら素直に謝ろう。


「これも俺の仮説なんだが、もしかしたら悪魔達にとってナハトの乙女、女王蜂の能力者を生け贄に出されて引き下がるのは、あいつらが現界に侵攻するよりメリットがあるってことだよな。それってあいつらの力をただ肥やしているだけじゃあねえのか?」


 小角も呪禁師も、この計画にのってた鬼祓師達は誰もこたえない。

 ただその場の災害を取り除くのに必死で、後のことまで考えようとしなかったのだろう。

 まあ、そうだ。

 俺だって、深夜が、弟妹達や幼なじみが犠牲になるようなことがなければ考えなかったかも知れねえ。


「ならば答えは一つだ」


 親父が宣言して続ける。


「可能性として自分の家族や大切な人達が今後苦しむ可能性があるのならば、そちらを潰しておきたい。……失敗すれば一般人が犠牲になると? では訊くか守りたい一般人は君にとって誰だ。それは家族や親しい人だろう。私は全世界の人類全てと妻と子供達。天秤にかけられたら家族を選ぶ。ほとんどの飛輪に所属する者はそうだろう。世界の平和は家族が平和に過ごすために、ついでに守っているに過ぎん。なあ?」


 一緒にやって来た同門に話を振ると、


「当然です」「何を今更」「家族より世界平和優先しろとか言われたら脱退しますよ」などと口々に同調した。


「これが成功すれば今後我々は千年と続く奴らとの戦いで大きな前進を得るだろう。自分たちの子供や孫、甥、姪が少しでも犠牲だとかナハトの乙女などというものに選ばれないようにするためにも。私は博打が好きではないが、この作戦に賭けてみるのも悪くはない」


 親父の宣言は、この場の意志の代弁となった。

 深夜と顔を見合わせる。

 真剣だが、少しはにかんだ表情をうかべた。

 そして応えた親父の声にこたえる飛輪の鬼祓師達も、どこか満足げであった。



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