希望
俺の上空での戦闘にこたえるように、飛輪の鬼祓師達が活気づいているのがわかる。
もちろん俺たちがこの騒ぎに動じて逃げようと思えば可能だった。
俺が全力で飛べば追いかけれる奴はいないだろうし、この状況で俺たちを追えるわけがなかった。
そんな気持ちがちらりとも浮かばなかったわけじゃあない。
だが元々俺達の目的は深夜を助けることであり、鬼と戦う鬼祓師としての本分を忘れたわけじゃねえ。
目的の邪魔をすることで対立したが、本来の同士を放置して見殺しにするようなことは出来なかった。
それは清十郎と月雲も同じ考えだし、他の鬼祓師たちもそうだと信じている。
空を飛ぶということは敵に狙われるということだ。
たちまち何十という鬼達が俺を取り囲み、攻撃を仕掛けてきた。
元来こういった乱戦に力を発揮するが少しでも敵の攻撃を避けきれなかったりしたらそのまま撃墜されてしまう。
それをきちんと逃げやすいように下から術の援護をくれたのは、清十郎でも月雲でもなく、飛輪の鬼祓師の誰かだ。
「サンキュー」
礼を言う。
聞こえたかどうかまでわかんねえけど。
俺たちを捕らえるために集まった連中が、俺を助けるために援護をしてくれる。
人間も捨てた者じゃねえ。
軽くほくそ笑んだらそのわずかな隙を鬼の攻撃がかすめてくる。
あっぶねえ。
今下から術の援護がなかったらやばかったぞ。
下を見ると呪禁師がにこりともせずサムズアップするのが見えた。
同時に無数の空を飛ぶ式神などの眷族が俺を援護しようと舞い上がってくる。
ああそうだな。
油断も慢心もやっている余裕はねえ。
今やれることを全力で、確実にだ。
第一陣を全滅させると、息をつく暇すらあたえてくれず、すぐ後方の鬼共が迫ってくる。
俺たちは仲間意識と、お互いの連携の為にかばい合うが奴らは味方の損害をなんとも思わず攻めてくる。
それが奴らの強さであり、かつ俺たちにはない脆いところだ。
何千匹、何万匹いようが所詮個体に過ぎない。
俺たちは互いをかばい合うという足かせがある以上に、互いを援護して助け合うという強さがある。
一人が届かないところを他の術士が補う。
他の誰も出来ない空の囮を俺がやっているように、俺一人だとどうしても補えない援護を他の奴らがしてくれている。
清十郎を中心とした攻撃チームが降下した鬼達を攻撃し続けるからこそ俺の囮が生きるし、
月雲達が術で結界を張り、援護をくれるからこそ俺や攻撃チームは自分のやるべきことに没頭し続けられる。
どうだい魔界の連中よ。
人間だって捨てたもんじゃねえだろ?
終わりの見えない永遠とも感じる作業を黙々と遂行し続けた。
さすがに飛行術の制御もおぼつかなくなってきた頃、周囲の瘴気が薄まっていくのを感じた。
次から次へと攻めてきた鬼達の、次の後続がない。
こいつらを全滅させれば、乗り切れる。
最後の一頑張りだった。
体力も気力も絶え絶えだった俺、そして飛輪の仲間達に最後の力が込められる。
俺めがけて集まった攻撃を、俺自身の術とサポートチームの術が防ぐ。
次の術を込めた鬼共に攻撃チームの術が飛ぶ。
結構地上から離れているにもかかわらず、清十郎の声がハッキリ聞こえたぜ。
今夜何十度目かの鬼達と鬼祓師達の術の応酬が俺の周囲でぶつかり合う。
囮とはいっても、もちろん怯んだ鬼に対しては俺だってトドメをさしてやるさ。
無数の鬼の姿も、飛び交う術の数も眼に見えて少なくなっていく。
「うおおおおおおおお!」
誰かがそんな風に叫んだ。
もしかしたら叫んだの俺だったのかもしれない。
とにかく夢中で行われた最後の攻防戦だった。
ほとんど気力だけで動いていた。
俺はもちろんだが、他の連中もきっとそうだったろう。
どいつだったかわからないが、現界に現れた最後の一匹を誰かが仕留めた。
敵の攻撃に対して身構えた俺たちの気持ちが肩すかしを食らう。次の攻撃がなかったからだ。
それでも油断してはいけないと張り詰めた緊張の中、その時を待つ。
ゆっくりとカーテンが消えていく。
警戒は怠らず、みなその瞬間を待っていた。
やがて現れるは元の夜空。
もちろんワルプルギスの夜はこれで終わりじゃねえ。
でも、当面の危機は乗り切った。
決して大きくないが、誰かが歓声の声をあげるのが聞こえて来た。
それは感染していき、声は地上の至る所で響き渡った。
そう、俺たちは勝ったのだ。




