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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
6章 反旗
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巫条月雲

 月雲は真顔に戻ると、ふと口を開いた。 


「でも清十郎って子供の頃はあんなじゃなかったかな? よく暴れていた気がする」

「そうだっけか?」


 子供の頃か。

 そういえば……よく清十郎と喧嘩をしていたな。

 清十郎は今では考えられないが、当時はものすごく気が短かった。

 しかも同年代でも身体がでかい方で、すでに家で修行をしていたので、同じ小学生だと相手にすらならない。

 あいつと殴り合ったことも多かったが、一緒にもっと大きな相手に喧嘩を売りにいったこともたくさんあった。

 清十郎のキレる原因のほとんどは義憤によるもので、当時は正義感が強くてすぐ感情で動く奴だった。


「そうだったな。それで……静乃に注意されていたんだっけ」

「あ、覚えているかも。みんなは清十郎ほど強くないから巻き込んだら駄目って。本当に強い子はじっくり考えて、正しいことを考えれる子だって。そんな風に言われていたと思う」


 あなたは優しい誰よりも強い子だから、きっと出来るよ。

 そんな風に優しく笑う静乃の顔が脳裏に浮かんだ。

 思い返してみれば、清十郎が少しずつ大人しくなっていったのも、静乃が俺んちに来た後ぐらいからだ。

 静乃が亡くなった後、打って変わって冷静で理知的になっていたから、そのまま忘れかけていた。


「そういえばいつもこんな感じだったな」

「黄泉坂さんを助けることで、昔の自分と重なっているのかな?」


 月雲が相変わらず、どこか人を楽しくさせるような笑顔で笑う。

 清十郎だけじゃあない。

泣き虫だった月雲が、いつも穏やかな微笑みを浮かべるようになったのも。

 俺が伊緒里と千春の面倒をみるのに文句を言わなくなったのも、彼女の影響だ。

 二階から三階へと続く階段を登っても、まだ清十郎の声が響いている。


「静乃お姉ちゃん怒っているかな? 清十郎、今日は全然注意を守ってないから」

「そうだな。怒っているだろうな」


 むしろ今助けに行っているのが静乃だったとしても、それでも怒っていたかも知れねえ。


「でも知るか。注意したければ生きてすれば良かったんだ。勝手に黙って死んでいった奴に、怒る資格なんかねえよ」

「……そうだね。その通りだよ」


 月雲はゆらりと歩きながら頷く。

 ただ歩いているように見えるが、術を解析して、それをくぐり抜けている。


「わたしはいつまでも二人が悪いことをしたら怒るからね」

「それはこっちの台詞だ、馬鹿やろう」

「へへへ」 


 照れたように笑った後、ふと月雲は足を止めた。


「人の気配はここをまっすぐに行った所にあるよ」

「て、ことはそこにシンヤが……いるんだろうな」


 わらわらと小さな何かが湧き出てきて、進路を妨害する。

 姿形は一般人が想像する「鬼」に似ている。

 体長は五○センチほどだ。


「眷属か……(じゅ)(ごん)()が仲間にいるな」


 呪禁師とは薬や虫を利用する術を使う鬼祓師の一員だ。

 ここでいう眷属は俺たちで言うところの式神にああたる。

 媒体が紙ではなく虫を使い、それに陰気を集めて使役する術だ。

 式神と違って力は弱いが、一度使役すると特殊な箱などで保存が利くし、術者の手を離れても任務を全うする。

 何より数を扱えるのが利点とされる。


「時間稼ぎ、いやシンヤを出さない為か」

「どっちにしろ八代は行って」


 月雲はそう言いながら左手に祓い棒、右手に呪符を構える。


「この程度ならわたし一人で充分。後はこいつ等を倒して逃げ道を確保しておくから」  

「頼むぞ。すぐに戻ってくる」

「気を付けてね。まだ何かないとも限らないから」


 「ああ」と軽く手をあげ、そのまま印を結ぶ。


 結界を張りながらまっすぐに、進む。眷属が群がってくるが、俺の結界を破るほどの力はない。


「あなたたちの相手はこっち……おいでませ、セキ、アオ

 月雲が術を唱える。神道は精霊と契約して眷属として使役することができる。

 月雲が呼び出したのは二匹のオオカミだ。

 それは出てくるなり俺の周囲に群がる眷属共をなぎ倒す。頼もしいことで。


「頼むぜ、月雲」


 頼もしい幼なじみに、背中越しに声をかける。

 全く最高だぜ、おまえ達は。

 だからこそ、俺は二人の気持ちに答えないといけねえ。

 もう、俺と深夜だけの問題じゃあないんだ。


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