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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
5章 飛輪のウソ 
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親友たち

 雀がさえずる声を聞き、俺は朝がきていることに気づいた。

 そしてふと気が楽になった。


「みんな責任感を持ちすぎだ」


 子供の頃、もし俺に力があってその決断を迫られたら、それでも間違いなく静乃を助ける方を選んでいた。

 なぜって数多の知らない人より、彼女の方が大事だったから。

 もし俺が今責任を発揮しなければならない者がいるとすれば、大多数の哀れな被害者より、妹弟たちと深夜に違いないってね。


「俺はシンヤに説明した。鬼や悪魔を退治するのは仕事だってな。その延長にたまたま平和が付いてきただけの話だ。未成年の間に、仕事に他の事を犠牲にしたくはないね」

「それがお前の出した結論なんだな」

「もちろん正しいのは飛輪の方かもしれねえ。いや、実際そうだろうな。それでも俺は深夜を助けに行く」


 はっきりと俺の意思を二人に伝える。


「もちろん俺一人だと勝算は少ない。本当なら協力者が欲しい」


 相手は飛輪だ。

 もし事情を知れば全員が敵に回る可能性だって充分ある。


「お前等についてきてくれとはいえない。だけど俺を友達と思うならせめて報告するのを少し待ってくれないか。俺の力が及ばないのなら、まだ納得は……できないかもしれないけど誰も恨まなくて済む」

「何を言っているの!」


 月雲は黒くて大きな瞳で、まっすぐに俺を見上げてくる。


「あたしだって一人を生贄して助かろうなんて納得できないよ。わたしも八代に協力する」

「いいのか? 月雲」

「当たり前でしょ! わたしは自分たちが助かるために女の子を犠牲にしたりするのは嫌いだし、今ここで八代を放っておくのも嫌なの」

「すまない……いや、ありがとう」


 笑顔を向けると、「どういたして」と百点満点の笑顔を返してくれた。

 ああ、本当に、お前はいい奴だよ。

 感謝してもしきれねえ。


「理屈を優先するならお前らの行動を止めるべきなんだろうがな」

「清十郎……」

「だが理屈だけで生きていけるなら苦労はしない。それに感情が何より優先することもわかるつもりだ」


 清十郎はふと笑った。

 自嘲じみたものではなく、晴れ晴れとした表情で。


「俺も協力しよう」

「……いいのか、おまえまで」

「理屈では小角先生の、飛輪の方が正しいだろう。感情的に考えるなら女の子一人を生贄にするのは俺だって嫌だ。だったら俺は友の選んだ答えにつきあおう」


 無造作に伸ばしてきた右手を、俺は強く握りかえした。


「子供の頃からずっと一緒だったが、かくて飛輪全てを敵に回すときまで一緒とはな」

「これも腐れ縁だ。それに相生相克はお前達陰陽師の考え方だろう。もっとも飛輪を、もしかすれば世界中を敵に回すことになるとまでは思わなかったがな」


 確かにな。

 だが驚くほど俺は悲嘆がなかった。

 仮に世界中が味方であっても、二人が敵だったら俺はここまで前向きには思えなかっただろう。

 それほどに、二人は心強かった。


「でもさ」


 ちょとからかうような声で月雲が清十郎を見上げる。

「清十郎が感情と理屈を同じぐらいのウエイトに置くのって珍しいよね」

「それだけ、かつての静乃さんの死が俺には重たかったということさ」

「静乃おねえちゃんには一杯お世話になったものね」

「……まあそれだけではないがな」


 清十郎にしては珍しく言葉を濁す。

 どこか普段と違う様子には月雲だけでなく、俺も何事かと顔を覗き込む。


「……笑わないで聞いてくれるか?」

「今更俺たちがお前の何を笑うんだ」

「実は……俺の初恋の相手は静乃さんなんだよ」


 このとき俺はおそらくかなり呆けた顔をしていた。

 なぜなら思わず顔を見合わせた月雲が、口を半開きにした呆けた顔をしていたからだ。

 おそらく俺も同じ顔をしているに違いない。


「もし当時の俺に今ぐらいの力があれば、全人類を犠牲にしてでも彼女を選んだろう。だから同じ状況の今回はその頃の感情がどうしても高まってな。いや、だからといってあの子に気があるという訳でもないのだが……」


 普段冷静な清十郎が顔を赤くして、明らかに狼狽している。

 俺たちは珍しい物を見たことでしばし固まっていたが、やがて二人同時に吹き出してしまった。


「笑わないと約束しただろう!」

「いや、すまん。あまりもお前の顔が面白くて……」

「うわあ……今の写メで取っといたら良かった」


 腹を抱えて笑い転げる俺たちを、清十郎は憮然とした表情で睨んでくる。

 わりい清十郎。でもやっぱりお前は無二の親友だよ。

 チャイムの音でようやく解放された俺は、同じく涙目の月雲と一緒に立ち上がる。

 そして三人で顔を見合わせた。

 右腕を上げると、清十郎も同じようにあげ、互いの腕をぶつけ合う。

 月雲が笑顔を向けながら両手を上げ、俺たちは同時に月雲の掌の自分のそれをぶつけた。

 もう俺たちにそれ以上の言葉は必要ない。


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