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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
5章 飛輪のウソ 
34/54

小さな情報屋

 三人でいろいろ調べ回ったが、わかったことはそれほど多くなかった。

 ヨーロッパの方で「衰えた悪魔に呪文を唱えることで、活性化させ従えさせた魔女がいた。それを王が軍を指揮して退治した」だとか「悪魔に狙われていると騎士に助けを求めた娘がいた。だが娘こそが悪魔の母だと騎士が見破り討った」なんて伝承を、月雲が親父さんから聞いたこと位だ。

 魔女の件は偏見もあるのだろうが、その話が本当なら似たような能力者はいたことになる。

 実際調べてみると伝承としては世界的にそれっぽい話はいろいろあった。

 だが飛輪の記録には一切残っていない、と無数の資料を調べた清十郎が断言した。

 「ただし」と気になったことも話してくれた。


「凶事……お前達で言うところの陰気を集めて意図的にゲートを開くという禁呪は中世時代にあったようだ。今回のこととは関係無いだろうが、どこか似ている気がしてな」

 

望むところにゲートを開ける。

 深夜の目の前でゲートが開いたことを指して、そんな事をいったのだろう。

 あいつ自身は術などとは無縁だが、確かに言われてみたら近いな。


 俺の方も昔じいさんに紹介してもらった、いわゆる情報屋と連絡を取った。

 どこいうつてがあるのかは知らないが、金を払えば裏のこと、飛輪のことまで様々なことを教えてくれる。


「知らないな。もしかしたらいたかも知れないが、記録には残されていない。飛輪本部に問い合わせも無駄だろう」


 という忠告をくれた。

 このおっさん飛輪に所属していないモグリのくせに、俺たちより裏の内情に詳しい。

 何者かは未だ解らないが情報は正確だ。

 しかし飛輪が隠し立てする必要性というのがわからない。


「どうしたもんかな……」


 座布団を枕にして横になる。

 ここまで飛輪についてもやもやするのは、静乃が亡くなった時以来かねえ。

 あのときは何もかもを疑い、飛輪本部から来た人間に片っ端から食ってかかっていた。

 健在だったじいさんに折檻されたんだよな、確か。

 忘れていたぜ、そんなこと。


 最近どうも静乃がいた頃の記憶がよぎる。

 彼女が自ら生贄となった時と同じ状況が近づいてきたからだろう。

 そりゃ嫌でも思い出すだすわな……。


「静乃の時と同じ?」


 自分の声にドキリとした。俺、今何を考えた?

 状況は似ている。

 いや、似ているってワルプルギスの夜が来た事ぐらいだが……

 あの頃は静乃が二度と帰ってこないということに対しての怒りと悲しみで一杯で、他の事を考えたりはしなかった。

 だが一旦考えてしまうと、疑問が消えねえ。


 悪魔のゲートを一斉に閉めることが出来る、ナハトの乙女と名付けられた生贄の資質。。

 静乃はその能力をどこで知ったのか。

 そして誰からそれを聞いたのか。

 俺の覚えている限り静乃は一人で家を出ることはなかった。

 特に戦いが激化してからは、俺たち子供の面倒を見ていたから外出すら滅多にしなかった。

 深夜が悪魔に一度襲われてから能力が判明したように、静乃も自分の力が何なのか知るきっかけがあったはずだ。

 しかも生贄になるための能力なんぞ、普通に考えて自分一人で気付くなんてまずあり得ない。

 誰かから教えてもらったはずだ。

 じいさんや親父。

 彼女も俺たちと同じ学校だったから飛輪の関係者と接触する機会は確かにある。

 だが教えたのが飛輪の誰かだとしても、それはそれで疑問がある。


 なんで静乃がそんな能力者なんてわかるんだ? 

 霊力があるかどうか位ならともかく、いくら飛輪の人間でもいきなり「君が生贄になることで悪魔の門を閉める能力をもっている」なんてわかるわけがねえ。

 考えられるとしたら過去にもそんな能力者がいたことか。

 でもそれが静乃にあるって知ったのはどうしてだ?

 俺の知らないような入念な検査の結果とか?

 

「あるいはその能力者に共通の別の力があったとか……」


 自分の口にした言葉にどきりとなる。

 だが、まさか……。

 でもそれだと全てが繋がる。

 しかし俺の仮説が正しかったとしても、それを調べる手段はもう残っていない……。

 飛輪の本部の人間は言わないだろうし、じいさんはともかく親父はさすがに知らなかったと信じたい。


「静乃……あんたは……」

「静乃さんがどうしたの?」


 女の子の声に、ぎょっとして慌てて起き上がる。

 伊緒里が眼の前に立っていた。

 ま、居間だからいてもおかしくないが、部屋に入ってきて声をかけられるまで、俺が気付かなかったことに何より驚いちまった。


「静乃さんって昔うちにいたっていうあの静乃さんよね?」

「ああ、ちょっとな……」


 伊緒里も静乃のことは知っている。

 本人がどこまで覚えているかわからないが、小さな頃面倒を見てもらっていたし、彼女と一緒に映っている写真だって残っている。


「彼女がいた頃にあった大きな事件がもうじき来るんだ」


 妹弟二人には詳しいことは話していないが、うちの子だ。

 父と兄が何か大きな事に巻き込まれているのは、肌で感じているだろう。

 こういうとき、親や兄なんてのは子供や下の妹弟に心配をかけまいと黙っていたりするが、そういうのは子供ながらの感受性で結構気付いていたりする。

 そして自分になぜ話さないのか不安に思ったりするもんだ。

 何せ俺がそうだったからな。


「それでその頃のこと思い出してさ。お兄ちゃんいろいろ考えていたんだよ。伊緒里も協力してくれないか?」

「どんなこと? わたしでわかるかな?」

 

 案の定、真面目な顔でこっちを見つめ返してくる。

 話すだけでも頼られている、仲間はずれにされていないという安心感ができる。

 少しでも不安が解消できるなら、こいつに質問する意味はあるだろう。


「さっき名前をだした静乃だけどな」

「うん」

「あの人って亡くなったじいさんの知り合いで、その頃なんかの能力があったみたいなんだ。もしかしたら今回の事件に関係するかもしれない。それを一緒に考えてくれないか」

 

 伊緒里はこっちを見つめていた瞳をふと天井に向ける。

 サイドで結んだ髪の毛が大きくゆれるのが真っ先に眼に入り、俺を見る大きな瞳が続いた。


「元気にする力だって」

「え?」

「怖い人を元気にする力があるって。でもそれが役に立てるって静乃さんが言っていた」


 言っていたって……直接聞いたのか。まさか……。


「お前……そんなちっちゃな頃のこと覚えているのか?」

「誰が言ったかまでは覚えていなかったけど、でも昔誰かに膝の上にのせられてそんな風に話しかけられた事があるの。パンダか何かのぬいぐるみを抱いていたと思う。みんなには内緒だよ、って頭をなでてもらったよ」


 思い出した。

 確か静乃はものすごく不細工なパンダのようなキャラクターを気に入っていた。

 そのぬいぐるみは静乃がいなくなった後、八つ当たりで俺がだいなしにしたのだ。

 それがまだあったころの記憶なら、おそらく伊緒里は正しい。


「伊緒里、お前すごい奴だよ!」


 思わず抱きしめて頭をなでる。

 静乃は何も言わずに自分一人で抱え込んでいた。

 だがやっぱり彼女も人だ。

 何も知らない、小さな伊緒里に自分の事を話したのだ。


「お兄ちゃん……苦しいよ」

「ああ、悪い」


 腕の中で暴れる伊緒里を慌てて解放する。

 文句を言おうとしたようだが、何も言わずに苦笑いを浮かべただけだった。

 確信できた。静乃がどうして生贄に選ばれたのか。

 そして深夜の能力を、飛輪がひた隠しにしている理由にも。

 だけ俺の考えが正しいってことは、俺は選ばないといけない選択肢が出来たって事になる。

 俺なんかの手には余る、とても大きな事を

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