新たなる序章
夜の街を全力で駆ける。
闇にうごめく鬼や悪魔を狩るのが俺たち、陰陽師の仕事だ。
ワルプルギスの夜が近いといえど、鬼にそんな事情は関係無い。
今日も誰かの怨念で生み出された鬼が、逢魔の刻に這い出てきては人を困らせる。
今回の鬼は動物の恨みだ。
保健所で殺処分された動物達。
飼い主の勝手で飼われ、処分された動物たちの怨念が鬼と化して暴れ出したのだ。
ま、よくあることだ。
保健所ってのはそういう場所だから、俺たちの仕事とは切っても切れない関係にある。
責任者から依頼を受け、定期的に祓いの儀式を行っている。
そしてこれもよくあることだが、責任者が替わると俺たちのような仕事を鼻で笑い、ないがしろにする者もいる。
今回それがたたり、鬼が現れたってんで慌てて連絡してきたって話だ。
そういう鬼は様々な思念が混じっているから、人間全体に害をなす。
保健所の周辺で潜んでいた鬼を術でいぶり出し、今こうして術的結界を張った路地に追い込んでいた。
足を止める。
目的の場所に、狩り場についたからだ。
追い込まれた鬼は、見る者全てを呪い殺そうとするかのような形相で俺を見据えていた。
まさしく鬼の形相だ。
「悪いな。生まれ出た理由には同情するが、これも仕事なんでね」
印を組みながら術を唱えていく。
鬼は俺に反撃しようと暴れるが、元より様々な術で縛られている上に結界に追い込まれている。
矢継ぎ早に唱えていく術に抗うことは出来ず、最後に放った五芒星から繰り出した術の前に消滅した。
「成仏してくれよ」
悪魔達との決戦に備えてやるべきことがたくさんある。
この程度の相手に長引かせたくない。
「動物の怨念か……」
そういやマヤも元々捨て猫だっけな。
あの顔の傷が原因で捨てられたんじゃあないかと言っていたが、もしあいつが拾わなければ、こうして鬼化して俺に狩られていたのだろうか。
「いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな」
後は溜まった陰気を浄化して終わりだ。
そのままにしておくと分散した鬼の陰気が、よくない影響を周辺に与えるからだ。
禊祓いという陰気を追い出す為の儀式の準備を行う。
そうだ、余計なことは考えなくていい。
俺ができることをただ、やっていけばいいんだからよ。