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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
4章 女王蜂
28/54

急転

「まずは黄泉坂の能力についてから説明しよう」


 俺んちの客間。

 客間というのは人が泊まるときに使うことが多く、便宜上そう呼んでいるだけだ。

 実際は二十何畳かある、家族が使わない部屋だ。

 そこに俺たち、俺、小角、清十郎、月雲、深夜。

 それから帰ってきた親父の六人が畳の上に座っている。

 足下には母さんがさっき入れていったお茶が、人数分あった。

 この人数だと狭い方でも大丈夫だが、そっちは深夜が使っている。

 悪魔に壊されなかったかって?

 それはあの日俺が気を失っている間に、親父の式神が綺麗に直してある。

 戦闘はからっきしだが、うちに常駐している式神たちはこの手の修理に優れているのだ。


「その前にもう一度尋ねるが八代、今の悪魔が黄泉坂の声に反応したというのは間違いないな」

「多分な。確証はないんだが」


 普段は遠間と呼んでいるのだが、親父がいるので今日は珍しく下の名前で呼ぶ。


「おそらく間違いないだろう。報告でも最初の悪魔は黄泉坂が悲鳴を上げてから牙のようなもので攻撃を仕掛けてきたとある。それにバアルもな」


 黒い傷がはがれて肉体が現れたことを言っているのか?

 それが深夜の悲鳴と関係していたか……実はよく覚えていない。


「結論から言おう。黄泉坂の能力はただ悪魔の餌だけではない。悪魔をおびき寄せ、力を促進させる能力を持っている」


 その場の小角以外の視線が深夜に集まる。

 全員に注目されたためか、深夜は正座して膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。


「黄泉坂の身体から、奴らにとって栄養満点の源が溢れているということだ。奴らにとってごちそうであり、陰腐のような低級悪魔なら進化を促すほどのな」

「そんな能力があるのか? 悪魔の蜜蜂や『花嫁』など、吸収や特殊な儀式を行うことで悪魔の力を得る能力があることは知っている。だがいるだけで発動するなんてものは初耳だ」

「それも感情が溢れたときに強く漏れ出るようです。これは八代の、ご子息の報告による推論ですが」


 親父の疑問に即答する。

 「うーむ」と親父がうなった。

 おっさん、陰陽師の戦闘頭のくせに知らないのかよ。


「我々は『女王蜂』と呼んでいる。高純度の蜜を身体から発し、その恩恵にあやかろうと悪魔達が群がる。本能的にな」

「ということはこいつの力はもう目覚めていたのか?」

「そうだ。ダイダラボッチが精兵部隊が張った強力な術結界を破り、しかも霊的結界をものともせずに侵入して奪おうとしたのだ。もうその時点で、……いやその前にマンションで悪魔に襲われた時点で目覚めていたのだろう」

「おかしくないか? 俺が護衛に付いていたけど、そんなきっかけなんかなかったぞ。なあ、シンヤ」

「え、……はい。そう……です」


 清十郎に続くと、うつむいたまま深夜が頷いた。


「黄泉坂さん。あなたの事なんだから、ちゃんと聞かないと。意見もあるなら言って」

 月雲が注意を促すが、深夜は押し黙ったままだ。

 こいつは人目があるとこんなか、反発するかのどっちかなんだよな。


「もしかしたら遠間が護衛になったことで目覚めたのかもな。元よりこういった能力はあやふやなものだ」


 深夜のことを是正する間もなく、小角が続ける。


「能力が発現しないようになるべく日常生活を妨げないようにしていたが、こうなった以上、今のままにしておく訳にはいかない。今後は『飛輪』のきちんとした施設に隔離し、彼女には充分な警備態勢を取らしてもらう」


 ちょっと待て。


「隔離! 学校も休ませるんですか?」


 真っ先に反応したのは月雲だ。


「そんなのあんまりじゃあないですか!? 八代の負担が大きすぎるなら夜ここに何人か泊まり込むとか、いろいろあるじゃ無いですか! 今更知った人間以外は嫌だって黄泉坂さんも言いませんよ!」


 月雲が声を荒げる。

 深夜に対して好意的とはいえない感情を抱いているようだが、だからと言ってその人が不幸な目に合うことを許せないのはこの幼なじみの最大の美点だろう。


「それが悪いとはいえん」


 そっと口を挟んだのは清十郎だ。


「ここが霊的に強い所とはいえ、専門的な場所では無い。ただでさえ八代の状態が悪いのだ。しかも悪魔の力を強めてしまうのでは護衛側の負担がはかりしれん」

「清十郎は賛成だっていうの! 知り合いも誰もいない所で一人閉じこもっているのってすごく辛いのよ?」

「月雲の意見はただの感情論だ。このままだと彼女を守り切れない」

「おい、清十郎。俺じゃあ不足だと?」

「普段なら言わんが今のお前を見るとな。ただの陰腐がああまでなり、しかも果てとなく攻めてくるのだ。それからお前は絶対守り切れるとでも?」


 ぐうのでもでない。

 確かに現状霊符を使いつぶし、三角巾でつった左肩からして万全では無い。

 深夜の方を見ると不安なのか顔を下に落としたままだった。

 畜生、情けねえ……


「決まりでいいな」

「……シンヤの意思は?」

「悪いが彼女の意見を尊重できる状況では無い。だが君も悪魔を見たからそれがどんなものかわかるだろう? 担任では無いが教師として自主的に動いてもらえると助かるのだが」

「あ、あたしは……」


 指名された深夜は青ざめた表情で何かを言おうと口を開け閉めしている。

 何を言おうとしているのか自分でもわからないのかもしれねえ。


「小角君」


 親父がそんな状況に一石を投じる。


「今回は激戦直後で調子のあがらないせがれを、一人残した私にも責任がある。子供であるひいき目を抜いても、仕事に抜かりがあったとは思えない。決めつけるのは尚早では?」


 全員が親父のひげ面を見上げる。


「今後は私も家にいることが増える。四六時中とは言えないが、不在時の術も強化して行う。責任を持ってな。まさか私を不足だとは言わないだろう?」


「遠間さん、飛輪の決定です。それにあなたには他の重要な任務が与えられます」

「私に?」

「それほどの重大な任務なのです」

「この間のダイダラボッチ級ということか? ……それなら仕方が無いが」

「……だったらせめて避難先に知った人間を護衛に置かせろよ」

「無理だ」 


 せめてそこで俺が護衛をする、と言おうとしたが真っ向から否定される。

 立ち上がって言い返そうとしたが、小角の次の言葉に俺は、俺たち全員は二の句が継げなかった。


「なにせワルプルギスの夜が近いからな」


 小角はただそれだけを淡々と告げた。


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