助太刀
俺が行動を起こそうとした、その瞬間だった。
何かが、俺と悪魔たちの間に忽然と現れる。
今までは確実にいなかった。
「え? なんで人が!」
深夜の疑問通り、そいつらは黒いスーツを着た人間の男性、に見える。
突然現れた獲物に悪魔たちが俺からそいつ等に矛先を変える。
男達は首や足を噛まれ、次々倒れていった。
「ひ」と深夜が悲鳴を上げかけるのを振り返って口を押さえる。
「大丈夫だ、落ち着け」
その瞬間爆発がおこり、鬼達を吹き飛ばした。
「爆発! なんで?」
「あいつらは式神だ」
俺の声に応えるように、鈴の音が鳴り響く。
音の所には、いつの間にか和装の人物が二人。
二人は人間としては小柄で、それぞれお面をかぶっている。
片方は馬。
片方は牛。
「あ、あいつらは?」
「あれも式神だ」
「え、どうみても人間……」
途中で言葉を止めたのは、人間ならざる気配を感じたからどろう。
この二人、いや二体は俺の見知った奴らだ。
馬の仮面を馬頭。
牛の仮面を牛頭。
共にじいさんが使役した上位式神で、長年遠間家を守護していた。
二体はおじぎするように頭を一度さげる。
それからものすごい速度で悪魔たちに襲いかかった。
形成逆転とはこのことか。
圧倒的な力で、二体の式神は悪魔たちを蹂躙していく。
じいさんが天国から孫を助けるためによみがえった、なんてことはない。
俺は近くに来ているであろう、現使役者ににいっと笑ってみせる。
「小角、いいタイミングじゃねえか」
「先生ぐらいつけたらどうだ」
全く感情の抑揚もない普段の通り、我らが高校教諭小角がスーツ姿でゆっくりと姿を現す。
それからもう二人。
俺の通う学校の制服を着た、一組の男女。
「いいところだったな」
「お前、タイミング狙っているだろ?」
「さあな」
「清十郎、話は後でしょ」
「そうだな月雲。毎回悪いね」
なじみの幼なじみの顔だった。
あとはあっという間だった。
牛頭と馬頭は戦闘力は圧倒的で陰腐ごときが太刀打ち出来る物ではない。
それに清十郎と月雲の二人が加わるのだ。
ものの数分で陰腐は完全に消滅し、周囲は元の景色へと戻っていった。
「終わったのか……」
結界を解くと、今更ながら左肩に激痛が走った。
思わずうめいて膝をついてしまう。
「八代!」
女の子の声。
地面を蹴る足音が続き直後に誰かが、首元に抱きついてきた。
長い黒髪が俺の顔をなでる。
「月雲……、助かった。礼を言うぜ」
「そんなのいいよ。それよりすごい怪我じゃ無い! すぐに治療の祈祷をするから!」
「大丈夫だ……」
「大丈夫じゃ無いでしょ!」
「わかったから……耳元で怒鳴らないでくれ。傷に響く」
女の声ってのは、どうしてこうもキーンと来るのかねえ?
「どちらにしろ路上でやるべき事では無いな」
やせぎすの身体にスーツを纏った男が、こちらに声を投げかける。
「小角せんせーが来てくれるとは思わなかったぜ」
「いろいろと話すことがあったついでだ。黄泉坂のことも含めてな」
「え?」
「いろいろ聞きたそうだな。もちろんだが落ち着いた所に行く必要がある。……そうだな、遠間の家にお邪魔しても大丈夫か? 君たちもそうだが、遠間のお父上にも説明したい」
教師として保護者に、って話じゃあねえな。
飛輪の上司に対しての報告ってなら、俺には止める権利はない。
親父なら夜には帰ってくるだろう。
「俺は当然大丈夫だ」
隣で月雲が、錫杖を一般の人に見えないように術をかけていた清十郎が遅れて頷く。
「君も構わないな、黄泉坂?」
「え? ……はい」
深夜はというと、俺のすぐ後ろで立ちすくんでいた。
上の空って感じで返事する。
やれやれ。悪魔が怖かったのか、それとも人が突然増えたから緊張したか知らないが。
「怪我は無かったかシンヤ」
「……あたしは、無いよ。八代こそ大丈夫なのか?」
「重傷ではない、だろう。多分な」
「なんだよ、情けないな」
近づいて話しかけると、ぎこちなくもいつもの通りの口調で笑顔をむけてくれた。
「違いないな。格好悪くてすまないな」
笑みを返すとシンヤはうつむいてなにやら喋る。「……なのに、……って」とわずかに聞き取れるが意味まではわからない。
まあとにかく帰ろうぜ、お姫さん。
情けなくも月雲に肩を借りながら、俺はなんとか立ち上がった。