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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
4章 女王蜂
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任務完了。そして新たな任務

「もう大丈夫なのか?」

「八代、あまり無理はしない方がいいよ」


 第二視聴覚室に入るなり、二人が同時に声をかけてくる。


「寝不足でぶっ倒れただけだ。大げさなんだよ」


 さすがにバアルと戦った後、気がついたら用実の夕方で学校は必然的に休むことになった。

 日曜日を挟んだので学校には三日ぶりだ。

 それでも二人は土曜日にうちに来ている。

 月雲は昨日も二時間おきぐらいにメールを飛ばしてきているから、元気なのはわかる筈なんだがなあ。


「さすがにあれほど強力な悪魔と単独で戦った者はいない。後でどんな後遺症があるか心配なんだよ。面倒くさがるな」


 へいへい。

 まあ、清十郎はいつもこんな言い方だが本当に心配してくれているのはよくわかる。

 俺としてもあまり強くはいえなかった。


「やっぱり……あいつはシンヤを狙って俺んちに来たのか?」

「それは間違いないだろう。でなければ手負いの状態で、霊的結界の強いお前の家に乗り込んだりはしない。……逆に言うならあの日お前が彼女を連れて帰らなければ、彼女は危なかった事になる」

「ああ、親父から聞いたよそれは」


 そのおかげで守ることが出来た、そうだ。

 怪我させちまったことを俺が気にしていると思っての、慰めでは一応無かったわけだ。


「でも気になるよね……」


 形のいい顎に指を当てながら、月雲がきりだしてくる。


「黄泉坂さん、今回の事件解決しても、能力がなくなってないんでしょ?」

「……まあな」

 つまりあいつはまだ悪魔たちにねらわれる状況下にあるってわけだ。


「他にも気になることはある。悪魔の密壺、と呼ばれる能力者は過去にもいた。だが、それがバアルほどの悪魔を呼び寄せたなんてことは聞いたことがない」

「そうだけどさ、清十郎。たまたま現界にでていて、ヤバい状況だったってだけじゃあないのか?」

「だとしてもだ。結界に守られている、八代の家を襲ってまでのメリットが奴にあったとは思えん。あれは……」

「何か思いついたのか?」

「思いついたと言うほどではないが……悪魔が本能的に求め、居場所すら特定し、集まる。バアルですら直接傷つけたがらない。まるで悪魔の女王だなと」


 女王、ねえ。

 ま、確かにわがままで偉そうな所とか姫様みたいではあるけど。


「それに直接ゲートが彼女を狙って開いたのも気になる」


 最初の襲ってきた悪魔のことだ。

 これは俺もずっと気になっていた。

 普通『門』てのがひらくときは前兆があるし、それも場所に現れる。

 深夜を取り込む形でひらくなんて、前例も聞いたことがない。


「偶然……で片付けられないよな」


 清十郎が無言で頷く。

 思わずため息を吐いた。解っていることなんてほとんどねえや。


「俺らに出来ることは結局、シンヤをそのときまで守ることだけか」


 力が消えていない以上、まだ危険はある。

 だから俺はそのまま任務継続だと指令が出ている。


「……八代、今日も黄泉坂さん送って学校にきたの?」

「ん? ああそうだぜ。元々それが仕事だし、俺につきあって土曜とか学校を休ませたみたいだしな」


 授業なんか受けなくても、テストでいい点は取れるそうだし、元々不登校気味だったがね。


「黄泉坂さん、八代に甘えすぎじゃ無いの? そんなんじゃ八代が持たないよ」

「月雲、だから俺は大丈夫だって……」

「大丈夫じゃ無いでしょ!」


 あれ、月雲さんひょっとして怒っている?


「悪魔に狙われているのはあの子なんだよ。閉じこもってろとは言わないけど、もっと協力してくれていいと思うの。悪魔がどれだけ怖いかもうわかっているんでしょ? それなのに今も八代に頼りっぱなしで……八代もう少しで死んじゃうとこだったんだよ?」


 俺じゃなくて、怒りの矛先は深夜か。


「あのときわたし達八代を信じて準備をしていたけど、それだって本当にもしと思って気が気じゃ無かったんだから……。結果的に助かったけど、それだって運が相当良かったんだよ? あの子がもっと最初から協力的だったら他にも対応とか……できて……」

「いい、ありがとう月雲」


 涙目で訴えなくてもお前の気持ちはわかるさ。

 俺だって月雲が危険な眼にあわされたら怒る。

 大切な、幼なじみだからな。


「さすがにこの間の悪魔は想定外だ。あれは俺たち飛輪全てのミスだ。むしろ八代はよくやった。さすがに彼女を責めるのは筋違いだ」

「でも……」 

「いや、月雲。確かに結果論かも知れない。だけど考えてみろよ? 最初の予定通り月雲が護衛をしていたらどうなっていた? 俺だってお前になるべく危険な眼にあって欲しくない。だから、俺で良かったんだ」


 月雲は涙目のまま頷く。


「だけど……ダイダラボッチは倒したし、今なら他の仲間も手が空いている。八代でなくても……」


 鬼や悪魔と戦う以上、俺たちに危険は避けられない。

 それは月雲にもわかっている。

 だけどそれと感情的になるかどうかは別物だ。

 俺たちはそんな風に覚悟を決めて達観できるほどの領域に達していないし、きっと仲間の死を簡単に受け入れるようになったら駄目だと思う。


「前のはイレギュラーだが、それ以外で八代が今回の仕事で不足があることはない。それに知っての通り突然目覚めた能力者は、心が不安定になるのがまずいのは知っているだろう? 八代の話では、あまり心が落ち着いている娘ではないようだから特にな。八代が一番安心できるのなら、八代に任せるのが一番いい。それに八代の親父どのも、家にいることが多くなる。飛輪最強の陰陽師のな」

「俺を信じろよ。それにさ、俺に何かあったら二人はすぐ駆けつけてくれるんだろ? それとも月雲は助けに来てくれないのか?」

「そ、そんなわけないでしょ」

「そうか、信じているぜ月雲。清十郎もな」


 そうだ。

 二人が絶対助けてくれると信じているから、俺だって無茶が出来る。

 だからさ、泣くな。

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