伝説の巨人
「もう一度言うぞ。陰陽師は悪魔との取引に応じない。あるのは貴様等を現界から追い出すか、消滅させるかの二択だけだ」
愚カナ。後悔スルゾ。
「お前がだろ。余裕ぶっているんじゃねえ」
……ナンダト
「お前実は一杯一杯だな? その黒いの鎧っぽく見えるけど実は傷だろ。少しだけ見えている身体に比べて光沢がまるで違う。その傷はどうした? 誰にやられた?」
希望的ナ観測ダナ
「言いたくないなら言ってやるよ。お前は他の鬼祓師達に追い込まれているんだろ? その状態で無理矢理霊的結界を破ってまでシンヤの力を狙ったんだ。力なんか残ってないだろうよ。シンヤを手に入れるためには、ここにいる俺が邪魔ってわけだ。もう危ない橋をなるべく渡りたくない。だから俺を遠ざけたいってところだ」
考えるまでもなかった。
バアルなんて大物が、何匹もこっちに来ているわけがない。
こいつ先月封印から解け、親父達が夜な夜な追い回している封印されていた悪魔だ。
「悪魔の蜜壺だったかな。人間の中に、時折悪魔の霊的なエネルギーとなる器がいるらしいな。夕方の悪魔もいきなり襲ってきたが、てめえもそうまでして来るってことは相当なエネルギーなんだろうさ」
いきなりゲートが開いたことは、このさい置いておくとしよう。
「な、そうだろう。日本では『ダイダラボッチ』って呼ばれているよな」
日本中でその伝説を刻んでいる大悪魔だ。
むろん俺なんかがまっとうに太刀打ち出来る相手なんかじゃあねえ。
だがこいつは数百年前に、当時の法力僧に重傷まで追い込まれたままだ。
しかも目覚めたところで強力な鬼祓師に狙われ、俺んちにある霊的結界を無理矢理破ったのだ。
無事ですむ訳がない。
己ヲ過大評価シスギダナ。地獄デ後悔スルガイイ
「そうさせてくれよ」
同時だった。
奴の頭が黒く光るのと、俺がかがみ込んで移動するのが。
おそらくは先程の光線を放とうとした奴の動きが躊躇する。
それをみるや結界に使うつもりだった霊符をから別の霊符を投げつける。それは奴の右手から放たれた光によって妨げられ、霊符は床に落ちた。
「後悔させてくれるんだろ?」
あいつの表情はわからないが、人間と同じなら歯ぎしりしているところだろう。
やはりあいつは深夜を多少傷つけても殺すことは出来ない。
俺が深夜との直線上に入ったから攻撃を躊躇った。
初撃の時も無造作に見えて、倒れている深夜に当たらないようにしていた。
むしろ俺と戦うことを避けようとしたのはこっちが理由かもな。
深夜の能力が悪魔にとってどういうものかまだわからない。
あいつらにとっては生きていないと意味が無いことは良くわかった。
躊躇わずに撃たれていたらやばかったが、危険に見合った成果は得られた。
「シンヤ、悪いが少しばかり待っていろ。巻き込まれないようにな。動けるか?」
「う、うん」
声をかけると慌てながらもしっかりした声が返ってきた。
「あたし八代を信じる。だからお願い……八代も無事で」
「当然だ」
嬉しい事を言ってくれるじゃねえか、お姫様よ。
だったらそれに答えるのが侍ってもんだ。
俺は侍じゃ無くて陰陽師だけどな。
「さあて、それではとことんやり合いますか。ダイダラボッチの旦那」
左手で何枚もの霊符を握り、右手で印を組み、俺は不敵に笑って見せた。
奴の身体が動くのに合わせ、俺は矢継早に術を唱えていく。
術の猛攻が、悪魔の身体に吸い込まれていった。




