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深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
3章 黄泉坂深夜 
11/54

護衛5日目


「よう、お待たせ」

「待たせすぎだ。馬鹿野郎」


 出会うなり八重歯を向けて噛みついてくる。

 こいつ本当に口汚いよな。まあ何にしろ朝夕ずっとこんな感じだし、だいぶ慣れた。


「何してたの?」

「いつも通りだよ。二人と打ち合わせ。仕事は他にもあるからな」

「面倒臭そうだな」

「……まあな」


 むしろここ最近ずっと機嫌が悪い月雲をなだめるのが、何より面倒臭えんだが。

 ま、こいつにそれを愚痴ってもしょうが無い。


「忙しいんだな、陰陽師って」

「正確には学校で陰陽師は、俺と小角だけだ。俺たちのようにそういった力を持つ者をまとめて鬼祓師と説明しただろ? 清十郎は法力僧。月雲は神道だな」

「そういや八代ってまあまあ腕がいいって話だけどどれぐらいなの?」

「正七階位だからそれなり」

 

 陰陽師というより飛輪の定めたランクだ。

 数字が少ない方が高い。

 ちなみに清十郎も同じ七階位である。

 それを伝えると「本当にまあまあかよ」と小馬鹿にした口調で悪態をついてくる。

 ……それぐらいじゃあ怒らないよ?


「じゃあさ、八代。式神って奴を使えるの? 陰陽師って何なのか少し調べたんだけどさ、あれって動物とか人間の姿をとれるってホントか?」

「小角や親父なんかは出来るな。……俺はあまり得意じゃ無い。連絡程度」

「なんだよ。まあまあじゃなくて実は落ちこぼれかよ」

「うるせえな。得意不得意の問題だよ。俺は(じゅ)や祓いの方とか、神行業の術とかの方が得意なの。……学校で話すことじゃないな。いくぞ」

「へいへい」

 文句を言いながらもきっちりついてくる。

 さすがに口ほど性根が悪いわけじゃ無いことは数日で理解している。

 護衛を始めてから朝は毎日迎えに行き、帰りは授業終了後、だいたい三十分後にこうやって待ち合わせて帰っている。

 今のところこいつにも周囲にも異変は起こっていない。


 さすがに一週間、スーパーに寄ったりするのも含めて一緒だったりするから、口の悪さ以外にこいつのこともある程度わかってきた。

 まず髪の色だが元来この色らしい。

 中学生の時までは逆に黒く染めていたという。

 眼鏡は伊達だったらしく、視力は二・0とのことだ。

 ゲームばかりしているくせに。

 次にこいつ、オーストラリア人の祖父がいるとは聞いていた。

 が、どうも祖母がマレーシア人やらと日本人のハーフで、母親がその更にハーフ。

 父方の祖母がロシア人の血を引いているらしい。

 むしろこいつは何になるんだ?

 クォーターじゃないよな?

  それで住んでいるマンションはその祖母の家で、昔から出張しがちな両親のため、よくこの街に来ていた、と言う。

 祖母は昨年亡くなたらしいが、両親が海外へ行くので住み慣れているこの街に来たとのことだ。


 後は……そうだな。

 想像通りオカルトとか古代文明が大好きらしく、ほとんどその話ばかりしていた。

 突然地球に現れ、突然姿を消したシュメール人は、実は宇宙からの民だとか、ムー大陸の場所や消滅した理由についてのこいつの見解。

 地球上にかつて核戦争が行われた形跡があるのは、かつての超文明の名残だとか、まあそんなこと。

 子供の頃から人が感じないものに対して、妙な勘が働いたり見えたりしたから興味が湧いたとのことだ。

 やはり霊感は昔から高かったようである。

 だからかどうか知らないが、今日の昼食時とかみるにこいつは友達がいないようだ。

 学校にあまり行っていないのは、単に面白くないからかもな。

 問いただしたら傷つくだろうか。

 でも訊いた。

 俺はもしかしたらサドの毛があるのかもしれない。


「あたし美人だから敬遠されているんだよ。は、綺麗すぎるって考えものだ」


 俺のサドっ気などお構いなしでのたまう。

 多分お前の場合、主原因は性格だと思うぞ。

 月雲の一件でうすうす思っていたが、今ので確信した。


「それでこの間のテレビでやっていた奴だけどさ」

 

 表情を輝かせながら、今日もオカルトの話をする。

 いつも不機嫌だが、今みたいに楽しい話をしているときの表情は肌が白いこともあって輝くようにぱっと明るく見えた。

 ま、美人なのは否定出来ないかな。


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