表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深夜に起こる、エトセトラ  作者: 在原 旅人
3章 黄泉坂深夜 
10/54

護衛任務 初日

 なし崩し的にこいつの護衛が始まった。

 深夜は三十分ほどかけて、歩いて登下校しているとのことだ。


「なんで自転車にしなかったんだ?」

「最初はバスだったんだよ」


 それだけ応えると、ずんずん前に進んでいく。

 何が気に入らないのか、ずっと不機嫌な顔のままだ。

 俺たちの仕事について質問でもされ、どこまで応えていいかとか考えていたのだがそれは杞憂に終わった。

 というかほとんど無言である。

 最初の時といい、教室といい愛想はよくないものの、もうちょいしゃべる奴だとは思ってたんだが。

 俺の方が沈黙に耐えかね、髪の色とか家族のこととか。

 好きなテレビ番組とか。

 当たり障りのない質問をしてみたが、面倒臭そうに答えるか「どうでもいい」のどっちかだ。

 温厚な俺でもさすがにイラっとなるよ?

 そんな気まずい空気を、二十分以上をすごしたころだ。

 風景に既視感があった。

 いつぞや深夜が、猫を探していたのはこの辺だったと気がついた。


「お前の猫元気? 特に後遺症は残っていないか?」

「……おかげさまで何事もなく元気にしているよ」


 空気が少し弛緩した気がする。

 さすがに家族というだけあって食いつきがいいようだ。


「あの猫の名前マヤだよな? あれ、お前の名前から取っているの?」 

「違うよ馬鹿」


 え、今馬鹿って言われる所?


「マヤにはもっと壮大な、それこそ浪漫とか溢れる名前をつけているんだよ。歴史とか文明に関わるような」


 文明って言われても四大文明すらぱっと出てこないが、それはわかった。


「もしかしなくてもマヤ文明とかインカ帝国のマヤか」

「幼稚園児でも知っているような常識だろう」


 たぶん小学三年の弟は知らんし、平均的な小学低学年はわからんだろう。

 こいつの常識は少し俺たちと違うらしい。

「好きなんだな。そういうミステリーが」

「……変か?」

「なんで?」


 身長差があるので深夜が普通に前をみていても、俺からは派手な頭頂部しか見えない。

 視線を少し外して戻すと俺を見上げていた。

 白い顔と前髪の下にある不思議な色の瞳が見える。

 他国の血をひいているんだなあと実感する。


「昔すごい文明とか至る所にあったじゃん」

「らしいな」


 学校を出てから、初めてこいつから話しかけてきたな。


「今の科学でも作れないような建造物とか道具が時々見つかるじゃんか。知っているか? 何千年も前の遺跡でロケットの絵が描かれているんだぜ。しかも同じ所じゃ無くて大陸すら違うのに同じようなのがあったりするんだぜ」

「ああ」


 なんか聞いたことはある。


「あたしらの最先端技術でも宇宙には滅多にいけないのに、当時の人達は行っていたかも知れない。日本人が土器とか作っている時代にだぜ。しかも当時では作れないようなオーバーテクノロジーが普通にあるんだ。そんな科学どうやったら出来ると思う?」

「なんかあるのか?」


 尋ねると俺の見間違いでなければ、得意そうな顔を浮かべている。


「あたしの見立てではたぶん地球外の高度文明の人間と交易していたんだ。昔の人はテレパシーとかそういう文化があったんだよ。だから今より簡単にそういう人間と交信できていた」


 はっきりとは言わないが宇宙人と言いたいんだろう。


「あたしらあたり前に持っているけどさ、今の時代、携帯電話の広まり方は二十世紀末ぐらいまで想像していなかったんだろ? 遠い誰かと交信するっていうのは人間の本能なのさ」


 何だか生き生きしはじめてきたな。こいつ。

 ゲームをしているときに妹と、ちょっと通ずる。


「何千年も前は交流があってさ。テレパシーとかで連絡し合っていたんだ。だから至る所で文明が発展したんだ。今はその技術が失われているから連絡つかないけれど、それも近いうちにまた繋がるようになると思うんだ。どうだこの説!」

「そうじゃないかな」


 昔の事なんて知らんし、そもそも鬼だって一般の人は知らない。

 こいつの言う連中がいてもおかしくないし、そういうことだって全然ありえるわけだ。


「だったらいつか携帯で神様ともお話する時代が来るわけだ。長生きしないとな」

「大丈夫さ。お前みたいな奴は百過ぎても元気にしているさ」


 なんだ嬉しそうに。

 そうこうしているうちに家に着いたらしい。

 指差したそれは、前に鬼と戦った所からそんなに離れていないマンションだった。

 高校生の一人暮らしには過ぎたものだが、想像していたより普通だ。

 ぼろくはないがけっこう築年数がありそうだし、入り口前にテンキーもない。

 きっちりマンションの入り口までついていき、部屋では霊符を貼るようにもう一度説明する。

 やれやれ、忘れるんじゃあ無いぞ。


「なあ」


 帰ろうとしたら背中から声をかけられた。


「明日、朝はうちに迎えに来るの?」

「まあそういう事になるな」

「あたし朝弱いからさ。家出るときに電話してよ」


 そう言って手早く携帯の番号を表示すると、俺に見せる。

「俺は目覚まし代わりか?」


 意地悪に犬歯をみせるだけで、こたえてはくれなかった。

 ともあれ連絡先は知っておいた方がいいのはたしかで、携帯にそれを入力する。


「じゃあ明日よろしくな、八代」


 登録を確認すると、さっさと降りてきたエレベーターに乗り込んだ。

 相変わらず勝手だが、心なしか表情が柔らかかった気がする。

 やっぱこいつ、わかんねえな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ