プロローグ
それは八年前のある日のことだった。
俺はいつものように彼女と、雁谷静乃と一緒に過ごしていた。
「八代、もう暗くなってきたし帰ろうか」
「静乃、もうちょっとだけ遊ぼうよ」
確か彼女と外にお出かけしていたのだと思う。
俺は彼女と二人きりでいるのが嬉しくて、そんなわがままを言ったんだ。
「こらこら。遅くなったら駄目なことは知っているでしょ」
叱るような口調で、彼女は俺に「メッ」と怒ったような表情を向けてくる。慌てて立ち上がるといつものように穏やかな笑顔を向けてくれた。
年上の、優しくて綺麗なお姉さん。
いつも微笑んでいて、彼女のいるところはなんだか温かいものが流れている気がしていた。
俺は彼女に憧れていた。……いや好きだったんだろう。
あの時は疑いもしなかった。こんな日々が当たり前のように毎日来ることを。
だからあくる日、彼女の笑顔が見れなくなるなんて思いもしなかったんだ。
俺は人目もはばからずに泣いた。二度と彼女と会えないことが悲しくて。
何より俺自身の力のなさを悔やんだ。もし、あのとき俺にに力があれば彼女を失わずに済んだはずだ。
だから俺は誓った。
もうこんな事件をおこさせない。
二度と彼女みたいな人を作らないんだって。