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陛下の軍服

 はい、これが陛下が、戦時中に大元帥としてお召しになっていた軍服です。


 あの戦争の敗戦後、我が国の軍隊が占領軍によって廃止されたため、陛下がこの軍服をお召しになったのは戦後一度だけです。


 戦後の残務整理をしていた陸軍省と海軍省が廃止となり、陸軍大臣と海軍大臣が陸海軍の解散を陛下に報告するために宮中に参内しました。


 陛下は大元帥としてのこの軍服をお召しになり、二人と会談なされました。


 その後、この一着のみを記念として残して他の軍服は宮内省職員に下賜なさいました。


 戦後の物不足の中、職員たちは大変喜び他の服に仕立て直しました。


 さて、戦後数年して、戦勝国による占領が終わり、我が国は再独立とそれにともない再軍備することになり「国防軍」が創設されましたが、問題になったのが、「国防軍の式典などに陛下に何をお召しになっていただくか?」でした。


 戦後、陛下は公式行事にはモーニングや背広をお召しになって出席なさるようになりましたが、「国防軍の式典には陛下には軍服をお召しになっていただくべきだ」という意見が出たのです。


 戦後の新憲法により、我が国の主権者は陛下から「国民」と変わりましたが、新憲法において陛下は「国家元首である」と明記されております。


 それで、「陛下には国防軍の式典には以前からの大元帥の軍服をお召しいただければ良い」という意見が出たのです。


 その意見に異議申し立てをしたのが一部の憲法学者でした。


 彼らは「旧憲法では陛下の陸海軍に対する統帥権が明記されており、旧憲法下で陸海軍が廃止されたため、その時点で陛下は大元帥ではなくなったため大元帥という地位は消滅している」と主張したのです。


 そして、新憲法では、国の「国防権」が明記されており、憲法では国防軍の最高司令官が誰かは明記されていませんが、国防軍法では「首相が内閣を代表して国防軍の最高指揮監督権を有する」と明記されています。


 そのため、新憲法では、国防軍の最高司令官は首相であり、陛下は最高司令官ではないので、国防軍の式典に出席する資格が無いと解釈できると彼らは主張しました。


 もちろん、それに対する反論をする学者もいました。


 彼らの主張は「新憲法で陛下は『国家元首である』と明記されており、憲法で明記はされてはいないが、国家元首が国防軍の最高司令官であると解釈できる。首相は実務的な最高指揮監督者であると解釈すべきだ」でした。


 他の意見としては「国民への一般公募により、陛下がお召しになる新たな軍服のデザインを決めるべきだ」というのもあります。


 その他にも様々な意見が出されており、陛下が国防軍の式典に出席なさるか、なさらないか、出席なさるとして何をお召しになるかは、国民全体の議論になっております。


 陛下ご自身は自分の意思を表明されることはなく「国民の皆さまに判断してほしい」とのお言葉があっただけです。


 陛下は新憲法における「国民主権」を尊重しておられるのです。


 この問題は、国民投票によって決められることになりました。


 陛下が国防軍の式典に出席されるのか、されないのか、出席されるとして、どんな服をお召しになられるかを国民投票によって決定いたします。


 来月が投票日です。


 このニュース映画をご覧になっている皆さまは、よくお考えになって投票してください。

この小説では、どこの国かも、どこの陛下かも書いてはおりません。


これは架空の国の架空の軍服のお話です。

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