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アンドロイド ステラ


潜伏していた女児は、天津守ステラと名乗り、自身のアンドロイドとしての権利を毅然と主張し始めた。


「見つかったからには仕方ありません。九柳操、貴女にはわたしを適切に運用する義務があります」


操は缶ビールに口をつけながら、女児アンドロイドステラをとくと観察した。


背は百四十センチほどで痩せ型。紺色のブレザーにベレー帽、まっすぐに伸びた黒髪が背中にかかる。嵩にかかった態度が板に付いていた。良家の出だろうと操は推察した。


「適切にって具体的には?」


「自分で考えて下さい! 地頭力が足りませんね、操」


ぴしゃりとはねつけられても操はめげない。


ステラが何故ラブホテルに潜んでいたのか、気になって仕方がない。太一を放置してステラと会話を続ける。


「ステラちゃんはどういうスペックを持っていて何のために作られたの?」


ステラはよくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張る。


「お買い物に掃除に洗濯、家事全般はお任せあれ。子守歌も歌っちゃいますよ!」


急に歌いだした時には操も驚いたが、耳なじみのある、ふるさとという曲を聞くと、気持ちが和んだ。


歌い終わるのを待って、操はステラに語りかける。


「すごい上手だね。ステラちゃんがいなくなって雇い主さんも困ってるんじゃないのかな」


今ならまだ船の時間に間に合う。避難させようとしたのだが、ステラは浮かない表情を見せた。


「旦那さまは、まだ家におられます。私だけが国を離れるわけにはいきません」


頑なな意志表示に操は何も言えなくなった。こんな非常事態にラブホテルにいる人間は、誰しも複雑な事情を抱えている。詮索するのも野暮に思えた。


知り合ったよしみだ。せめて楽しく過ごそうとステラに飲み物を勧めようとした矢先、部屋のドアが開かれた。スーツ姿の男たちが断りもなく侵入し、瞬く間にベッドを取り囲んだ。


操は何食わぬ顔で、太一の乳首をはじいていた。いかにも日課で彼氏の乳首を開発していますという慣れた手つきに、男たちは納得したらしく、失礼しましたと頭を下げて部屋を去った。


「もう大丈夫よ」


男たちが入ってきた時、ステラは間一髪ベッドの下に身を隠していた。男たちはステラの家の者が差し向けた可能性もあったが、操はステラの意志を尊重したいと考え匿った。


「助かりました。操」


「どういたしまして」


「何もきかないのですか」


操は太一の腕に頭を乗せて寝ころんだ。ステラはベッドから距離を置いてちょこんと座っている。


「この際どうだっていいじゃない。あとちょっとでお陀仏になるかもしれないんだから」


終末を口にしながら操に悲壮感は見られない。ステラにはそれが不可解だった。


「操は怖くないですか。死ぬのが」


操は薄い笑みを浮かべた。


「アンドロイドは死ぬのが怖いの?」


「質問に質問で返さないでください!」


挑発に激高したステラだったが、その視線は操ではない所に向いていた。


「あのー、さっきから気になってたのですが、その男はどうして縛られてるのですか」


「こういうのが好きなの、彼」


操が太一の胸板に頬ずりすると、ステラは身震いした。汚いものを見る目で糾弾し始める。


「ふ、不潔です! PTAに通報します」


「どうぞ。ラブホは治外法権だから相手にされないと思うけど」


余裕の操に歯が立たないと悟ったのか、それとも自身の立場の弱さを思い出したのかステラは膝を抱えた。くぐもった声で愛惜を羨む。


「大切な人がいるから操は強いのですね。いいですね」


操はベッドから降りてステラをきつく抱きしめた。ステラからは自分と同じ嘘つきの匂いがした。

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