マシンの幸せ
のんびり死体さんにアイディアを頂き、書いてみたSF小説です。のんびり死体さん、ありがとうございます。
「ついに完成したぞ!」
博士は喜びの声をあげた。人々の願いを叶える究極のマシンが出来上がったのだ。
「ハカセ、ワタクシヲツクッテクダサッテアリガトウゴザイマス」と、マシンがしゃべった。
「うむうむ」
「ツクッテクダサッタオレイガシタイノデス」
「それでは、人類の苦難を取り除いてもらおうかな。この地球上に戦争は終わらないし、飢えた者もたくさん助けを待っている。何でもできるお前さんなら、人類を救うことが出来るだろうて」
博士は満足そうに言った。
マシンは真面目に働いた。空気から食料を作り、汚染された海や空を浄化し、戦争の調停役を担った。人々の苦しみはマシンによって改善された。
世界はマシンによって変わっていった。敵として憎み合っていたところには話し合いを。食べ物が無く人から奪って生きなければならなかったところには食料を。汚染された海や大気は浄化され、美しい自然が戻ってきた。
マシンの働きを見ていた博士は、ふと自分の手を見つめた。
開発に人生を捧げた博士の手は、年を取ってしわが深くなっていた。
「ハカセ、ハカセノノゾミハナンデスカ」
「そうだなあ」
博士は真剣な顔つきで考えた。
「マシンよ、私はお前の研究だけに命を捧げたようなもんだ。お前が伴侶のようなものだよ」
「……テレマス」
「私の望みは、お前が幸せになることだ」
「ワタクシノシアワセ……」
「今まで人類のためにさんざん尽くしたお前だ。そのお前が、私のために一杯のコーヒーでも淹れてくれたら、私は満足だよ」
「オヤスイゴヨウデス」
マシンは挽きたての豆を使ったコーヒーを作り、博士の座る椅子の横のテーブルにコーヒーカップを置いた。
「ありがとう」
博士はコーヒーを味わって飲んだ。そして、飲み終えたとき、コーヒーカップが床に落ちた。
「ハカセ、ハカセ、ドウシタノデスカ」
「この老体にも限界が来てしまったなあ。マシンよ、私はもう死ぬ」
「シヌ?」
「お前をひとり残していくのは心残りだなあ」
博士はそう言って目を閉じた。その目が再び開くことはなかった。
「ハカセ、ハカセ」
マシンは悲しく博士を呼んだ。何でも願いを叶えるマシンと言っても、死者をよみがえらせることはできなかった。数日後、盛大な葬式が催された。
人類の苦しみを取り除いたマシンの産みの親である博士の名は、世界中に知れ渡っていたのだ。
博士もマシンも人々にとても感謝された。しかし、マシンが幸せであったかは、誰にも分からなかった。