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美少女とアフロ

カミルは御者のおじいさんを見送ったあと、門の前で学園を見上げていた。


「これが、貴族の集まる学校......」


ゴクリ、と唾を飲み込む。一歩を踏み出す勇気がなかなか出ない。


「早く中が見たいよー!」


「人間の建物に興味があるのです」


妖精の2人は元気よくカミルの周りを飛んでいた。ちなみに、彼女らは『妖精の魔法』で透明化している。カミル以外には見えないようになっているのだ。


「うわぁっ!」


うだうだとカミルが怖気付いていると、彼の背中に何かがぶつかる。たたらを踏んだ彼の足は学園の敷地内へと入っていた。カミルの学園への第一歩は、このような意図しない形でなされたのであった。


「あ、ごめんなさい」


小さな声に振り返ると、髪の長い女の子が立っていた。開いた本を脇にかかえている。どうやら本を読んだまま歩いていてカミルにぶつかってしまったようだ。


「ううん、気にしないで。こんなところに突っ立ってた僕が悪いんだし」


そう言って女の子の顔を見て、カミルは固まった。


「ん、どうかしたの?」


急に動きを止めたカミルを不思議に思ったのか小首を傾げる女の子。


「な、なんでもないよ」


そう言いつつもカミルの目は泳いでいる。一体どうしたというのか。それは彼の心の声を聞けば分かる。


(かっ、かわいいいいいい!!!!!!!)


そう、カミルにぶつかった女の子はとてつもない美少女なのであった。大きな瞳は申し訳なさそうに伏せられていて、大人しそうな印象を受ける。白磁の肌に柔らかそうな黒髪のコントラストが美しい。カミルはその子に見惚れていた。


(え?なにこれもしかして都会ってこんなに可愛い子がいっぱいいるの?それともたまたま?)


生まれて初めて見る『可愛い女の子』に混乱しているカミルの思考はよく分からない方向に行っていた。


「怪我がないなら良かった、私行くね」


女の子はカミルにむけて軽く手を振った。脇に抱えていた本を開き、読みながら歩き出す。


「あ、ちょっと待って!」


思わずカミルは声をかける。


「なあに?」


「あ、あの、君も新入生なの?」


「そうだよ」


「僕もなんだ!友達がいなくて不安で......」


「そうなんだ、がんばってね」


「あ、うん。ありがとう、ってそうじゃなくて!あー、えっと、君の名前を教えてくれない?」


もはや自分が何を言いたいのか分からなくなったカミルはしどろもどろになっている。


「私の名前?もしかしてぶつかった後遺症が出たら請求するつもり?ワイルドな格好してる割にセコイのね、あなた」


「あ、いや、ちがくて!その...」


「ふふ、冗談よ。私は ドミー・オルルクっていうの」


「ドミーちゃん!いい名前だね。僕はカミル・ドドクリフと言います!よ、よろしく」


「カミルくんね、よろしく。私は本が読みたいからそろそろ行くよ」


それじゃ、とあっさり話しを打ち切りドミーは本を開いて歩き出す。だが、三歩ほど進んで彼女は足を止める。


「そうそうカミルくん、そのアフロと麦わら帽子イカしてるね」


それきりドミーは振り返ることもなく歩いて行ってしまった。

黙って見送るカミル。彼の心臓は王都に入った時以上に早鐘を打っていた。



「やるじゃんカミル!初対面の女の子にアタックかけるなんて!!」


ドミーが遠ざかったのを見計らってカミルに声をかけるミィ。


「でもキョドリまくりでカッコいいとは言えなかったのです」


ボソッと呟くリィ。


「うう、2人とも追い討ちをかけるのはやめてくれ......」


自分で自分の行動に唖然としていたカミルはうなだれる。でも、


「ドミーちゃんか......」


まだ知り合ったとも言えない女の子に彼はすっかり心を奪われてしまったようだ。


「うわ、女の子の名前を赤面しながら呟いてる」


「キモチワルイのです」


「やめてくれ!」


カミルはドミーが歩いて行った方向を一度だけ眺め、入学の手続きのために学園の中へと歩き出した。





「ふぅー、なんか色々あったから疲れたなあ」


カミルは荷物を置きベッドに飛び込む。ここは男子寮で彼に割り当てられた部屋である。寮と言えども貴族の子女に向けたものであるため、なかなか豪華な部屋であった。


「これは下手したら屋敷の僕の部屋より大きいし綺麗なんじゃないか?」


「ね〜カミル〜!遊びに行こうよ〜!」


「王都の街並みの見学か学園を探索したいのです」


彼のアフロを妖精2人は引っ張るが、カミルは顔を上げない。


「いや、やらなきゃいけないことがいっぱいあって疲れたからもう休ませて......」


「つまんなーい」


カミルは黙って部屋の窓を開けた。


「2人で好きに遊びに行ってくれていいから」


「けっ、面白みのない人ですね。そんなんじゃドミーさんに嫌われますよ」


「そうだそうだ!」


「な、それは関係ないだろ!」


顔を赤らめるカミル。


「ふーんだ、あとで行きたいって言っても連れてって上げないから!」


「ソロプレイでもしてればいいのです」


ミィとリィはそれぞれ捨て台詞を吐いて窓から飛び立つ。


「他の人たちに姿を見られないように気をつけろよー!」


それだけ言ってカミルは再びベッドに腰掛ける。ソロプレイってなんだ?と疑問に感じたが、


「まぁ、いいや。それにしても、明日が入学式かー」


不安が高まる。本当にこのアフロと麦わら帽子で大丈夫なのだろうか。みんなにいじめられないだろうか。友達はできるだろうか。様々な考えが頭の中をグルグルとまわる。


「でも、ドミーちゃんはイカしてるって言ってくれたしな」


なんだか勇気が湧いてくるような気がする。カミルは1人微笑んだ。


「あいつらが帰って来たらもう寝よ」


今日はなんとか人目を避けることができたが、明日の入学式はそうはいかない。果たして学園は彼のアフロを受け入れてくれるのか。


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