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王都のアフロ

少し時間が飛びます

「学園に行っても元気でいるのよ!」


 涙を流しながら手を振る女性はカミルの母、マリーである。その隣で腕を組んで頷いているガタイのいい男性はその夫--つまりカミルの父--のユーゴだ。


 2人は息子の乗る馬車が王立ノルディック魔術学園へ向かうのを見送っていた。


 ユーゴが口を開く。


「あいつも大人になったなぁ。なんか感慨深いよ」


「そうね。私なんか涙が止まらないわ」


「俺たちが出会ったのもあの学園だもんな」


「ふふっ、カミルにも素敵な出会いがあるといいわね」


「そうだな」


 ユーゴは頷き、マリーに屋敷に戻るように促す。


「それにしてもあいつ、俺が帰ってきてからずっとでかい帽子かぶってたがどうしたんだ?」


「さあ、私にも分からないの。10日ほど前からずっとつけてるのよ」


 マリーは首を横に振りながら歩き出す。ユーゴは首を傾げたが、


「ま、思春期だから色々あるか」


それで納得することにしたようだ。










 さて、馬車に乗るカミルは入学式に向けてバッチリ服装を整えていた。シルク製の無地の白シャツにミッドナイトブルーのジャケット、下は黒のスラックスに色を揃えた革靴。どこに出しても恥ずかしくない貴族の子息のように見える。......頭上の馬鹿でかい帽子を除けば。


「あぁー、やっぱりこの帽子嫌だなぁ」


 揺れる馬車のせいでずれる帽子を手で押さえながらカミルは言った。


「仕方ないのです。アフロの上の卵が隠せる帽子がそれくらいしかなかったのですから」


「そうだよ!贅沢言わないの!」


「それにしてもこんな麦わら帽子、今の僕の格好に合ってないって!」


「まぁそれはそうかもだけど、アフロも隠れてるしいいじゃん」


「隠れてねーし!」


 麦わら帽子の下から茶色い巻き毛が湧き出ていた。正直隠れているとは言い難い。リィはそんなはみ出たアフロに気持ちよさそうに埋もれていた。ミィはテンション高くカミルの周りを飛んでいる。


 馬車はドドクリフ家が所有しているものであり中にはカミル達しかおらず、三人は気兼ねなく話すことができた。ドドクリフ家の屋敷では、妖精二人はカミル以外に姿を見られないように気を使っていたため、思う存分話すことができて嬉しそうである。


 カミルが謎の卵を授かってから10日が過ぎ、彼らはノルディック魔術学園のある王都へと向かっていた。この国の貴族の子女が13歳になったら必ず通うことになる学園。子供達はそこで魔術について学び、貴族の

 社会について知るのである。


 果たしてカミルの学園デビューはうまくいくのか。それは神のみぞ知る、アフロヘアーだけに。


「しょうもないね!」


「ミィ姉様は一体どこに向けて突っ込んでるのですか」


「うーん、私にもわかんない!」


「はあぁ、憂鬱だ……」


 騒がしい妖精二人とは違い、カミルはまだ見ぬ学園生活が不安で仕方ないのであった。









「坊ちゃん、起きてください。王都が見えて参りましたよ」


 御者の大声で座席でうたた寝していたカミルは目を覚ます。馬車の窓を開けて顔を出すと、そこにはこの世の贅沢の全てが詰まったような光景が広がっていた。まだ距離があるはずなのに、王城が天空に向けてその先端を伸ばしているのがはっきりと見えた。どれだけバカでかいのだ。


「うわぁ、すごい......」


 カミルはその言葉を搾り出すのがやっとだった。目の前の光景に心奪われているのである。


「すっごーい!人間ってなんでこんなもの作れるのかなぁ」


「けど自然が少ない気もするのです」


 歓声をあげる三人を乗せて馬車は王都へと続く大きな石橋を渡っていく。



 カミルが橋の下の澄んだ川や王都を囲む巨大な壁などに視線を奪われていると、馬車はいつの間にか都に入る門の前にたどり着いていた。


「ノルディック魔術学園の新入生を乗せています。...はい、ドドクリフ家のご子息です」


 開けた窓から御者が手続きをしているのが聞こえる。

 いよいよ王都に入るのかと思うとカミルの胸は高鳴る。


「おおー、ドキドキしてるね」


 カミルの胸に耳を押し当てたミィが言う。


「ずるいです。私も聞きたいです」


 リィもカミルの胸元にやってくる。


 カミラは2人の頭を撫でながら、これからの学園生活に想いを馳せた。馬車は王都の中に入っていく。







 王都の街並みは、カミルの実家がある地方とは大違いであった。整備された石畳の道に沿うようにして作られた様々な家や店。流れる景色はいつまで見てても飽きないほどであるなとカミルは感じた。


「さぁ、もう直ぐ学園に着きますよ。私はそこまでしかお付き合いできませんので、寂しいと思いますが頑張ってくださいね坊ちゃん」


 御者のおじいさんが心配そうな口ぶりでカミルに話しかける。彼はドドクリフ家に長年仕えてきており、カミルのことも孫のように可愛がっていた。


「うん、ありがとう!」


 馬車の中を興奮した様子で飛んでいる妖精達を目で追いながらカミルは答える。この2人がいれば、少なくとも寂しくなることはないだろうなと思いつつ。



 そしてまたしばらく走った後、馬車は止まった。王立ノルディック魔術学園の前に到着したのである。


「よいしょっと」


 カミルは馬車から降りる。王都で城の次に大きい建物である学園は、カミルを圧倒するようにそびえ立っていた。


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