微笑みのアフロ
すっかり遅くなってしまいました(´;Д;`)
「ドルイドとは、先ほども言ったように自然と人間をつなぐ存在なのです」
リィはベッドにつっぷすカミルの耳元で説明を始める。
「カミルも『妖精のイタズラ』のお話しは聞いたことあるんじゃない?」
カミルのアフロに乗り、卵を撫でながらミィも話しかける。
卵の色は依然として青みがかっていたが、はじめの橙色を取り戻しつつあった。
「小さい頃にお母さんが話してくれるやつでしょ?子どもを寝かしつける時のただのおとぎ話かと思ってた」
カミルは答えるが、妖精2人と目を合わせようとしない。自分のアフロが妖精のせいであったことや、先ほどの自分の激情が気まずくて2人の顔がまともに見れないのだ。
「おとぎ話には往々にして真実の一部が含まれているのですよ」
おとぎ話『妖精のイタズラ』とは
人間の赤ん坊が妖精に連れ去られてしまうお話しだ。その子どもは森で育てられた後に人間の国に降りてきて、自然を省みない傲慢な人間の王を懲らしめる。
という、自然保護を示唆するようなおとぎ話だ。
これを聞いたカミルは、誘拐ってイタズラのレベルじゃないでしょ、とツッコんだものだ。
「それで、森に近い地域では子どもが妖精に攫われ無いように、赤ん坊を寝かしつける時は揺りかごに先の尖ったガラス細工のようを備付けるんだよね」
自分の知識を披露するカミル。
「まあ、そんなことをしてもムダなんだけどね!」
ミィはそんな人間の迷信を一蹴した。
「我々が攫うのはある程度育った5歳児なのです」
「え、本当に誘拐してるの!?」
カミルはガバッと体を起こした。頭の上のミィは「うひゃ〜〜」と飛ばされる。
「私たちもやりたくて攫っているわけではないのですよ。しかも、親のいない子どもや辛い境遇の子どもを狙っているのです」
「50年に一度の儀式みたいなものだから、妖精にとっては必要不可欠なの!」
飛ばされたミィが戻ってきて言った。
「そうなのか......、じゃあその話と今の僕の状況がどう関係あるの?」
カミルは納得しかねない様子だが、とりあえず話を続けることにした。
「実は、その攫われた子どもがドルイドと呼ばれる存在になるのです
「あれ?さっき君達は僕のことをドルイドに選ばれたって言ってなかったっけ。僕は誘拐されてないよ?」
「そうなの!カミルは特別なの!」
「そっか、僕は特別なのかぁ。でもなんで?」
特別と言われて満更でもなさそうなカミル。この年代の少年にとって自分が価値ある人間だと認められるのは非常に嬉しいことなのだ。
「それは、8年前の話しに遡るのです」
リィはカミルがドルイドに選ばれるに至った経緯を話し始めた。
「8年前、私たちは『ドルイド候補』を探すためにこの都市に降りてきて5歳くらいの子どもたちの様子を見て回っていたのです。私たちもまだ新米の妖精だったので、特にミィ姉様は始めての人里にとても興奮していました」
「リィもすごく楽しそうだったじゃん!」
「まぁ、そうですね。私たちは浮かれていたのです。そのせいであのような失態を犯してしまうこととなったのです」
「そう、だね」
ミィとリィは深く頷きあった。
「なんだか、深刻そうだね......」
リィが話しを続ける。
「妖精が普段人間から観測されないのは、この妖精の魔法を使って姿を隠しているからなのです」
「ジャジャーン」
そう言ったリィに合わせて、ミィは羽を震わせた。キラキラと光り輝くモノに包まれた後、カミルの目からミィの姿が消えた。
「うわ、すごい!ってイテテテ!!髪引っ張らないで!」
姿を消したミィはさっそくイタズラを始めたらしい。
「ですが、この魔法には使える限度があるのです。調子に乗った私たちは魔法の力を使いすぎて人間の前に無防備に姿を現してしまいましたのです」
「見えないからと思って人の前で変顔してたら急に不審な目で見られた時はほんとびっくりしたね」
姿を戻したミィが言う。
「何やってんの」
カミルは呆れ顔である。
「それで私たちは捕まってしまったのです」
「そこを助けてくれたのが--」
2人はカミルの顔をじっと見つめた。
「それが、僕なのか」
全く覚えてないけどな、とカミルは呟いている。
「私たちは覚えているのですよ」
「瓶詰めにされて絶体絶命の私たちを助け出してくれたよね」
「それで、カミルの優しさに目をつけた私たちはカミルをドルイドに選んだのです」
「なるほど、ってええ〜!」
それじゃあ僕は余計なことをしてこのアフロになったのかよ。カミルはなんとも言えない表情をしている。
「余計なこととか思わないでよね!」
「これは私たちなりの感謝なのです。ドルイドになれば人間を超えた魔力を手に入れられるのですよ」
「しかも、カミルは親がいるから誘拐はしなかったよ!」
「それで、私たちは時折山から降りてカミルの様子を見ていたのです」
「それでも僕は、アフロにはなりたくなかったよ...」
ガックリとうなだれるカミルは痛ましそうにリィとミィは見ていた。しばらくその態勢のままのカミルだったが、
「でも、君たちを助けることができたのは良かったと思うよ」
次に顔を上げた時には諦めたように微笑みが戻っていた。カミルは現状を受け入れることにしたようだ。
「カミル...!!」
「やっぱりいい子だ!」
ベッドに座ったままのカミルに、二人の妖精は勢いよく抱きついた。
「うわあ!」
「それじゃあ、ドルイドとしての魔法の特訓をしようか!」
元気よくミィが手をあげる。
「え?」
「そうですね」
困惑するカミルにかまわず賛成するリィ。
「そうなのか」
そう言うことになった。




