始まりのアフロ
(意味深要素は特に)ないです
タイトルはノリなので、変な期待はしないでくださいね笑
カミル・ドドクリフ少年には小さな頃から、大きな悩みがあった。それは彼の立派なアフロヘアーである。彼の髪の毛は伸びれば伸びるほどクルクルと巻いていく性質を持っていた。
幼い頃からアフロヘアーをからかわれていた彼は当然、髪の毛を短くしようと試みた。完全なスキンヘッドに挑戦、は勇気が足りずできなかったが、角刈り程度にはしてみたのだ。
しかし、事はそう簡単にいかない。彼の髪の毛は角刈りにした翌日、朝起きるといつも通りのアフロに戻っていたのだ。
絶望。
彼は半泣きで母親の胸に飛び込み訴える。
「どうして僕はお父様とお母様みたいに綺麗な巻き毛じゃないのですか!こんな節操のないアフロヘアー、幾ら何でも酷すぎる!!」
カミルの両親は、2人ともブロンドの巻き毛の持ち主だった。カミルのような爆発アフロではなく、毛先がくるりと巻いているような可愛らしい髪型である。2人は幼い時分から、その愛らしさで周りから可愛がられて育ってきたのだ。
「そうねぇ。きっとカミルちゃんは私たちの特徴が良く現れているのよ。私もユーゴも巻き毛だし、髪が伸びるのも速いほうだったから」
カミルの母、マリーはのほほんとしている。
「いや、1日でこれだけ伸びるのはどう考えてもおかしいでしょ!しかも、僕だけ金髪じゃないし!!」
そう、カミルの髪色は両親とは違いくすんだ茶色であった。感情が昂ぶってきたのか、「うわーん」本格的に泣きだしてしまう。
「あらあら、泣かないで。私はカミルちゃんの髪型も髪色も大好きよぉ」
よしよしと頭を撫でられ、暫くのちに彼は泣き止んだ。
「ちょっと散歩してくる」
さすがに13歳にもなって母親に泣きついていたのが恥ずかしくなったのか、彼は目を伏せたままマリー部屋から出ていった。
「気をつけて行ってらっしゃいね。森の深いところは入っちゃダメよ〜。あと、遅くなる前に帰ってきなさいね」
マリーはのんびりと手を振っている。
家を出たカミルは、屋敷の奥にある森へと向かった。そこには木に囲まれていて誰かに見られることのない木製のベンチがあるのだ。
そのベンチは朽ちかけていたが、カミルにとってここは秘密基地だった。
アフロヘアーは目立つ。特にドドクリフ家の屋敷が存在する上級市民領においては。
上級市民領に住むのは、下級貴族や上級商人たちであり、彼らはみな金色や銀色のさらっさらヘアーをなびかせて街を歩いている。少なくともカミルにはそう見えた。
自分のようなボンバーなボリュームでアフロな髪型の人間は皆無。故に、街中を歩くと必ず振り返られてしまうカミルにとって、人目につかないこの場所は安心できる基地なのだ。
「はぁ〜、学園生活どうなっちゃうのかなぁ」
カミルはため息をつき、ベンチに身体を預ける。ベンチはキィィ、と情けない悲鳴をあげた。
カミル少年の懸念は、十日後の入学式であった。この国では13歳になった貴族の子女は皆、王都にある王立ノルディック魔術学園に通うことになるのだ。その入学式が迫っている。
「髪型が変えられないなら、計画していた学園デビューができなくなっちゃうよ。サラサラ長髪は無理でもせめて男らしい角刈りにして誰にもバカにされないようにするつもりが......」
再びため息。
幼少期から貴族や商人の子どもたちにアフロヘアーを弄られていた記憶が彼の表情を暗くする。
「「おねんねおねんねおねんね・・・・・・」」
ぼんやりと考え事をしているうちに、いつの間にかカミルは眠っていた。
「ていうか、私たちが眠らせたんだけどね!」
「どこに向かってブイサインをしているのです、ミィ姉様」
気がつけば、よだれをたらすカミルの前を二人の小さな女の子が羽を使って飛んでいた。
小さな、というのは年齢がというわけではなく、実際のサイズの話である。彼女らはカミルの掌ほどの大きさしかなかったのだ。
「要するに、フェアリーってことね!」
「だからどこに向けてのドヤ顔なのです、ミィ姉様」
「何でもいいじゃない。いちいちツッコミ入れてリィは疲れない?」
ミィ姉様と呼ばれた方の妖精は、腕を組みもう片方を睨みつける。
「ミィ姉様の行動はいちいち不可解、付き合わされる私の身にもなってほしいのです」
リィと呼ばれた妖精も負けじと睨み返した。
二人の視線がぶつかる地点に火花が生まれそうな雰囲気である。
「おいおい、いきなり喧嘩を始めないでくれ。」
そこに、森から新たに現れた第三者の声がかかる。
その人物は見た目は一般的な人間であったが、目深にフードをかぶっており、怪しげな空気を醸し出していた。
「うるさいわね、急に登場キャラが増えたらみんな混乱するから黙っててくれない?」
「これはリィと姉様の問題なのです。老害はお呼びじゃないのです」
「お、おう」
フードの人物も妖精たちの勢いに押されているようだ。
「でも話しが進まないから、今回はこれくらいにしといてあげる」
「カミルが起きてしまうことを考えて、ここは退いてあげるのです」
二人の妖精は、互いにそっぽを向きながら握手をする。
「何なんだこの茶番は。まぁいい、それでこの少年が例の?」
フードの人物は、ベンチで座ったまま寝ているカミルを指差した。
「そうなの、この子がカミル・ドドクリフ。私たちが必死に育てたアフロヘアー」
「カミルが勝手に髪を切った時は少し焦ったけど、妖精の魔法の力で元に戻ったから問題はないのですよ」
「ちゃんと髪色も私たち好みにしたよ!」
「しかもすごい気持ち良さそうな髪質なのです」
ミィとリィは飛びながら交互に喋っている。
話す方が前に出るようにその都度立ち位置を交代するのが二人のルールらしい。
見ていてとても忙しなかった。
「どれ、少し『見て』みようか」
フードはカミルの前に跪くと、なにやら呟き、最後に 『龍の瞳(Dragon・pupil)』 と静かに告げた。
フードの奥の目が青白い光を帯びる。
「なんか見ていて恥ずかしくなるね」
「その点はミィ姉様に同意なのです」
「お前たち握りつぶすぞ?」
さすがにフードも頭にきたらしく、ドスの効いた声をあげた。
迫力のある重低音が森に響く。
「ヒエェ、ごめんなさいマザー!」
「と、とりあえずミィ姉様から殺ってくださいマザー」
「ええ!?」
「まあいい。少年について『見え』たぞ」
マザーと呼ばれたフードの人物は立ち上がり、妖精たちに告げる。
「彼はギリギリだが合格だ。通常とはパターンが違うため不安要素も多いが、その分人間の本質が見れる気がする。私は期待するよ」
「おお〜、よかった。頑張って育てた甲斐があるよ」
「リィが関わった時点で成功は必然なのですよ」
「それではこれを彼に授けようと思う。」
マザーが取り出したのは、拳二つ分の大きさをした卵であった。橙色と青色の模様が渦巻いている非常に綺麗な卵だ。
「ついに!!」
「この時がきたのです」
ミィとリィは固唾を飲んで見守っている。
二人とも、拳が硬く握られていた。
マザーは卵を、
そっと、
カミルの頭の上にのせた。
ボリュームのある彼の髪は、卵を優しく受け止める。
「おお、乗った!」
そして、マザーはまたしも何かを呟き、卵を載せたカミルの頭に手を這わせる。
『龍の戒め(Dragon・binding)』
マザーの手から出た光がカミルの頭を包み込む。
「これで、よし」
「マザー?何も変わってないよ?」
「アフロに卵が乗っているだけなのです」
首をかしげる妖精2人に、マザーは微笑んだ。2人にはフードのせいで見えなかったのだが。
「然るべき時まで、アフロと卵が離れないように魔法をかけたんだ。」
その言葉を聞いたミィはすぐさま卵の元へと飛んで行き、全身で引っ張る。
「んぎぎぎぎっ、ホントだ取れない!」
「リィもやってみるのです」
リィの方も挑戦するが、動かすことはできてもアフロから離すことは叶わなかった。
「マザーすごいね!」
「さすがマザー」
「これくらい朝飯前さ。」
マザーは愛おしそうに卵を撫でたあと、カミルの側を離れる。
「じゃあそろそろ私は原始の森へ帰ろうかな。後は人間次第だ。」
「もう行っちゃうの?この森もなかなか良いところだよ?」
「もう少し遊びたくないといえば嘘になってしまうのです」
2人は羽をパタパタとさせてマザーに訴える。
「ここは私には狭すぎる。あまり長居する気にはならないのさ」
「マザーも居なくなるし、カミルも10日後には王都に行っちゃうでしょー。それじゃあ遊び相手がいなくてつまんなくなっちゃうよ」
「正確に言えば、カミルは遊び道具なのです」
ミィは頬を膨らませ、リィは悪い笑みを浮かべている。
「なぜだ?お前たちもカミルに着いて行けば良いではないか。というか、卵とこの少年の監視のために着いて行ってほしいのだが。」
「私たちはマザーと違って森からあんまり離れられないの!」
「我々の立場は平等でないのです」
マザーはポン、と手を打った。
「そういえば『妖精の呪い』を忘れていたな。どれ、私が解いてやろう」
「できるの!?」
「無理に決まってるのです」
「私は原始のマザーだ。不可能はほとんどない」
「少しは不可能あるじゃん!」
「なのです」
「私は嘘がつけないからな。だが、妖精に遅れをとるほどじゃないさ」
笑いつつ、マザーは再び何かを呟く。掌に力を集中させて、妖精2人にむけた。
『龍の解放(Dragon・liberation)』
パリン!と何かが割れるような音が響く。
「す、すごい!森に引き寄せられる感覚が無くなってる!」
「これは、感激なのです」
2人は飛び回って自分たちの身体を確認している。どうやら魔法は成功したようだ。
「ふふ、良かった。だが、人間の世界は妖精には厳しいぞ。くれぐれも注意するように。あと、もともと『妖精の呪い』は、」
「わかってるわかってる!ありがとう!」
マザーの言葉を遮ってミィは感謝を述べた。とても興奮しているようだ。
リィの方は言葉は少ないが、瞳が大きく見開かれていることから喜びが伝わる。
マザーは言葉を続けようか迷うそぶりをみせたが、結局やめることにした。
「それでは、卵のこと頼んだぞ。少年は戸惑うだろうから色々と説明してやってくれ。」
「まかせて!いつもは隠れてイタズラするだけだったけど、今度からはがんばるよ!」
「リィに任せるのです。ミィは頼りないので」
2人の返事に軽く手を挙げ、マザーは森の中へゆっくりと戻って行った。
「行っちゃったね」
マザーの消えた方向を見つめていたミィが言った。
「マザーは原始の森に帰ってしまったのです」
リィはカミルのアフロに潜り込みながら答える。
「あ!ずるい!私も!!」
ミィもアフロへ着地する。
カミルのアフロには卵と妖精2人を入れてもまだ余裕があった。とんでもないボリュームである。
アフロを布団にしながらリィはミィに話しかける。
「森の外、楽しみだね」
「今まではドドクリフ家の屋敷くらいまでが限界だったのです。だから、私もとても楽しみですよ」
「それにしても、この子なかなか起きないね」
「ねぼすけなのです」
なんて話していると、
「う、ううー」
カミルのうめき声が辺りに響いた。
そろそろ起きそうな様子である。
「どどど、どうしよう?起きたら卵についてなんて説明するか考えてないよ!」
「ミィに任せるのです」
アフロから飛び出し、胸を張るリィに何故か不安を覚えたミィだった。
「ふぁあ、あれ?僕は寝ていたのか」
伸びをしながら、カミルは立ち上がった。
「おはよう、そして初めましてなのです少年。私の名前はリィ、この森1番の美人妖精なのです。讃えるのですよ」
「えっ、え?」
突然目の前に現れた謎の極小の女の子に戸惑うカミル。当然である。
「やっぱり!何言っちゃてるのよ!!」
リィはミィの前に飛び出し、カミルに向けて手を合わせた。
「ごめんね、わけのわからないことを言っちゃって。森のナンバーワン美少女はこの私、ミィに決まってるのに」
「んんん??」
二人目の謎の生き物が登場しさらに理解不能なことを話し始めたことで、カミルの頭上にクエスチョンマークが飛び始める。
ちなみに、カミルの所見では彼女らの顔立ちは非常に似ており、どちらがより美少女かの区別はつけることが難しかった。違うのは髪型くらいである。
「は?」
「は?」
二人の妖精はそんなカミルを横目に争い始めた。
お互いの頬を引っ張り合いながらとっくみ合いをしている二人にカミルはたまらず声をあげる。
「ねえ、ねえなんなの君たち!!」
「黙ってて!」
「うるさいのです」
同時に怒鳴られたカミルは、
「あ、はい」
黙る他なかった。
そして無意識に困ったときの癖で頭を掻こうと手を伸ばして、例の『もの』に気がついた。
そう、あの卵である。
「な、なんじゃこりゃああああああ!!!!!!」
絶叫が森に響き渡る。
またもよくわからない小説を書いてしまいました。
そんなに長くはならない予定です。
お付き合いいただけたら幸いです!




