第4話:怒り
俺がこの部活で一番苦手な人は、副部長の河内先輩だ。
なんで苦手かって言うと、いつも怒っていて怖いからである。
なんか、少しでも気に食わないところがあると「コラッ!」と大きな声で怒鳴ってくる。
俺らの事を目の敵にしているんじゃないかってくらい怒る。
…ある日の事
いつものように河内先輩に怒られていた。
「だからいつも言っているだろう! 何で同じ間違いを何度も何度も繰り返すんだ!」
そこに登場作山先輩!
「カワちゃん怒りすぎよ。 カルシウムが足りて無いんじゃないかしらぁ?」
「作山っ!?」
「お姉さんの骨をあげるから、後輩の事を許してあげてちょうだぃ?」
と言ってビーフジャーキーを取り出す。
「俺は犬かっ?! て言うか骨ですらねぇ!」
作山先輩と話していると、あの河内先輩ですら形無しだ。
ビーフジャーキーを手渡すと「じゃーねぇ」と言い作山先輩はどっかへ行ってしまった。
河内先輩はさっきまでの怒りはどこへやら、かなり朗らかな顔で
「おしっ、じゃあやるぞ〜」
なんて言ってる、説教されなくて良かったぁと言う気持ちと、自分で言うのもなんだが甘やかしすぎだろ?という気持ちが入り乱れている。
作山先輩はいつも誰かが声を張り上げていたりすると、近づいていき、なだめてしまう。
怒られる事をしているのに怒られないと言うのは良いことだろうか?
別に怒られたい訳では無いけど、そんな事を考えてしまう…。
周りの人たちのイメージだと真面目な副部長とアホな部長と言う感じだと言っていた。
俺は作山先輩はとっても頭が良くて、いつも考えて行動してると思えるのだが、それは俺だけだろうか?
こんな、作山先輩だが、一度だけ本気で怒ったことがある…。
普通に練習をしていると、いきなり良く通る低い声で怒りに満ちた声が聞こえた。
「お前、二度とその言葉を口にするな」
周りの温度が5度くらい下がった気がした…。
一瞬、誰の声が全く分からなかったが、その声が作山先輩だと気づいた時、全身に鳥肌がたった。
作山先輩のあんな声一度も聞いた事が無い。
いつもニコニコ笑っていて、仏様みたいな人だったから、その一言は衝撃だった。
言われた1年の男の子も、かなり怯えていた。
そうしたら、作山先輩が明るい声で
「わりぃ、わりぃ、中断させちゃって、続けて!
お前は二度とそんな事言うなよ!」
「ハィ…」
小刻みに震えてはいるが、男の子も少しは表情が軽くなった気がした。
が、しかし、その後の部活はヒドかった。
作山先輩の雰囲気がいつもよりもおかしくて、無理して明るく装っているのが丸わかりで、改めて作山先輩の影響力の凄さを思い知った。
いつもの先輩を太陽とすると、その日は周りをどんどん冷やしていく氷みたいだ。一年の男の子に、なんて言って怒られたのか聞いてみると、
「俺は、あの言葉は二度と言わないと心に決めたんだ」
と言われ全く取り合ってくれなかった。
次の日には作山先輩は治っていたが、俺はその一言がどうしても気になってしまい、さすがに本人には聞けないので、なんとなく知っていそうな坂籐先輩に相談しに行った。
「昨日の作山先輩のこと何ですが…」
「…」
「…先輩?」
「ああ、いや知らねぇ」
嘘をついているようにも、本当の事を言っているようにも見えた。
でも、それ以上は何も聞くことが出来ず、このことは忘れることにした。
…つづく