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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かねごと

作者: 榊 とうる

かねごと


僕は卑怯だから

君が、長い長い刻を生きてゆかねばならないことを知っていて

約束を遺す。


遠い未来に向けたたった一つの約束を…


長いときを生きる君に向けて




『かねごと』




「…ごめん…ね」


ごぼっと吐きだされる紅、白い式服がどんどんと朱に染まる。

胸を貫く三つ又の戈。

吐き出される緋色が、命の砂時計が、絶望的に終わりを告げる。

ゆっくり伸ばされた細い手を必死でつかめば、目はもう見えていないのか、虚ろに視線をめぐらして微笑んだ。

いつも輝く、黒曜の瞳は力なく、中を彷徨う。

「ばかやろうっ!何で俺を庇ったりしたんだ!」

ぼたぼたと滴る赤い水に苛々する。

長く太いそれは細い体を突きぬけて地面に深く突き刺さり彼と大地とを縫い止める。


「…分からないよ…気が付いたら…」

動いていた、と唇だけが動く。


時は平安、魑魅魍魎、悪鬼、悪霊、妖怪と言われる類のものがわんさかひしめいていた時代。

それらを収めることの出来る者が居た。


彼ら一族は代々神から賜っり受け継いだ名前と、武器がある。

神との繋がりを持つ一族、神から賜る名は神々の樹木櫻、榊、橘、梅、桃、椥、松、楓、伽羅、柊、南天、楠


その中の桜の名を賜り一族

櫻華院

桜ノ宮の名を賜ったこの一族は、他の払人達と大きく違う部分があった。


神から名を賜ったという、エリート意識に凝り固まった、奴らは妖と聞けば良いも悪いも無く、問答無用で払ってゆく。

人でないもの=悪なのだ。

役に立つか、たたないかだけがやつらの基準。

だから、だから。


私の住まう祠も、大切な仲間達も踏みにじり打ちこわし

私が邪悪な妖狐となっていた。


咲哉とであったのは、黒い炎を纏い怒りが膨れ上がり、我らを踏みにじった者共が土にひれ伏したときだった。


鈴の音が聞こえた。

白い式服に桜の地紋。

銀糸と薄紅で袖を桜模様に刺繍を施した式服を纏った黒髪の払い人。


『オマエモ、ワタシノ居場所ヲウバイニキタノカ?!』

言葉も片言に忘れそうになっている私に、咲哉は太刀を向けることはなかった。

周囲を見渡し、打ち壊された社をみて眉をひそめ。


「妖にだって、思いはあるであろうに…」

そういって、抱き上げたのだ。

仲間達の遺骸を。


桜の一族は、妖を悪と決め付けない

なぜなら、この国の八百万の神々は妖であることが多いと考えている


人と違う姿かたちであるだけで

答無用で払ってゆく。

人でないもの=悪なのだ。

役に立つか、たたないかだけがやつらの基準。

だから、だから。


私の住まう祠も、大切な仲間達も踏みにじり打ちこわし

私が邪悪な妖狐となっていた。


咲哉とであったのは、黒い炎を纏い怒りが膨れ上がり、我らを踏みにじった者共が土にひれ伏したときだった。


鈴の音が聞こえた。

白い式服に桜の地紋。

銀糸と薄紅で袖を桜模様に刺繍を施した式服を纏った黒髪の払いで、言われもなく

殺したり、居場所をおったりはしない

それは咲哉も同じだった。


痛みを分かる人間に、我らが好意を寄せるのは当然であり

桜の一族には、妖が多く力を貸していた


その中には、神と呼ばれるものも少なくない。

九尾の狐である私もその一人であろう…。


そのことが、面白くないのは、神から名を賜ったほかの家々だ。


だから、罠を仕掛けられていた。

そんなことにも気がつかず、私は彼を守ることも出来ず

今、目の前で彼の命の炎が消えようとしているのを、見つめることしか出来ない

そんな私に、彼は微笑んだ。


「妖の寿命は長い……人は輪廻する…僕は…また、生まれ変わる。君の側に……」

「咲哉……」

両の目から零れるものが視界を揺らす


まるで、桜が散るように、彼は笑った。

「だから、見つけてね?…………白銀」

最後に、一言傍らの妖の名を呼び、息を引き取る。




「咲哉!!」

もはや冷たく、動くことの無い彼を抱き締めて、私はその身体を矛からはずし

漸く、横たわらせることが出来た。


真紅に染まる衣装がその顔が…

何よりも、最後に呼ばれた声を、きっと私は忘れない。


いつかの未来、君が約束を果たし生まれ出でるまで。






かねごと (予言・兼言)

前もって言っておいた言葉。約束の言葉。また、将来を予測して言う言葉。


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