この俺に職業をください
声が聞こえてきた魔法使い専用の受付のところまでやってきた。
そこでは何やらアルルが受付の眼鏡をかけた美人のお姉さんに怒っていた。
「なんで私がこんな魔法しか使えないんですか!」
それを聞き受付のお姉さんは困ったように顔をひきつらせる。
「いえ…、ですからあなたの魔力適正だとこれが限界なんですよ。そんなに向上心があるならレベルを上げればもう少し強い魔法を覚えれますから」
「あと一回、あと一回でいいのでもう一度ちゃんと調べてみてください!納得するまで私は帰りませんから」
「そんな〰」
アルルはその後も小一時間言い争ったものの諦めたのか俺の姿をみつけるとトボトボとこちらへやってきた。
「なにがあったんだ?」
きれいに掃除された床をみながらアルルはうすら笑いを浮かべた。
「な、なんでもないですよ。それよりカイトは職業みつかったんですか?」
「それが就職するにはプロカというものが必要らしくてな。発行するからしばらく待ってるように言われたんだよ」
「カイトは本当に常識がないですよね。ここに来る前はどこで何してたのかを詳しく聞きたいですよ」
それを聞いて胸の辺りがなんだかもやもやする。
嫌な感情が全身を攻撃しているようだ。
「記憶が無いからな。俺が知りたいくらいだ」
「来たな、ほらよ。これがプロカだ。絶対に無くすなよ作るの大変立ったんだからな」
みるからに受付のお姉さんは顔に疲れを滲ませていた。
「なあアルル、そんなにこれは手間がかかるものなのか」
「いえ、普通の職員ならものの五分もあれば簡単に作れるはずですよ」
なんだよ。
「い、いいだろ別にパソコン使うの苦手なんだよ」
お姉さんは頬を赤く染めて照れたようにうつむいた。
おっと弱点発見しました。
いつか使えるかもしれないから覚えておこう。
「それよりもそのカードの表にあるバーコードに手をかざせ。そうすると目の前に自分の能力、特徴、適正職が表示されるから」
言われるがままにバーコードに手をかざす。
すると、なにもない空間にデジタルチックなグラフが浮かんできた。
「うわー、力、速さ、スタミナ、知能、運どれもきれいに平均値ですね。ここまでザ・平凡な人は初めて見ましたよ」
「うるさいな。この機械が壊れてんじゃないのか?」
これが俺の能力なのか?
平均的すぎて野球のベースみたいになってるぞ。
「ん?何か小さく特徴のところに書いてるな」
そこの項目に書かれている文字をよく視ると。
特徴
影の薄さもはや空気 ププッ
カードに笑われた。
隣を視るとアルルが肩を震わせて今にもふきだしそうな顔をしてた。
「こんな結果は過去に例がないな、職業適正はどうなってんだか。…フフッ」
おい公務員お前まで笑うな。
さすがに泣くぞ。
「いいから早く結果を教えてくれ」
少し涙目になりながらお姉さんをせかす。
もはや職業に就けるなら何でもよくなってきた。
早く金を稼いで石を買ってもとの世界に帰りたい。
「こほん。えーでは発表します。あなたがなれる職業は…」
お姉さんは一呼吸置いて適正職業が書かれている紙を見た。
「こ、これは」
「あんな結果は初めて見ましたよ」
そう言われ俺はお姉さんに手渡されたプロカを取り出す。
もう一度よく見てみるが何度見ても。
『あなたにオススメできる職業はありません。せめて就職できるものといったら、自宅警備員という名のニートですね。オツ』
なめてんだろ。
職業でもないし。
ていうか、ここの就職レベル高すぎね?
一応平均はいってるんだけど。
「この国では働かない人も大勢いますしね、まあ、いざとなったら私の魔法で稼いでみせますよ」
あるるは任せろと言わんばかりに胸を張る。
「アルル様…。かっこいいです」
俺が目に涙を溜めて懇願してると、アルルの黒のローブから何か落ちてきた。
それを拾い上げよく見ると、アルル専用のプロカだった。
「アルル様、落ちましたよ」
振り向いたアルルは少しビクッとなりながらも、手を差しのべてきた。
「ありがとうございます。今度からは落ちない所にしまわないといけませんね」
アハハと笑いカードを受け取った時、ちょうどアルルの指がバーコードに重なった。
俺の時同様に、デジタルなグラフが目の前に表れてる。
「あっ」
アルルの声が小さく漏れる。
グラフを見ると俺のグラフにあった特徴の項目の代わりに、魔法の項目が表示されていた。
そこに書かれている文字をよく見ると。
魔法
『ナム』
効果
ちょっと痺れます、静電気の効果もあるので、下敷きや風船を使って、目指せデンジロウ!
「「……」」
俺はそれを見て、微笑みながらアルルの肩に手を置いた。
「雑魚」
アルルは杖を振り回し襲いかかってきた。