それぞれのハローワーク
日もすっかり登り道を歩く人がちらほら見えるようになってきた。
静かだった店は活気を見せ始め呼び込みをしている。
こうしてみるとアルルの言っていたことは本当なんだと思うようになった。
空をほうきで通行している人もれば炎を作り出して道端で客に芸をしている人もいる。
さらに、そこらかしこに得体の知れない動物も存在していた。
「この街は観光地としても有名な場所なのです。なにせ魔法都市ですからね、観光資源なども豊富なんですよ」
結構有名な都市なんだな。
しばらく歩いていると十字架を胸に抱いた天使の像を頭上に構えた建物に着いた。
「着きましたよ。ここが私の魔法使いとしての出発点となる魔法教会です」
するとアルルはどこか誇らしげに。
「今日は私の魔法使いとしての第一歩なんですよ。これから集会所に行って私がどの魔法を扱えるかわかるんです。ハローワーク的なこともやっているので、あなたは自分の職業の斡旋でもしてきてください」
なるほど職に就けば金も入る。
どうせこのまま一人でいてもどうにもならないのだからアルルについていこう。
「ところであなたの名前を聞いていませんでした。なんていうんですか?」
名前か…。
俺は少し考えこんでから答えた。
「かいと。黒田 海都だ」
そこはさすがに教会だからだろうか、俺が生まれた街にあった酒場のように人が大勢いたけれど、どこか神秘的で荒れた感じはしなかった。
西洋風な内装にそこらかしこに魔法で生成されてるであろうインテリアがあり、部屋の中央にはおっさんの魔導師の銅像が存在感を醸し出していた。
「私はこちらで申請してきますから、カイトはあっちの奥にあるハローワークで就職してきてください」
「なあ、あのおっさん誰?なんかみんなあの人の前で拝んでくんだけど」
アルルはあきれたように笑いながら。
「カイトは相当な田舎出身なんですね。あの人はこの世の魔法をすべて修めてこの国に反映をもたらしたとされる大賢者テキナーシ様です。旅に出かけるときは拝んでから行くと、誰にも負けないようになった気になるという効果があるんですよ」
なにそのふざけた名前と効果、ほとんど意味ないじゃん。
アルルは説明し終えると魔法使い専用の受付まで歩いていった。
たしか俺は奥のほうにある受付だったなと思い、おっさんの像が邪魔だと感じつつ進んだ。
受付までつくとさすがに魔法の国では就職する人はいないのか誰一人として並んでいなかった。
カウンターのお姉さんもやる気なさそうにタバコを吸いながらビールを横に置き新聞を読んでる。
中年のおっさんか。
「すいません就職を希望してるんですけど」
話しかけるが返事がない。
聞こえなかったのだろうか。
「あのー、すいません就職を希望してるんですけど」
だが、反応がない。
おい、こっち向け。
「すいませーん、せめて俺の顔をみようか。お前の吸ってるタバコを目の中に突っ込むぞ」
返事がないただの屍のようだ。
もうなんか怒る気にもなれないので帰ろうと心に決めた。
帰り際八つ当たりに空のビールを思い切り吹き飛ばすと。
「ん?なんだ人がいたのかなんの気配もしないからとうとう酒の飲み過ぎで幻聴が聞こえ始めたかと思ったよ」
そう笑って何事も無かったかのように話しかけてきた。
知らない内に俺の知られざる能力で気配を消してしまっていたのかー、すまない、すまない。
…影が薄いんじゃないよな。
「そうですか。まあいいです。それで、就職をしにきたんですけど」
「まあそれ以外でここに来る用事は無いよな。じゃあ職業適正を視るからプロカをだしてくれ」
「プロカってなんだ。そんなもの持ってないぞ」
それを聞くと受付の人が心底驚いた顔をした。
「プロカってプロフィールカードの略だぞ。まさか本当に持ってないってことはないよな」
「持ってない」
「………」
すると、受付の人がため息をついて。
「じゃあ、しばらくそこらへんで暇をつぶしてろ。たくっ、今時プロカ持ってないってなんだよ作んのめんどくせー、だりー」
ここでは持ってるのが普通なのか。
ていうか、さっきからこいつ受付とは思えないな。
しかたないあのおっさん像のところでぶらぶらしてるか。
そう決めてもと来た場所にもどろうとすると。
「なんでですかーーー!?」
アルルが集会所に響きわたるような声で叫ぶのが聞こえてきた。