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灰色魔法少女のmemorial  作者: 紗南宮夕月
9/16

その運命は何処へ向かう、2

いつもお読みくださってありがとうございます。

コンコン


「失礼します、マスター。ニュラルです。」


扉の向こうからかつて真白と同様の理由で拾った少女が声をかける。


「入っていいよ」

「真白ちゃんをお連れしました。」


ニュラルに続いて入ってきた白髪に近い銀髪の少女は昨日まで顔の表情を覆っていた長い前髪を切り、さっぱりとした印象を与える。


「やぁ、真白。落ち着いて間もないけれど君の答えを聞かせてくれるかな?」


コクリと頷いた彼女は一歩前に踏み出し、まっすぐに僕を見つめる。

その瞳は消えることのない意志をもって‥‥‥


「私はマスターに救っていただいたことを心から感謝しています。だからこそ、私は…魔法少女になってマスターのお役に立ちたいと考えました」


―ッ!


それは予想をしていなかった分衝撃が大きかった


彼女は確かに逸材である。でも、彼女が生まれてきてから受けた傷を考えればニュラルと同じ答えになると思っていた。

半分は諦めていたのだ。

なのに彼女は―


「・・・ありがとう、真白。君がそう言ってくれたことで君は僕への・・・いや、何でもない。ただ本当にありがとう」


僕はもう一度、姉様に会うためにこの子の生きる選択肢を奪ってでも必ず見つけて見せる。

こうして僕らは互いの手を取り合った。




マスターのお屋敷の中庭でそれはすぐにはじめれられた。

木の棒を使ってネルビネさんの指示する通りに地面に模様(?)を描く。

三重円の中によくわからない文字を書いて、点と点を結ぶ。


「で、できました」

「じゃあ、木の棒は置いておいてこの言葉を円の中に入ったらつぶやくのよ」


ネルビネさんが分厚い本の一か所をトントンと指差し、見るように促す。


が、、


「あの、ネルビネさん私これなんて書いてるかわからないです」


申し訳なく伝えると驚いた顔をしていたネルビネさんのほうが申し訳ないといった風に頭を下げてきて困惑する。


「え、えっと!あ‥の・・」

「申し訳ありませんでした。真白さんへの配慮が至りませんで…」

「わっ‼だ、大丈夫ですから気にしないでください」



中庭は今だけ一種の見世物状態になっている。

それは仕方のないことでもあるのだが、、、


僕が魔法少女を探している理由を知っている者たちは彼女への期待を膨らませ、何も知らない使用人は魔法少女の契約を一目見たさにわくわくと胸躍らせて彼女を見やる。


彼女はどこか今までの元奴隷達(あの子たち)とは違った雰囲気があるからなのか自分でも馬鹿みたいに期待しているのが分かる。


その期待は幾度となく儚く散り、微かな可能性に今なおしがみついているというのに‥‥

僕は―まだ凝りこせずに期待してしまう。なんて愚かなんだろうか


「じゃじゃあ行きます‼」


円陣の中央へと真白が歩み出る。

小さな肩がすうっと深呼吸する。


「我、汝を求む。我が心の器にこたえし者よ我に力を―我とともにその力を宿したまえ! 今ここに契約を結び我が願いを聞き届けたまえ!!」


ブワッと凄まじい風が円陣を囲い込む。


「我と契約を結ぶのはお前か?小娘」


低い男の声が響く。


「―くっ‼」


風の勢いはまだ止まないのか?!


「――。」

「…―…!」


風の音で内容が聞こえない。

目を開けるのも立っているのもやっとな状態がしばらく続き、ふっと風が消える。


よっし!契約は成功し― !?


いったいこれはどういうことなんだ?





ネルビネさんから教えてもらって言葉を円の中央で唱えるとどこからともなく現れた風が円を中心にして空へ高く高くのびている。

すごい…

こんな光景初めて見た。

渦巻く風は壁のようになって外の景色は全く見えない。


「なんだか恐いな」


望んでも出られそうにない風の壁は望んでも出られなかった牢壁を思い起こさせる。

ゾッとして両腕でわが身を抱きしめる。

大丈夫。きっと大丈夫。


『どうして?大丈夫って言いきれるの?』

「―えっ?」


誰かの声が聞こえた気がして振り向く。

その瞬間目の前が眩しくなり、目を瞑る。


「我と契約を結ぶのはお前か?小娘」


男の人の声が聞こえて目を見開くとそこには艶やかな黒い毛並みを持った一匹の猫がいた。


「おい、娘。お前名はなんという?」


「猫が喋った‥」


「俺は本来は猫じゃない。天界の者は地上では力を保つために何らかの動物の姿を借りているに過ぎない。もとはお前たちと大差ない姿だ」


「そうなんですか・・・」


毛並みも瞳も真っ黒な猫(?)はじっと私を見つめる。


「な、なんですか?」

「名前は?」


少しのいら立ちが声音から読み取れて頭が真っ白になる。


「私は真白」


「ましろ…か。」


「貴方は?」


「俺に名はない。名乗る名はとうの昔に捨てた。だから名はない。」


「名前がないなら、、クロ。そう呼んでもかまいませんか?」


「―!黒‼何で―」


「いやですか?」


「‥‥いや、好きにすればいい」


クロは少し困ったように一瞬反応したがすぐに元のような態度へと戻った。


「では、よろしくお願いしますね。クロ」

「あぁ。」


こうして私はクロの手を握りしめた。



ぼふんっ


白い煙が立ち上り、いつの間にか周りを囲っていた風の壁がなくなっていた。

ただ私の目の前から黒い猫は姿を消し、代わりに黒髪・黒瞳の青年が立っていて、確かにクロの手を握ったその手には彼の手が握られていて…


「「‥‥えっ?‥‥」」

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