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灰色魔法少女のmemorial  作者: 紗南宮夕月
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動き出した運命の音 4

「では真白。本題に入ろうか」


涙を拭った私にマスターが真剣な瞳を向ける


「はい。」

「ネルビネ…」

「はい。真白さん。真白さんは魔法少女を知っていますか?」

「魔法少女?」


・・・記憶を手繰るが覚えがない


「わかりません」


マスターとネルビネさんが顔を見合わせ、困った顔をする


「えっと、ごめんなさい」

「い、いえ、こちらこそ申し訳ありません。

ただ魔法少女を知らないとなると…我々が真白さんに望むことを真白さんに強引に押し付けてしまう様に聞こえてしまうと思うのです…」


ネルビネさんは私を心配そうに見つめる。


「真白、今から話すことは1つの提案だ。

だから絶対じゃない。気楽に聞いてくれ」


マスターが私の頭をわしゃわしゃと撫でる

大きくて温かな手

心がポカポカする

首を縦にふり、笑顔を向ける

マスターも優しく笑う


「では話をしましょう。

まず、魔法少女とは天界の使者と契約を交わし、人ならざる力を有した純粋な少女のことをいいます。魔法少女はその力を使い、魔界から現れた魔物や魔界の者を魔界へと追い返すために戦います。」

「魔界…?天界…戦う?」


小首を傾げながら半鐘する


「魔界とは私たち人間が立ち入れないほど深い闇で覆われた世界のことをいいます。

魔界の住人は私たちの世界を支配下に使用としているため魔物などがたびたび出現し、あとを経ちません。」

「天界は?」

「天界はこの世界よりも白く、力を有した使者が住む世界と言われています。」


マスターが「分かるかい?」と聞いてくださるので力強く頷く。

ここまでは大丈夫そうだ。


「戦う理由は我々の生活を守るためです。

私たちの様な魔法少女以外の者は基本魔物などと戦うことは愚か、守ることも不可能です。

それに対抗出来るのは天界の使者と契約を交わした魔法少女だけなんです。」

「魔法…少女…だけ。」


天界や魔界があったなんて・・・はじめて聞いた。


? はじめて?


違う。何処かできいた?


わかんないけど懐かしい気がする


「真白さん。大丈夫ですか。」


ネルビネさんの声で我に帰る。


「だ、大丈夫です。」

「では、続けます。

天界の使者は先程も申し上げた様に純粋な少女でなければ契約できません。

本来であれば、契約の陣をうまく発動できるか否かで判断するのですが、マスターは少し特殊なので魔法少女になれる見込みのある方を見極める事がお出来になられます。」

「まぁ百発百中ではないんだけどね。」


はにかんで見せるマスター

つまり私はその見込みがあるからマスターに買われた…

自由になれた。

そんな感謝しかない。


「君は素質がある。だけど、魔法少女は常に死と隣り合わせでもある。」

「!?」

「魔物や魔界の者達は魔法少女を排除しようと全力で潰しに来る。

いくら魔法少女と言えど万能人ではない。

各人に限界がある。魔法少女の力の強さは一番の有力説では純粋さと言われている。

だけど人は大人になるにつれ、純粋さを失って行く生き物だ。

だから魔法少女をいつまでも続けることはできないし、その力の強さで序列が付けられる。」

「じょ・・れつ?」


死が隣り合わせと聞いてから少し頭がぼんやりする。

知らぬ間に口に出ていた言葉をマスターが説明する。


「序列とは力の強さに順位をつけたものだよ。

大昔には魔法少女は魔法少女自身の意志で戦っていたんだけれど…今はあまりにも魔界の侵食が激しいから序列制を設けることで魔界の侵食の酷い地域にも平等に魔法少女を雇えるようにされているんだ。

・・・高位にいればそれだけ報酬も高くなる。」


なんだろう。

今日は1日にいろいろあり過ぎて少し頭が痛い。

魔法少女…

せっかく奴隷から解放されて死から解放されたのに…また…

でも…その力がなければ私は今ここにはー


「それでね。真白。僕の姉・アリア・ベン・ニュカーリアも魔法少女なんだ。」

「!!」

「姉さんは魔法少女としては序列1位なんだが、五年前から行方不明なんだ。今も行方知れず。」


マスターの瞳に影が指す

辛そうな顔

痛いとか悲しいとかじゃない私が今まで見たことがない顔


「姉さんがいなくなってから何故か魔界側の勢力が増している。

序列1位がいなくなったから分からなくもないが、それでも急すぎると思うんだ。

姉さんが何かしら関わっている・・姉さんだけでなく高位序列者の多くがここ数年以内に疾走しているんだ。だから…」


マスターとネルビネさんの瞳が真っ直ぐに私を見つめる

痛いほどに・・・


しばしの沈黙


ガタガタガタガタ、馬車が揺れる音だけが響く


「だから、僕は君と同じような素質ある人間を探して魔法少女になって姉さん探しを依頼している。酷く身勝手なのは重々承知だよ。

でもね・・大切な家族をそんな簡単には諦められないんだ。」


眉を下げ、私の見たことがない感情の表情をする

マスターは不思議だ

知らない表情をころころと見せる

私が知っている表情は怒り・憎しみ・蔑み・痛み・恐怖・無関心・狂気それぐらいだから

この人は私に新しいものを与えてくれる

自由にしてくれた

生かしてくれた

名前をくれた

撫でてくれた

私を私として見てくれた

そんな人でも自分のために誰かを犠牲にせざるを得ないんだ

でも、犠牲にしている事実の中でも私は自由があるなら…


「真白、僕は君に魔法少女として姉を探してほしい。でも、死んで欲しくはない。

君が虐げられてきた14年間は終わりを告げた。

だから、君が自分で選択してほしい。

魔法少女にならなくたって君は家で雇えばいい。お金が貯まって自分がやりたいことが出来るようになるまで僕が責任を持って君の面倒を見るから。」


ポンッ


マスターの手が頭を撫でてくれる

優しく笑顔

その顔を私はただただ呆然と見返した




ーニュカーリア家・本邸ー

真白を引き取った夜


僕はため息をつく。

まさか魔法少女の存在すら知らなかったなんて

今どきいないと思っていたのに

いや、実際はほとんどいないが、あまりにも彼女の境遇が酷すぎたのか…

たった14歳にあれだけの経歴の傷を負わせるとは・・・人間の貴族や豪族だって魔界の者と同じ残虐さがあると思わずにはいられない


コンコン


「失礼します」

「ネルビネ、どうかしたか?」

「マスターに紅茶を。あと、真白さんについてお考えかと思いまして」

「あぁ。さすがネルビネ、気が利くな」


ネルビネがティーカップに紅茶を注ぐ


「真白さんが魔法少女を知らないと言った時には驚き過ぎて対応に遅れました」

「仕方ないよ」


苦笑混じりに答える


「今やどんな小さい子でも1度は聞いたことがあるんだ。

それを知らないーそんな境遇に大人が追いやったんだ。

人も魔界の者も内側は同じ様にしか思えないよ。」

「・・・マスター、ご自分をお責めになられませんように」

「うん。ありがとう。」


紅茶が身体に染みる


「あれから、真白さんは感情が抜けた表情でしたね」

「衝撃が強すぎたんだ。今日だけで、死と隣り合わせの日々から解放出来たと思ったら今度は自分を助けて奴に死んでくれと頼まれたんだ。

頭が追いつかなくてあの表情になるのは仕方が無いよ。」

「マスターは彼女がどう答えると思いますか?」

「NOと答えるだろうね。白紙にはしたくないが・・・望みは薄いだろう」


ネルビネが心配そうな顔をする

大丈夫

僕はこれぐらい覚悟のうえだ

そうやって笑ってみせる


「まぁ、明日には悪いが真白には答えを出して貰わないと・・・次の準備があるからね」


窓から覗く月が僕らを見つめる

彼女に人を信用出来なくさせてしまったかもしれないことが申し訳ない

僕はいい人にはなれないし、姉さんを見つけるためなら悪魔にだって魂を売るさ。

長い間投稿出来ず、すいません

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