動き出した運命の音 2
長らくお待たせして申し訳ありません。
半年も空いてしまうとは。
本当に申し訳ありません。
さて、今回で奴隷商売編は終わりです。
いろいろなフラグを立てまくってますが楽しみながら見て頂けたら嬉しいです。
ぼんやりと記憶を取り戻し始めた時には私は商売テントの裏・つまり商品交換所にいた。
さっきまでの売り物用の鉄鎖から頑丈な木製板に首と手を挟まれ、その板は鎖で繋がれている。
足には足枷が・・・。
いつの間に変えられたのかすら分からない。
儲け人と新しい主がお金の交換を済ませ私の鎖は主に渡された。
シルクハットが独特な私より少しだけ背の高いその男性はいかにもな貴族服である黒のロングスーツを着て・・・どうしてこんな人が奴隷を欲しがるのだろう?
そんなことが頭に浮かぶ。
貴族なら奴隷より使用人を雇う。
貴族の考えでは奴隷は汚らわしい自分の側に置くにふさわしくないものだから買うはずがない。
中には実験道具として買う貴族もいるが決して自分の足で出向くはずはない。
だからこそ目の前を歩く主の意図が分からない。
意図がわからないというのは私にとって最悪でしかない。
何をすれば気に触るか、何をしたらどう感じられるか、それらが分からなければ死ぬ可能性がある。
・・・いやだ。
死にたくなんてない。私は死ぬ訳にはいかない。
鼓動がいっそう速く胸打つ。
主の歩む歩幅は一定。
付き添いの女性は主より1歩後ろを一定の歩幅で歩く。
それに合わせ遅くも早くもない速度を不自由な足で出す。遅いと握られた鎖に重みがかかる。
早過ぎれば主を襲おうとしていると勘違いされかねない。ここは慎重にならなければ・・・。
そこではじめて気がついた。
歩いている道が段々と人気の無い裏道に入っていることに。
今や周りには私達3人以外には何も無い細い道。
確か最近裏道での奴隷殺しが多発している・・・・
奴隷殺しとは、人気のない裏道で奴隷の枷を外し「逃げていい。お前は自由だ」等と言って奴隷を逃がすフリをする。
勿論奴隷は主達がいる道ではなく来た道を走って逃げる。
その逃げている背後から銃で撃ち殺すものだ。
なんでも自由を与えられた奴隷の喜び顔が絶望と痛みによって歪められる様子はたいそう面白いそうだ。
やられるこちらは身も蓋もない話だ。
どうしよう。いつそうなったっておかしくない何か手を打たなくては。
ピタリ。
主の歩幅が止まる。えっ?
スーツの裾を翻しながらこちらに身体を向ける。
・・いや。
シルクハットを深く被り、1歩また1歩と近づいてくる。あと5、6歩で目の前に来てしまう。
どうしよう。
あと2歩。
いや。来ないで。
あと1歩。
するりと主が左の胸元に右手を伸ばす。
「・・・い・・や・・。」
小さな助けは誰にも届かない。
目が熱くなる。後退ろうとする足に鎖が引っかかり動けない。
下手に動けば転けてしまい逃げれなくなるでも、それよりも体の震えで立ち上がれなくなってしまいそうだ。
左の胸元で何かを掴む仕草。
もうダメだ・・。いっそ死ぬのなら!
ギュッと目をつむり顔を下に向ける。
銃口を突きつけられるのははじめてではない。
でも真正面からははじめてだから、やっぱり怖い。
バァン!!!!
頭の中に銃声が響く。
なのに、パサッ。
実際はそんな音しかしなかった。
撃たれた筈にしては何処も痛くない。
どうして?分からない?何が起きてるの?
恐る恐る目を開ける。
目の前には少し頬を赤らめた主が優しく笑っていた。
訳が分からずキョトンとした顔の私に主は照れたように人差し指で頬をかきながら首の枷に手を伸ばす。
「はい。痛くない?」
その意味を理解するのに少し時間がかかった。
主は首枷の木板を外してくれ、次々に手枷、足枷も取り外し全ての枷を外し終わると主と私の間にガシャンと落とした。
その様子がどういう事かわからない。
「マスター、彼女戸惑っていますよ。」
側付きの女性の声で我に戻る。
「あー、そうだね。えっと、ごめんね?」
主が申し訳なさそうにシルクハットをずらす。
主が奴隷に謝った??
「君にとって枷が邪魔だろうと思ったから枷は外したんだよ。
それに…その薄着だと風邪を引いてしまうかもしれないから!!!!」
バッと背を向け両手で顔を覆う謎の行動を取る主。
女性が小さくため息を吐きながら補足する。
「私達は奴隷殺しなどはしません。
貴方に話があったので貴方を買い取らさせていただきました。
無論、貴方を奴隷として扱う気は毛頭ありません。
使用人は間に合っていますので。」
コホン。1つ咳払いし、主を横目で見る。
「マスターは女性の身体をに不慣れでして・・・出来れば今すぐに肩にかけられたマスターのスーツを着て頂けますか?」
!
気が付かなかったけれど、肩には先程までマスターが羽織ってい黒いロングスーツがかけられていた。
これがさっきの『パサッ』の正体だろう。
なら、女性が言った「マスターは女性の身体に不慣れでして・・・」から考えると主のあの珍妙な行動は私の身体を見ないようにするため、または見たことによる赤らめなら・・・!!
そこまで考えて恥ずかしくなる。
今の今まで自分は薄い肌着1枚で過ごしていたことに。
急いでスーツに腕を通しボタンをとめる。
大きいため少しゴワゴワするがさっきまでの姿に比べれば文句なんてひとつもない。
「もう宜しいですよ。マスター」
女性がそう言うと主はこちらに向き直る。
ホッ。安堵のため息をつく。
「・・情ありませんね。本当に。」
「ッ!情けなくないだろう!彼女の姿を直視できるわけないだろ。僕はあそこにいたおっさん達と一緒にしないでほしいな。」
頬を膨らませながら女性に言い返す姿はなんだか子供みたいで気が緩んだ。
「ふっ、ふふふ。」
「あ!笑った!」
ビクッ!!
暴力されるかもしれないと心臓がキュッと縮まった。だけど主は私が笑ったことに嬉しそうに笑い返す。
私がずっと憧れていた明るい太陽のように笑う。
不思議な人だ。
さっきまでの恐怖を全て吹き飛ばして暖かさで包み込んでくれるみたいだ。
「さぁ、馬車に乗りましょうか。」
女性の声に主が頷き、さっと手を伸ばしてくる。
「よし、行こうか。」
伸ばされた手をとる。主が優しく握りしめ歩き始める。
いやー、マスターかっこいいですね。
男前だな!
さて、次回はマスターが少女を買い落とした理由に触れていきます。
次回もお楽しみに!
三ヶ月以内には投稿します!




