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灰色魔法少女のmemorial  作者: 紗南宮夕月
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夢からの現実は、2

ガヤガヤと大勢の声が聴こえる。


眼前には大きな赤い紅い布が裾をはためかせながら風になびいている。

奴隷商人に雇われた儲け人が私たちと布の間の3メートルほどの板場を左右に行ったり来たりせかせかと移動している。

まるで・・・私の存在などないかのように誰もが見て見ぬふりをしている。いや、本当に見えていないのかもしれない。

奴隷は汚らわしき者・・・見るに存在するに値してはいけない者だから・・。


「いやはや、待たされたわい。」


野太い声がこちらに向かって投げかけられた。

あごひげを生やした小太りの男が板場をギスギス言わせながら歩み寄ってくる。


「すみません。こいつが寝ていた為に遅くなりました。」


衛兵が軽く頭を下げると小太りの男は髭に手を当て、私に目を向ける。

ねっとりとした視線が足、腿、腹、首そして顔に時間をかけて向けられる。


「・・・っ。」


耐えられないその視線から顔を背け、きつく目を閉じる。

嫌になるほど思いしっているのに・・また、またあの場所に立たなくてはならない。

そんな思いが胸に込み上げてくると同時に顎をくいっと正面に向けられる。


「これはこれは上玉だな。商品とするのが惜しまれる。」


小太りの男が顔を近づけ、品定めをしてくる。男の口から吐き出される息に詰まりそうに、あげそうになりながらもジッと見つめ返すことしか許されない。

もしもここで逆らいでもしたら、殴られるか蹴られるかはたまた殺されかねない。

恐怖に身がすくむ。また、あの場所に立つと考えるだけで瞼が熱くなる。視界が歪む・・・。


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎』


突然赤い布の向こう側から雄叫びが聞こえてきた。板場を行き交う人が一瞬立ち止まり、布の向こう側に目を向けるがすぐさま動き始める。


「まったく五月蝿いな。ベルサルトイヤガルデニール族わ。」

「えッ!」


衛兵が息を飲むのがわかった。


「あの、ベルサルトイヤガルデニール族ですか?

野蛮で野生生物並みの生命力を持ちとてつもない握力で人1人を握り潰すとも言われているベルサルトイヤガルデニール族・・・。

いったいどうやって捕らえたのですか?」


小太りの男は自慢するかのように勿体振りながら髭をさする。


「なーに簡単なことさ、30人余りの狩人を連れて1匹の獲物に腕の立つ狩人が麻酔薬を10針刺してな網張って捕らえたって訳だい。

まぁ、麻酔薬打たれても暴れてね・・・4・5名重症者が出たが売り上げ値に比べりゃなんてことないさ。

ふぁはっはっはっはっ!」


下衆な声が板場全体に響き渡る。

耳をつんざく様な嫌な声。

逃げ出したいのに逃げ出せない身体が畏縮してしまう、身体と頭に焼き付けられた恐怖の声・・・。

冷たい汗が背中をゾッと駆け抜ける。

ギュっ。

薄汚い奴隷専用の布を両手で強く握りしめる。


「なんならお前たちも見ていけばいい。

奴らを拝めるのはこの先の人生にないに近い存在だからな。」


小太りの男が赤い布をさっと引っぱりこちらを手招く。

衛兵がそちらに向かって歩きはじめると首の鎖がジャラリと音を立てる。

行きたくなくても逆らう事が出来ない。

ジャラ、ジャラと鎖が擦れる音に足がすくむ。


胸が痛い。


冷や汗が額に滲む。


嫌だ。いやだ。イヤだ。


「・・っ。」


視界が真っ白になる。

陽の当たる世界・・・いつ以来だろうかこの目で陽の光を見たのは。

次第に目が慣れ始めた。

そこには大勢の人が左手にある商売台に向かって手を挙げている。その目には好奇と優越が伺える。

商売台には大きな鉄格子があり、四隅を私の鎖よりも太く頑丈な鎖で止められている。

まるで・・・動く事を許されない、生を感じさせない牢屋・・。


ドクン。


鉄格子の中には奴隷服を着て、首・手・足に枷をつけられた男性が怒りをあらわに牢屋に体当たりしていた。右肩と右半分の側頭部から血を流しながら・・。


ドクン。


カンカーン。商売台から鐘が鳴る。

奴隷の買い取り値の確定を告げる、奴隷にとっては死に向かう音。

大勢の人は嬉々と落胆を浮かべながらざわつき始める。


ドクン。


「こりゃ凄い。あれかベルサルトイヤガルデニール族か。いやぁ〜いいものを見ました。」

「だろう?次はそれだから準備させておけ。」


衛兵と小太りの男の会話が右から左に流れていく。

冷たい汗だけが額と背中を伝う。


ドクン。


血の気が失せる。何故、どうしてあれを見て笑っていられるの・・・?なんで楽しそうにしていられるの?わからない。わからない。


ドクン。


「おい。大丈夫か?」

「・・・えっ?」


顔を上げると衛兵が訝しげに覗き混んできた。

一瞬何を言われているのかわからなかった。

だけど、無意識のうちに胸元の布を強く握りしめてい事に気付き慌てて「大丈夫です。」と小声で答える。冷や汗は止まらない。

鼓動は早まるばかりでしかない。

目をつむり深く息を吸って吐く。


「早く服を脱げ。次が出番だ。」

「・・・はい・・。」


スルスルと奴隷服の紐を緩める。

パサッ。

布が足元に落ちて肌が露わとなる。

ゴクリ。隣で衛兵が息を飲むのが分かる。

儲け人がこちらに目を向けるのが分かる。

目を伏せ、赤い布の先にある商売台に向かって歩み始める。


次はいったいどんな人の奴隷になるのだろうか?いつになれば私は・・・日の下で自由になれるのだろうか・・・。


長らくお待たせいたしました。

灰色memorial

ようやく書けて良かったです。

次回は1ヶ月以内に投稿しますのでよろしくお願い致します。

また、ツイッターで感想等寄せていただけたら嬉しいです。*\(^o^)/*

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