その運命は何処へ向かう、5
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真白がクロと契約を交わしてから二週間が経った
「いかがなさいますか?」
ネルビネが書類に目を通していると聞いてくる。
正直まだ悩んではいるのだが、ニュラルをはじめとする彼女の教育係からは真白の学力は問題ない程度まで教育済みだと報告は上がってきているのだが…
何分彼女は奴隷として過ごした年月が流すして普通の生活への順応が今まで元奴隷よりも遅い点が気になる。
順応力は魔法少女を嫌う国に入った場合はとても重要となる。
なんの力もない一般人に紛れなくてはそれこそ生命の危機となるのだから‥‥
「ん~どうしたものかな?真白は良くも悪くも馴染んでなくそれでいて染まらない節があるからな」
「彼女の美点であり、短所でもありますからね」
ふぅと息を吐きだし、さし出されたコーヒーカップを手に取り注がれた黒い液体に自分が映りこむ。
彼女がこの屋敷にやってきてから彼女はなかなか周りと馴染めずにいる。
もちろん馴染めないからと言って一人でいるとかそういうのではない。現にニュラルという友達が出来ているし、元奴隷の子達とは気心知れるのかよく話しているのを見かけるのだ…。
ただ、彼女はその容姿をはじめとしまとっている雰囲気といい回りと違っている。
故に彼女は馴染めていない点も多いのだが。
コーヒーの苦さが口に広がる。
カチャンと音をたててコーヒーカップを受け皿に戻し、机の引き出しにしまっていた一枚の紙を取り出す。
【バネリオナ国主催 魔法少女防戦大会】
一番上に書かれた太字に眉を顰める。
バネリオナ国とはここから東に500デラー離れた場所にあるそこそこ大きな国だ。
だが、魔界側との異空間が多発しやすいため狙われやすい。
それを解決したくいつの時代かの国王が魔界の参謀に直談判し一年に一度しかバネリオナ国に巨大な異空間を作らないように取り付けた。(よくもまぁ、殺されずに許可されたものだと思う)
そしてその一年に一回の巨大異空間が二週間後にバネリオナ国に出現するらしい
魔界の軍勢を止めるには魔法少女を頼らざる終えず、こうしてビラが出回るのだが―
「…」
「マスター眉間に皺が寄っていますよ」
「! あぁ、ごめん。やっぱり悩むなって思って」
「いい機会じゃねぇか?真白の力を披露するならこれぐらいでかでかしい物のほうがいいしな」
「「!」」
机の上に置いていたビラをひょいっと掴みながらクロが笑っている。
いつからそこに?
だって今さっきまで君は―
「貴様!何のつもりでここに入ってきた!?」
ネルビネがさっと僕と黒の間に割って入り威嚇する。
その様子を馬鹿にしたようにフッと鼻で笑う。
「別に~?ついさっき入っただけだよ」
「…なんの用だ」
ネルビネが腰に手をゆっくり伸ばす。腰には隠し刀を装着しているその部分へゆっくりと―
「そんなんじゃ俺らは死なないし傷一つつかねえよ」
その一言で警戒レベルが一気に跳ね上がる。
「…」
「…」
沈黙が部屋に漂う。
ネルビネをはじめとするこの屋敷の多くの者がクロに警戒心を抱いている。
どこからともなく現れ、消えていく。
真白も基本クロが何をしているか知らないほどに自由に過ごしている。
人間でなくペアントでありながら人型をするよくわからない生き物を無警戒で過ごすほどうちの使用人は馬鹿ではない。
だから今もクロの真意が分からないからこそネルビネが警戒態勢を解こうとしないのだ。
「君は真白をこの大会に投げ入れるつもりかい?」
渇きを覚える喉を震わせて声を出す。声が震えるのを悟らせないように‥‥
「あぁ。あいつはこの大会に出て大勢の客に顔を覚えさせるんだ。
それだけでいい。それさえできれば優勝できなくても目的は果たせるからな」
「どういう意味だい?」
クロがスッと笑みを消し無表情になる。
黒い髪が、瞳が纏う空気さえも黒く染めるように錯覚させる。
部屋が冷えるように感じた。
「‥なぁ、俺はあんたらの問いに答えたんだ。次の質問は俺の番じゃね?」
漆黒の瞳がギラリと光る
「質も…ん…?」
「あぁ。ずっと気になってたんだがよ、真白は何者なんだ?下手な嘘はやめろよ?間違ってあんたらを攻撃したなんてことが上にばれればこっちも面倒くさいんでね」
背に冷や汗が伝う。
クロはおそらく真白の出生について聞いているのだろう。
確かにあの子はただの奴隷なんかじゃなかった。故に高値で売買され生まれたときから奴隷として使われたのだから―
だけど、彼に教えるのは僕の役目ではない。
これはペアントと契約者の問題だ。下手に立ち入れない場所だ。
小さく息を吐きだし吸い込む。
「それについて僕から話すことはない」
まっすぐに瞳を見つめ返す。
「へえ~」
「たとえ君に殴られようとこれは外の者が話せる内容ではない。知りたいなら真白と向き合えばいいじゃないか」
「‥‥」
「何故君は真白と距離を置いているんだい?ペアントなら―」
「うるせえな」
ビクッ
クロな纏った空気が一瞬にして変わる。
いやな汗が止まらない。
でも、ここで引くわけにはいかない。僕はこの屋敷を守る主でここにはネルビネだっているんだ。
いつも彼女に守ってもらうだけじゃ男として示しがつかない。
恐れを捨ててクロに向き合う。
短くも長い沈黙が落ちる。
ハアーと盛大な溜息をこぼしたクロはさっと背を向け出口へ向かう。
「君は―」
「話は終わりだ。真白に大会のことは大まかに伝えるから詳しくは教えてやれ」
「!えっ、ちょっ、待っ―」
バタン
ええええええええええええええええええ!?!?
勝手に大会出ること決まってるし‼
クロを引き留めるときに椅子から立ち上がったもののなんかすごい脱力感に見舞われへなへなと椅子に座りこむ。
いったい彼はなんだったんだ
「あいつは一体何様なんでしょうか」
ネルビネが苛立ちを露わにしてクロが出て行った扉を睨みつける。
まぁ分からなくもないんだけど。
でも、、彼の真白との距離に触れたときに見えたほんの一瞬悲しそうなあの顔は―
「‥‥」
「?マスターいかがなさいましたか」
「うえっ!?!いや、何でもないよ。ただ考え事してただけだから何でもないよ」
そう言って笑ってごまかす。
だってあの顔はまるで―愛しい人を亡くした様な―いや、まさか。
ペアントと人は生きる時間がそもそも違う。そんな中に恋愛感情なんてあるはずがないしましてやクロのように人型になれるペアントなど聞いたことがないのだから
きっとこの考えも僕の思い込みかもしれないのだから、、。
「ネルビネ、悪いが明後日あたりに真白にバネリオナ国主催の魔法少女防戦大会の詳細を話してくれ。時間がないから一般知識を早急に詰め込むように各面子への連絡もよろしく頼む」
「かしこまりました。我が主よ」
優雅な一礼をしたネルビネが書斎から出て行く。
「真白にとって初めての仕事が防戦大会とは…魔法少女は絵本で伝わるような綺麗な存在じゃないことに幻滅しなければいいんだが」
クシャリと紙を握り潰す。
憎々しい気持ちを吐き捨てるようにその紙を屑籠に投げ入れる。
1デラー=1.5キロです。




