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俺の彼女は異世界住人  作者: なで神(中村啓太)
6/6

俺達の部活動見学は千荊万棘

せっかくの休日だが、今日は学校に行かないといけない。

理由はいたって簡単で、部活動があるからだ。

「んんっ……今日は土曜日でしょう? 早起きして、用事でもあるの?」

音羽(おとは)がベッドから身体を起こす。

(わり)ぃ、音羽。起こしたか?」

「いいえ。丁度目が覚めたところよ」

『それで』と、前置きして彼女は続ける。

「何処かへ行くの?」

「部活だよ」

「貴方、部活なんてやっていたの!?」

「美術部に入ってるって、知ってるだろ!」

「そうだったわね。ここ数ヶ月、放課後は直帰(ちょっき)だったから忘れていたわ」

「まぁ、確かに久しぶりの部活だけど……」

そういえば、今日は皆部活があるって言ってたな。

俺は掃除、音羽は洗濯を終えると、姉さんの作った朝食の作り置きを食べる。

姉さんは、先に学校へ向かった様だ。

教師は大変だな。テストの作成とかあるらしいし。

朝食を済ませると、直ぐに玄関へ向かう。

「少し待ってて、洗濯物を干してくるから」

「それは構わないけど、音羽も行くのか?」

「いつ零使が現れるか分からないでしょう?」

確かにその通りだが。本当は一人が寂しいとかじゃないだろうか?

「…………」

そんなキャラじゃないよな!



学校に着くと、開口一番(かいこういちばん)皆に、ある提案をする。

「今日は音羽に部活紹介をしようと思う」

何故、部活の違う皆が一緒にいるのか? それは、美由希(みゆき)の考えた俺達のグループのルールで、わざわざ学校の靴箱に集合する事になっているからだ。

「良いんじゃないか?」

「時間もあるし、大丈夫……だよ」

「まだ音羽っち部活に入ってなかったんだ!? じゃあ今日は、家庭部の良いところを沢山紹介しちゃうよ~!」

荘司(そうじ)美奈実(みなみ)、美由希も賛成の様だ。

見学する当人は、あまり乗り気じゃないみたいだが、これで退屈しないだろう。

「それでは、宜しくお願いしますね」

流石だ。俺と二人でいる時とはまるで別人だ。


学校に着くまでは――――

「面倒ね。私は部活動に興味ないの」

「前に約束したよな? 今度、部活を紹介するって……」

「覚えていたのね。でも、あれは貴方が私の(ブレード)に適しているのか()ていた時の事で――――」

そう話す彼女の言葉を(さえぎ)る。

「でも、いいのか?」

「……何がよ?」

「もし零使(れいし)が部活中にやって来たらどうする?」

「確かに、そうね……」

音羽は『うーん』と、考えると。

「仕方ないわね。付き合ってあげるわよ」

と、この提案に乗ってきた。


「じゃあ! 始めは家庭部を見に来てよ!!」

美由希の気迫に押された俺達は、部室棟にある家庭科室に来ていた。

「…………」

「……どうして和斗(かずと)達もついて来たの?」

「暇だし」

俺の代わりに荘司が答える。

「美術部の活動は?」

「ま、問題ないだろ」

いい加減な美術部員がここに二人。

()く言う俺も、音羽の部活動見学に興味がある。

「で、家庭部はどんな事してるんだ?」

「よくぞ聞いてくれたね! 家庭部では、美味しい料理を作ったり、裁縫(さいほう)で可愛い物を作るの! 部員は三人だけだけど、皆で協力してるんだよ! ねっ! 皆!?」

「「は、はいっ! 先輩っ!」」

三人しかいなかったのか。家庭部員。

あと、いきなり二人に振るな!

「ん? 先輩?」

「ふふっ。そうだよ。二人とも私の後輩なの!!」

何故か美由希は誇らしげだ。

「二年生の海原(うなばら)涼香(すずか)ちゃんと一年生の海原春香(はるか)ちゃん!」

「「宜しくお願いします」」

『宜しくな(宜しくね)』

「二人は姉妹なんだよ!」

『見れば分かるよ』

二人はよく似ている。名前を聞かなくても、姉妹だと直ぐに分かる位だ。

姉の涼香ちゃんは黒髪が綺麗(きれい)()で、物静かな感じだ。逆に妹の春香ちゃんは笑顔が眩しい金髪の娘で、美由希程ではないが元気な印象(いんしょう)を受ける。

「それより、お前、部長だったのか……」

「へ? 部長?」

え? こいつ、自覚ないのか?

「ええ、先輩は部長という事になってます」

「そうだったの!?」

知らなかったのか。

あれ? じゃあ誰が新学期の部活動紹介をしたんだ?

『……………………』

「……………………」

この謎には触れない方が良いかもしれない。

「今日は何してるの?」

何で、部長のお前が聞いてんだよ!!

「今日はハンバーグを作りたいのですが……」

「うん。良いよ」

軽い!

良いのか? それで良いのか家庭部!?

「あら、なかなか良いお肉ね」

「本当! 美味しそう」

早速、音羽と美奈実は家庭部に溶け込んでいる。

って、どうして肉があるんだ?

「…………」

肉を持っている春香ちゃんの方へ目を向けると、俺の視線に気づいたのか親指をグッ! と立ててきた。

そうか! 部長が許可する事を見越(みこ)して、事前に持って来ていたのか!?

この後輩……やるな。部長(みゆき)の事をよく解かっている。

「はい。黒毛和牛を用意しました」

黒毛和牛!? 一体何処から金が出ているんだ?

ごくり。と、美奈実と荘司の喉が鳴る。

俺も、額からの汗が止まらない。

音羽は、俺達とは対照的で平然としている。

「あの、先輩方も宜しければ食べていってください」

「「良いの!!?」」

「こら! 家庭部の物だろ? ほら、もう十分見学したし、次はコンピューター部に行くぞ」

今回の趣旨(しゅし)を忘れそうになっている二人を注意する。

が――――

「「いえ(いや)、私(俺)達は家庭部を手伝うから、和くん(お前)は先に行ってて(くれ)」」

居座る気満々だ!

無理にでも連れていくしか――――

「「待って(待て)! 活動を体験する事も大切だと思うの(思うんだ)」」

二人の言う事にも一理ある。

だが、二人の私欲に満ちた考えが手に取るように解るのも、また事実。

「じゃあ、体験するのは音羽だけで良いよな?」

決して、二人の思い通りにはさせないっ!

「「和くん(和斗)、私(俺)達も音羽ちゃん(神川(かみかわ))と絆を深めるべきよ(だ)!」」

「…………」

どうして、こんなに息がぴったり合うのか不思議なくらいだ。

「あの、先輩も観ていってください」

涼香ちゃんに声を掛けられる。

そうだよな。可愛い後輩の誘いを断る訳にはいかないよな!

「じゃあ、俺も手伝うよ」

「「か、和くん(和斗)!!」」



ハンバーグを食べ終えた俺達は、コンピュータールームにいた。

「相変わらず広いな……」

「そうだな」

コンピュータールームはとても広く調べものに適しているが、四階の隅にあるせいであまり利用されていない。

「…………」

「あと、どうして美由希がついて来てるんだ?」

「部活終わったから」

「いや、終わってないだろ」

「いいの! 私も音羽っちの部活見学を見たいの!」


食器を洗い、片付けた後。

家庭部の後輩達は、もう直ぐそこまで控えている夏休みの為に家庭部の活動計画を立てようとしていた。

「先輩。今年の夏は合宿をしましょう!」

「良いね! どこ行く?」

相変わらず軽いな。

後輩二人を甘やかして、何でも許可してるんじゃないだろうな? 不安になってくる……。

子供の様にはしゃぐ姿は、実に美由希らしい。

そして、後輩二人の方がしっかりして見える。

「じゃあ、俺達はコンピューター部の所に行ってくるよ」

「待って! 私も行く!」


そう言って美由希は、後輩二人を家庭科室に残してきたのだ。

「それで、部員は何処にいるんだ?」

「あそこに……」

美奈実が指で示した先には数人の生徒がいる。

「え? あれが部員?」

ただ勉強や調べものをしている様にしか見えないぞ。

「そ、そうだよ」

「あ、やっと来た。遅いよ美奈実ちゃん!」

銀髪の娘が声を掛けてくる。

「ご、ごめん」

「どうして遅れたの?」

ハンバーグを食べていたからです。

「あっ、今日は音羽ちゃんに部活紹介をしているの! コンピューター部も見学して大丈夫だよ……ね?」

「はぁ。それで遅れたのね? うちの部は構わないわよ」

違います。ハンバーグを食べていたので遅れました。

「この部は何してるの!!」

美由希の目がキラキラとしている。

「よくぞ聞いてくれました!」

美奈実、部活紹介の時の美由希と同じ顔してるぞ。

「この部は、パソコンの機能を完全に熟知(マスター)し、使い倒すのを目的に作られました。現在はゲームを作成しています」

「へぇ、どんなゲームなんだ?」

今度は荘司が食い付いた。ゲームに興味あるのか?

「RPGよ! タイトルは――――」

『なで神の冒険!』

部員全員の興奮した声が響く。

『試作段階だから』と言いながらも、ご丁寧にゲームの操作方法まで教えてくれた。

「何だか、面白くなさそう」

不意(ふい)に荘司の口から言ってはいけない言葉が発せられた。この場合、ゲームの面白さは関係ない。きっとコンピューター部員が多くの時間を使って一生懸命作ったゲームなのだろう。

それを『面白くなさそう』とケチ? を付けられたのだ。腹が立つだろう。

いや、俺もそう思ったが。

「荘司!」

「わ、悪い!」

「大丈夫ですよ。事実なので」

と、部長らしき女子生徒が無表情で言う。

事実なの!? 解っててあんなに興奮してたの!?

「それより、美奈実もパソコンの機能を熟知(マスター)してるのか?」

特に理由はないが、急いで話題を変える。

「す、少しだけ……だよ」

それは熟知(マスター)したと言えるのだろうか?

「それで、今はそのゲームを作っているのか?」

「う、うん」

「そうか……」

「…………」

「よし! 次、行くか!」

これ以上は会話が続かないと思った。



美奈実は部員に捕まり、彼女不在のまま美術部の見学は始まった。

部員は全員合わせて五人で、内三人は幽霊部員だ。

つまり、普段部活動に来ているのは、俺と荘司の二人だけである。

「和斗くんが普段どんな活動をしているのか気になります」

「私も!」

「お、おう……」

(なぁ、どうする?)

荘司が周りに聞こえない程度の声で話し掛けてくる。

(困ったな。何か打開策(だかいさく)はないか?)

俺も小声で返事をする。

(無い)

即答かよ!

((…………))

「どうしたの? 二人共」

「「い、いや……」」

「あっ、和斗! やっと来たわね!」

「ね、姉さん!? どうしてここに!!」

「私? ふふっ、私はね――――」

「…………」

「この部の顧問(こもん)になったのよ!!」

「え? えぇぇーーーっ!!」

「どうして美由希が驚くんだ」

「それで和斗を待っていたのに、なかなか来ないんだもん」

「悪い。今日は音羽に部活紹介をしているんだ」

「あら、そうだったの? じゃあ、次は美術部?」

「はい! お姉様!」

音羽が元気に返事をする。

「じゃあ、ゆっくり見ていってね」

「はいっ!」

何だか嫌な予感がする。

「早速、何か描いてみてくれませんか? 和斗くん」

「私も見たい!!」

早くも嫌な予感が的中した。

「いや、俺よりも荘司の方が上手いぞ!」

「いやいや、和斗の方が断然上手い!!」

「いやいやいや、荘司の絵はこの国の国宝(こくほう)になる位だからな。俺の絵なんかと比べるべきではない!」

「いやいやいやいや、和斗の絵はあのナデガーミ美術館に寄贈(きぞう)される程で、この世で唯一無二の画風だと云われているんだ!!」

互いの絵を()めあう俺達。

「あの、どうして二人とも描くのを押し付けあっているの?」

「「い、いや! 別に押し付けあってなんて――――」」

「それじゃあ、二人に描いてもらいましょう!」

「「!!?」」

姉さん……。

((余計な事を!!))

「それでは、水無(みずなし)和斗 対 洸山(ひろやま)荘司 画力対決。開始(スタート)!!」

いつ、セット用意したんだよ!!

「実況は私、川島(かわしま)美由希と――――」

「解説の神川音羽です」

「宜しくお願いしますっ!!」

「宜しくお願いします」

音羽、馴染(なじ)んでるなぁ。

友達と学園生活を楽しむのは良いことだと思う。

でも、俺達を(おとしい)れるな!!

「更に!!」

((まだ何かあるのかよ!?))

「今回の審査員は、美術部顧問の水無(かおり)先生とコンピューター部所属であり、水無和斗選手の幼馴染! 美奈実っち、ではなく。西条(さいじょう)美奈実さんです!!」

((いつ、戻ってきたんだ!?))

「更に!!」

((もういいだろ!!))

「スペシャルゲストとして、我らが担任! 細川(ほそかわ)紀行(のりゆき)先生と――――」

岡部(おかべ)だ! 二人共、良い絵を期待しているぞ!」

((地獄だ!!!))

((もう……、どうにでもなれぇっっ!!!))


数十分後。

「あはははっ! な、何これっ!!」

「っ!? …………」

「和斗っ! ふふっ!!」

「二人とも、頑張った……よね? ふふっ」

「…………」

「これは……酷いな」

「「…………」」

結果は(ひど)いもので、点数を付けて貰えないどころか、ひたすら笑われるというものだった。

だが、決して俺達が絵を描く事にむいていない訳ではない。

「二人共! 絵の勉強をしていませんでしたね!!? …………ふふっ」

「「はい……。すみません」」

そう。俺達は、部室に来ても道具をろくに開けもせずに、ただただ遊んでいたのだ。

そのツケがまさに今、回ってきたところだった。



お昼を食べ終えると、午後は部活の無い美奈実と美由希は帰っていった。

「あと他に見たい部活はあるか?」

(それと、この部室棟の中で活動してる部にしろよ?)

小声で音羽に確認する。

(解ってるわよ。零使が来た時に遠くだと意味がないもの)

覚えていたか。

「時間はあるけど、軽音楽部の見学を最後にしようかな」

「いいね! 俺も見てみたかったんだよ!」

「貴方達は絵の勉強をしないと……ふふっ」

「「笑うなっ!!」」

「まぁ、今日くらい良いだろ?」

「それじゃあ、行きましょ?」

「「おう!」」



音楽室のある階に来ると、ギターやベース、ドラムやらの音が聴こえてきた。

扉を開けると、余程防音効果のある扉だったのだろう、一気に大きな音が身体の中に流れ込んできた。

「「っ!!」」

俺達に気づいたのだろう。直ぐに音はピタッと止んだ。

「どちら様ですか?」

「邪魔して悪い。少し部活を見学したいのだが」

「良いですよ?」

俺達の頼みを(こころよ)く受け入れてくれたメンバーの中に男子生徒の姿はみられない。ガールズバンドなのだろうか?

「女子しかいないのか?」

と、荘司が聞く。

「はい」

見たところ全員、一・二年生の様だ。

「バンド名は?」

『TEAM NADEGAMIです!!』

「ダサい……」

また荘司が言ってはいけない事を口に出してしまっていた。

バンドにとって、バンド名はいわば自分達の象徴だ。

それを『ダサい』と罵倒(ばとう)? されたのだ。

いや、俺もそう思ったが。

怒らない訳がない。

「荘司!」

「!? す、すまない!」

「いえ、慣れっこです!」

と、リーダーらしき女子生徒が笑う。

何故、慣れてるの!? よく言われるの!?

「私は可愛い名前だと思いますよ」

音羽が優しい声でフォローをいれる。ん?

(ギターとベース、ドラム、キーボード……私は何をしようかな……)

まさか、わりと本気で気に入ったのか!?

木琴(もっきん)なんてどうですか?」

あの子、何勧めてんの!? バンドに木琴は合わないだろ!! いや、良い音だけどさ。

「新しいわね!」

新しいけど!

「俺、トライアングルしようかな」

「美術部は!? あと、空気読もうぜ。ガールズバンドだから!!」

「あ、私はリーダーの美樹(みき)です。ギターボーカルをしています!」

やる気に満ち溢れている。彼女からは、そんな印象を受ける。

「私はキーボードの夏実(なつみ)です」

何ていうか、普通だな。

「あたしはドラムのマユ! 宜しくな!」

「「おうっ。宜しく……」」

何だか気が強そうな娘だな。

「僕はベースの(ゆき)です」

僕っ娘?

「私は木琴(ドラム)の音羽です」

おしとやかな娘だな。って――――

「いつ加入したんだよ! それに、それはドラムじゃないっ!!」

「俺はトライアングルの――――」

「お前はしなくていいっ!!」



「はぁ……」

散々な一日だった。

誘ったのは俺だけど、こんなに疲れるとは思ってもいなかった。

「それで、どの部活に入るのか決めたのか?」

「一応ね」

美術部以外、全員女子生徒の集まりだったからな、女子からしたら結構入りやすいと思う。

「何部にするんだ?」

「家庭部にするわ」

「家庭部か……」

美由希に振り回されそうだ。

「毎回貴方の面白い絵を見られる美術部も魅力的だけど――――」

「っ!!!」

(料理のレパートリーを増やしたいから……)

「ん?」

まぁ、彼女なりに考えがあるのだろう。

ひとまず音羽の部活が決まって良かった。

あのメンバーならきっと楽しい(はず)……。

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