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俺の彼女は異世界住人  作者: なで神(中村啓太)
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一日限定!? 俺の学園生活は美少女祭

学校に着いた俺達……いや、俺を待ちかまえていたのは――――

「「「「あ、和斗(かずと)くんおはよう!」」」」

「和斗くん今日もかっこいい……ね」

「次の時間の体育一緒にペアになろ!」

「あっ! ずるい! 私もペアになりたいのに!」

「お昼一緒に食べよ!」

「今日は、二人で……一緒に帰ろ!」

「…………」

――――クラスの女子生徒達だった。

真っ先に感じた。これは、何かの陰謀(いんぼう)がはたらいている!

まぁ、だいたい想像はつく。

……音羽(おとは)仕業(しわざ)だな。

「音羽?」

「どうしたの?」

「何をした?」

「いえ、私は何もしてないわ。……確証(かくしょう)は無いけれど、零使(れいし)の能力かもしれないわ」

真剣な表情で音羽は言う。

「零使も人間を操れるのか?」

「分からないわ」

「分からない?」

「この前人間に化けていた様に、前例のない能力かもしれない」

零使が人間に化ける事が出来ると明らかになったのは、つい先日のことだ。

「それで、こんなことをして零使になんの得があるんだ?」

「私達を動揺させる。又は、油断させて隙をつく作戦なのかも……」

音羽の容疑が晴れる訳ではないが、筋は通っている気がする。

「ちょっと、和斗くん。音羽ちゃんとばかり話してないで私ともお話しましょ?」

……何か、この状況を打破(だは)する方法はないのか?

辺りを見回してみる。そして俺は気づいた。

男子に操られている様子はみられない。

ということはだ、この光景を()の当たりにして、俺のことを(ねた)みに妬んだ男子達によって、最後に最期を迎えることになりそうだ。

「…………」

(何としても阻止しなければ!!!)

この間にも男子達から負のオーラが増していく。

その証拠に、握っているシャープペンシルを手に力が入ってしまったのか、誤って折ってしまった生徒もいる。

でも、どうすれば――――

考えていたその時、俺を助けるようにHR(ホームルーム)開始のチャイムが鳴る。


「ずなし――――水無――――」

「おい、どうしたんだ水無? 心配事でもあるのか?」

「っ! せ、先生……」

いつの間にか担任の細川(ほそかわ)先生がHRを始めていた様だ。

余程(よほど)考え込んでいたのか先生が入って来たところはおろか、話していた事にも気づかなかった。

「いえ、何でもありません……」

三十四人いる内の一人である俺の事もちゃんと見てくれている。

細川先生は、教師の鏡だと思う。

だけど、今回の件ばかりは巻き込む訳にはいかない。

零使が関与(かんよ)しているかもしれないし、していなかったとしても、相談する様な事ではない。



HRが終わり、一時間目の準備をする。

「一時間目は体育か」

俺の前の席に座っている親友の洸山荘司(ひろやまそうじ)が振り向き様に言う。

「そうだな」

女子生徒達は体操服に着替える為、更衣室に向かっていく。

男子はそのまま教室で着替え、後で女子生徒達と合流する。

高校生にもなると体育は男女別にする学校が多いが、この学校では合同で行われる。

特に意味は無いようだが。

「和斗。今日はペアを組むの止めておくよ」

ふと、荘司がそんな事を言い出す。

体育はいつも荘司とペアを組んで授業を受けているのだが。

「どうしてだ?」

「お前は、女子と……組むんだろ?」

「んな訳あるか!」

男女合同とはいえ、男女でペアを組むことは流石(さすが)に禁止されている。

荘司も知っている(はず)だ。

「お前……いつから、あんなに……モテるようになったんだ?」

荘司が今世紀最大の謎とばかりに、疑問を口にする。

「あれは……」

どうしたものか。

零使の事を話す訳にもいかないし。

「そうか……。だが、(しばら)くそっとしておいてくれ」

「勝手に納得するなよ!」

今回は、荘司も敵に回ってしまったと考えた方がいいな。

でも、変だな。荘司は色恋(いろこい)にあまり興味無かったはずだが……。



結局、荘司に見捨てられたまま授業が始まった。

「今日から女子担当の先生が変わることになった」

ラジオ体操が終わり先生の前に集合すると、体育の担当でもある岡部(おかべ)から、新しい女子担当の先生を紹介される。

体育は男女合同だが、教師も男と女の二人の先生がいる。

「女子担当の水無先生だ」

またか!!

俺は、数学の授業を思い出していた。

この二人のコンビは俺とつくづく縁がある様だ。

「これから宜しくね」

『宜しくお願いします!』

姉さんは優しい性格をしているからな。

就任した日にはもう(ほとん)どの生徒と仲良くなっていたみたいだし。

「それで今日は、男女に別れてドッジボールをしてもらおうと思う」

まさか高校生にもなって、小学生と同じ授業を受けることになろうとは。

でも、男女別だと力の差が出てしまうのでは?

「えー!? 私、和斗君と同じチームが良い!」

「「「私も!」」」

そうだった!

まだ、零使の攻撃? は続いてるんだった。

「あら~、和斗ったら音羽ちゃんだけでなく、こんなに彼女がいるのね~」

『なんですって(なに)!?』

女子・男子・岡部までが驚きの声を上げる。

このままでは、音羽と一緒に住んでいる事もバラされかねない!!

これは…………非常にまずい事になった。

審判(しんぱん)は私が責任を持って遂行(すいこう)しよう」

岡部が審判に名乗り出た。しかし、責任とは違う何かで動いているのは岡部の目を見れば明白(めいはく)だった。

『よし! ドッジボールやるぞぉぉおーー!!』

クラス全員が一致団結(いっちだんけつ)する。

『おぉおーー!!』

そして、開戦の合図を表すかのようにクラスメイトの怒号(どごう)が上がる。

先攻は女子チームだ。

「!?」

開始早々(かいしそうそう)音羽から凄まじい威力(いりょく)の球が、俺目掛けて飛んでくる。

「っつ、あぶねっ!」

(おい! どういうつもりだ!?)

目で音羽に(うった)えかける。

(あれから、どれだけ強くなったか見せてみなさい!)

そんな事、ドッジボールで分かるのか?

「次は必ず当ててみせる!」

彼女も、やる気にみち溢れている。

女子の中では間違いなく音羽の運動神経が一番高い。

女子チームは、音羽を主戦力にしてくる可能性が大きいな。

音羽の動きに注意を向けておくか。

後攻は男子チーム。

バウンドした球を手にした荘司が、俺を……目掛けて……球を――――

「……荘司?」

「悪く思わないでくれ……和斗。俺だって、親友(とも)を亡くしたくはない」

「何をする気だ!!」

「行くぞっ!」

ビュっと、風を()る様に荘司の手から弾丸(だんがん)が打ち出される。

「くっ!」

流石だ。荘司は運動部ではないが、運動神経が良い。音羽とは比べ物にならないが、同じチームにいる分、至近距離からの攻撃を可能にする。


「…………」

最初からこうなる事は分かっていた。だから、外野(がいや)に入る事を狙ったのだが……そう甘くはなかった。


――――数十分前――――

外野の二枠を狙うしかない!

そうでなければ、嫉妬に狂うクラスメイト達から(はさ)み撃ちにされるだろう。

それだけは()けたい!!

そして、その時が来た。

「じゃあ、最初に外野を決める! 外野に行きたい人はいるか?」

『はい!』

なっ、なにぃっ!?

そこには、手を挙げる男子全員の姿があった。

団結力凄いな……。

「始めの外野は一人だ!」

「一人!?」

二人だと思っていた分、驚きは大きい。

大幅に外野になれる確率を下げてきた。

だが、やるしかない!


そして、今に(いた)る。

荘司の放った球を避けると、球はその軌道(きどう)上にいた女子生徒に当たる。

数分経つ間に、男女双方のチームメイトが一人、また一人と消えていく。

美奈実の手に球が渡った頃には、両チーム共に数人になっていた。

移動空間が広がり、容易(たやす)く球を(かわ)せる様になる。

「球を二つに増やすぞ!」

そう言うや否や、審判は新たな球を荘司に向けて軽く投げる。

対策も考慮(こうりょ)済み……か。

「いくよ。……和くん!」

静かに、それでいて闘志が宿(やど)っている声だった。

横には、武器(ボール)を持った荘司が立っている。

当たってしまえば終わりだと分かっている。

それでも、ここまで無傷で来たんだ!

俺の心には、小さな灯火が燃えていた。

荘司の球には当たっても、アウトにはならない。だが、どちらの攻撃も防いでみせる!

「えいっ!」

()らえ!」

美奈実と荘司の球は、身体の動きからほぼ同時に放たれると予測できた。

俺は、攻撃を躱せる程度に美奈実と距離をつめる。美奈実の投げる球は遅いと()んで、二方から迫る脅威(きょうい)相殺(そうさい)できないかと計算する。

難易度は高いが、無傷で勝利するには最善(さいぜん)の策だろう。

球が投げ出された瞬間、俺は身体を(かが)める。

故意(こい)かそうでないのかは知らないが、二人共顔面に狙いを定めてきた事に恐怖を覚える。

手加減なしかよ!!

目論見通(もくろみどお)り二つの弾丸が俺の上で反発し合う。

転がった球を音羽と美由希が拾ったところで、授業終了の鐘が鳴った。

が――――

(いった)ぁぁあーーーっ」

美由希の攻撃と同時に飛んできた弾丸が俺の背中に(とど)めを刺した。

「次の時間(たいいく)もドッジボールするか!?」

止めてくれ。

もう、声を出すような元気(ちから)は残っていなかった。



その後の授業は座学で、昼休みまでは平和だった。

「和斗君。お昼ご飯一緒に食べよ?」

『私も!』

「なぁ、和斗」

「おう、どうした?」

『俺達も、一緒に食べても良いよなぁ?』

俺の肩が、置かれた男子達の手によってギシギシと悲鳴を上げている。

「あ、あぁ、俺は(かま)わないが……」

横目で女子達を見る。

「え~。私、和斗君とお昼食べたいのに~」

「…………」

男子達の血が煮えたぎってくるのが伝わってくる。

「それは残念だ……」

『本当に……残念だよ。放課後が楽しみだな』

俺、放課後に何されるの!? 体育館裏とかに呼び出されるのだろうか?

「いつもみたいに私が食べさせてあげましょうか?」

ふと、音羽の口から(こぼ)れた言葉にクラスメイト全員が過剰(かじょう)に反応する。

音羽の言葉は、全くの事実無根(じじつむこん)である。

「皆、俺はそんな(ほどこ)しを受けた覚えはない!」

必死だった。もし、ここで否定しなければ命はない。そんな気がしてならなかった。

だが、俺の想いも(むな)しく、音羽のある一言がクラスメイトの気持ちを一つにする。

「そんな……(ひど)いっ! あんなに……あんなにっ! ううっ……!」

『…………』

「…………」

こいつも操られてるんじゃないだろうか?

『じゃ、死んでもらおうかなぁ』

男子達が携帯電話を取り出した。

俺は、教室と廊下を繋げる扉を開ける。

こんなに重い扉を開けたのは初めてだ。いつも開けているモノと同じモノとはとても思えなかった。

「待てぇええーー!」

放課後じゃなかったのかよ!



俺は今、校庭の隅にある倉庫の陰に隠れている。倉庫には体育の授業で使う道具や運動部の荷物が置いてある。

まさか、校庭までクラスメイトが追ってくるとは……。

それでも、追ってくるのが俺のクラスだけなのは不幸中の幸いだな。

「何処へ行った!」

「何処かに隠れているはずだ!」

「草の根分けても探しだせ!」

プロ顔負けの統率力。

……いつ訓練したんだ?

手には直ぐに連絡出来る様にか携帯電話が握られている。

「A班は北をB班は南、C班は四つに分かれて各校舎の探索に回れ!」

『了解』

ここが見つかるのも時間の問題か……。

腕時計を確認する。

昼休み終了まで……あと二十五分。これは、逃げ切れないな。

「おや? こんな所で何をしているんだ?」

「せ、先生」

名前は覚えていないが、確か陸上部の顧問をしていた気がする。

「君も運動か? 元気があって良いな」

「『かくれんぼ』をしているので、静かにお願いします」

咄嗟(とっさ)に嘘をついた。

「そうか」

先生は気を使って倉庫の入り口の方へ向かうが、手遅れだった。

倉庫の陰にいたつもりだったが、先生は何処かから見えていたのだろう。

「見つけたぞ!」

「何!?」

見つかった!?

「返信!」

一人の生徒が格好良くポーズを決めてメールをしている。

何故電話を使わないんだ! バカだろ……。あと、正しくは送信だ!

囲まれる前に距離を離そう。

「距離を空けさせるな! 攻めろぉぉおーー」

『おぉぉおおーーっ!!』

本当に普通の高校生なのだろうか? やはり、何かの訓練を受けているのでは? そう思わせる程に彼等は統率力に()けていた。

「やばいっ!」

全力で走る。ひたすらに。

何処へ逃げる? 確か、北・南・校舎には奴等(やつら)が工作員を送り込んだと言っていたな。

東と西は見晴らしが良く、隠れられる場所などない。

昼休み終了まで残り十分。

一か八かの()けになるが、校舎に逃げ込むしかなさそうだ。


急いで上履きに替え、教室のある(とう)には戻らず、理科室や家庭科室等の身を隠せる部屋の多い、部室棟に来ている。

……理科室の扉以外には鍵が掛かっていた。

仕方ない。ひとまず退路の確保だ。

ガタッ、勢い良く入ってきた扉が閉まる。

しまった! 閉じ込められた!

天井の蛍光灯が点き、暗かった教室が見易くなった。と、同時に机の下に隠れていたであろう工作員が顔を出す。

「待っていたよ」

はめられた!

理科室の扉だけが開いていた事にもっと注意を向けるべきだった。

いや、まだ勝機(しょうき)はある!

ここは一階で、相手は三人だ。窓から逃げる事も――――

「こちらC班。理科室で水無を発見! 至急協力を要請する」

「…………」

「残念だったな。たとえ窓から逃げる事が出来たとしても、こちらに向かっている味方に見つかり拘束される」

「行くぞ!」

瞬間、五時間目の訪れを知らせる鐘が俺を助けてくれる。

またもや、チャイムに助けられた。

しかし、相手はその足を止めずに突っ込んでくる。

窓の近くに転がり、手早く鍵を開け、理科室から脱出する。


教室に戻ると、もう五時間目の授業が始まっていた。

「おい水無! 何処へ行っていたんだ?」

何で俺だけ!?

「すみません……」

「……まぁ、いい。早く席に座れ」

「はい」

理科室で待ち伏せしていた工作員達も、遅れてきて叱られたのは言うまでもない。



放課後になり、俺達は帰路についていた。

「いやぁ、今日は楽しかったなぁ」

「「そうだね」」

「さては荘司、楽しんでたな!」

「当たり前だろ。なぁ?」

『楽しかったね~』

「…………」

「音羽……楽しんでいる場合じゃないだろ?」

周りに聞こえない声で話す。

「どうして?」

「零使の仕業かもしれないって――――」

「あれ、嘘なのよ」

「…………。つまり?」

「私の能力よ」

淡々と言い放った。

「ここにいるメンバーと男子生徒には能力は使わなかったわ」

「まったく、和くんは……」


俺は今日一日で学習した。

『ちやほやされても良い事なんて何一つ無い』と、いう事を。

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