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俺の彼女は異世界住人  作者: なで神(中村啓太)
2/6

家への侵入者は美人姉

 「ほら、起きて和斗(かずと)!」

「ん、んん」

「早く起きてってば!」

「うっ……何だ?」

目を開けると、そこには下着姿の音羽(おとは)がいた。

「な! 何してるんだ!?」

「何って、貴方(あなた)は私の(ブレード)なんだから私と寝ないといけないでしょ?」

「その理屈もおかしいが、その前に何で下着姿なんだよ! 早く服を着ろ!」

恥ずかしくなって、慌てて服を着るように指示(しじ)する。

「まぁ、良いわ。先、下に行ってるね」

そう言うと彼女は一階に降りて行った。

何で俺の方が恥ずかしがってるんだよ!!

それにしても、……綺麗(きれい)身体(からだ)してたな。

……だ、ダメだ。あんな奴に!

俺も急いで彼女の後を追い一階へと向かう。

顔を洗い、まだ眠たい目を擦りながらリビングへの扉を開ける。

「遅いわよ和斗。早くしなさい」

「はいはい」

彼女の座っている椅子のある方へ行くと、テーブルに美味しそうな朝食が並べられていた。

目玉焼きや味噌汁やらから湯気が立ち上っている。温かそうだ。

「えっ! これ全部音羽が作ったのか?」

「そうよ。早く食べないと遅刻するわよ」

よく見ると、俺の分の朝食も用意されている。

意外だ。けっこう面倒見とか良いのかな?

いや待て。

この間、音羽が女子生徒と話している時にイギリス出身とか聞こえてきたな。音羽は異世界の住人だから、あれは嘘だとして。

「何故、日本料理? 異世界にも有るのか?」

「数日でもコッチで暮らしていれば、料理の一つや二つ覚えるわよ」

「まぁ、それもそうか」

急いで朝食を取り、俺達は家を後にした。



「やばい、遅刻する!」

「和斗が起きるの遅いからいけないのよ!」

俺達は通学路を走りながら、言い合いを続けていた。

「仕方ないだろ!」

「仕方なくない!」

「音羽の料理美味しかったぞ」

「え? そう?」

「じゃ、なくて! 話をそらさないでよ!」

ちっ。作戦(ミッション)失敗か。

しかし、この言い合いもそんなに長くは続かず、学校に着いた頃には、ゼェゼェと息を吐きながら教室の入り口で倒れていた。

「はぁ、はぁ、なんと……か間に合ったな」

「はぁ、はぁ……」

だが、休んでいる間もなくいつものメンバーが俺達のところへと集まってきた。

「おはよう! 音羽っち」

と、駆けつけ一番に音羽に声をかけたのは俺達のグループの中で最も五月蝿(うるさ)――――元気な川島(かわしま)美由希(みゆき)だ。

「お、おはようございます」

音羽も挨拶を返している。

「ど、どうして和くんが神川(かみかわ)さんと一緒にいるのよ!」

次に、話しかけてきたのは俺の幼馴染の西条(さいじょう)美奈実(みなみ)だ。

なんだか、少し怒っている様な……。

「ちょっと、そこで……会ってな。はぁ、はぁ……」

一緒に住んでいるとは、言えまい。

「ん? お前いつの間に神川と仲良くなったんだ?」

そして、最後に到着したのは俺の親友の洸山(ひろやま)荘司(そうじ)だ。

「いや、昨日学校の中を案内したんだよ」

「神川さんと二人きりで?」

頬を膨らませた美奈実が聞いてくる。

「そうだけど」

答えると、美奈実は今にも泣きそうな表情をする。

「う、うっ……和くんが幸せになれるなら私はそれでもいいよ……」

「な、何の話か知らんが泣くなよ……」

俺は美奈実にハンカチを渡してやる。

「あ、あの……」

すると、さっきまで黙り込んでいた音羽が口を開けた。

「ん? どうかしたか?」

「いえ、そろそろ席に着かないと……」

いつの間にやら、HR(ホームルーム)開始のチャイムが鳴っている。

そういえば、遅刻ギリギリだったな。すっかり忘れていた。

俺達は思い出したかの様に席に向かうのだった。



次の休み時間には、いつものグループに音羽が加わり雑談が始まった。

と言っても、この前聞けなかった音羽への質問ばかりなのだが。

まず、音羽に俺達のことを知ってもらうために、まだ一度も話していないメンバーの自己紹介から始めることになった。

「じゃあ、まずは俺から。俺は洸山荘司、美術部に所属している。宜しくな」

初めに自己紹介を始めたのは、荘司だ。

普段は人とあまり話さないからけっこう緊張してるのかと思ったけど、自然に話せていることに俺は驚いた。

じゃあ、次は私の番だね。と、前置きをして荘司の後に自己紹介を始めたのは美奈実だ。

「わ、私は西条美奈実……です。えっと、コンピュータ部に所属しています。よ、宜しくお願いしますっ」

美奈実は荘司とは対照的にガチガチに緊張している様だ。

初めて会う人と話すときは毎回こうなのだが、先が思いやられる。

俺と美由希、音羽も転校初日に自己紹介は済ませているから、する必要はないだろう。

「ねぇねぇ。自己紹介も終わったし、音羽っちのことも教えてよ」

「そうだな。俺も少し興味があるな」

少しとは言っているが、荘司が他人に興味を持つのは珍しい。もしかして、彼女に気があったりして?

「おい、和斗。なんだその目は?」

「いや、なんでも……」

ワザとらしく目を()らしてみる。

「……まあ、いい」

気を取り直して、俺たちは音羽へ聞きたいことを口々に言う。

「そういや、音羽は前の学校ではどんな生活をしてたんだ?」

「特に変わったところはないわ。でも、大きく変わったのは食事かしら。と言っても和食か洋食かの違いなのだけど」

「そうなのか」

本当は異世界料理なんだが。異世界にも美味しい料理はあるのかな?

「音羽っちは、和食と洋食ならどっちが好き?」

「そうねぇ――――」

音羽は少し考える様な仕草(しぐさ)をしてから、口を開けた。

「――――私には決められないわ。どちらも素晴らしいものだと、私は思うもの」

その時の彼女は、とても美しく思えた。

お前……そんなキャラじゃないだろ!!

俺は知っている。人を強引(ごういん)(ブレード)にする(やつ)が、言う台詞(せりふ)でない事くらい。

「そうだな」

(みんな)からは、音羽って結構良い奴なんだな。とでもいうかの様な空気が(にじ)み出ている。

皆、騙されるな! こいつは、猫を被っているんだ! 気づいてくれ!

「いや、神川って結構良いやつなんだな」

「『結構』何て、失礼だよ。音羽っちは、良い子だよ」

俺の(心の)叫びも(むな)しく、皆はまんまと(だま)されていた。

くそっ! 皆の目を覚ますにはどうすれば良いんだ!

「おい、和斗。どうしたんだ、さっきから少年漫画みたいな描写(びょうしゃ)になってるぞ」

「いや、何でもないんだ……」

目を覚まさなければいけないのは、俺の方なのかもしれない。

※和食と洋食どちらが好きなのか? についての会話です。



それ以降(いこう)も、音羽の事を知りたいという仲間達の思いからか、休み時間が来るたびに音羽の周りに俺たちは集まっていた。

そして、放課後になったのだが、今日の帰りはいつもと違った。

「あの、音羽さんの家は学校から近いのですか?」

今日の帰りは、音羽も一緒なのだ。

まぁ、同じ家に住んでるんだしこれが普通なのだが……。

「え、えと……」

俺と一緒に住んでます。なんて言えるはずもなく、音羽は困った様な顔をする。

「確かに私も気になる。音羽っちの家に私も行ってみたいし」

「そうね。また、お家に誘ってね」

「何言ってるの! 今から行くよ!」

「……」

それは困る、非常に。

「じ、じゃぁ、神川さんが良ければ、おじゃま、しようかな……」

「おっ、そりじゃあ、俺達も行くか! 和斗?」

「い、いや……」

どうフォローを入れれば良いんだ。

「や、やっぱり――――」

そうだ美奈実、『やっぱり止めておこう』と提案するんだ!

「やっぱり、何か持っていった方が良いよね!」

そうじゃなぁぁあーーい!!

俺は、何とかしなければと考えていたが――――

「や、やっぱり止めときましょ。神川さんも迷惑かもしれないし」

「そうだね。ごめんね、音羽っち。またいつか教えてよ」

「んじゃ、止めとくか」

――――三人の態度が急に変わった。

さっきまで、あんなに音羽の家に行く気満々だったのに。

「いえ、気にしないで」

俺はハッとした。音羽には周囲の人間の行動を操る能力(ちから)がある。

と、なると今二人の態度が変わったのは……音羽が操ったから。

一度は体験した能力だが、俺は背筋が凍る様な恐怖を覚えた。

大した会話でもなかったのに……。

そして、改めて理解した。

彼女と一緒に生活するという事を。



それから、皆とは別れ音羽と二人きりになった。

「ねぇ、和斗。今日の夕飯何がいい?」

どうしたものか。音羽が自分から俺の(ため)に何かをしようとするなんて。

俺は直感でわかった……これには、裏がある!

だが、俺は引っかかったふりをして少し彼女をからかってやろうと考えた。

「へぇ、音羽が俺の為に手料理を()()ってくれるのか? それは楽しみだな」

俺は横目で彼女を見やる。

「べ、別に貴方(あなた)の為に作るわけじゃないわよ! その、メニューに困っていただけで、どうせ作るなら貴方の分もついでにと思っただけで……」

ヤバい、楽しすぎる。

それにしても、まさかこんなところで音羽のツンデレぶりを(おが)めるとは思ってもいなかった。

「家に泊めて貰っているのだから、その……家賃代わりよ」

「そうか。じゃあ、肉じゃがでも作ってもらおうかな」

手料理の定番だが、男なら人生で一度は女の子に作ってもらいたいものだ。

「に、肉じゃが!? ま、まぁ……しょうがないから作ってあげるわ」

音羽は、顔を赤くしている。

俺はそんな彼女を見て、不覚(ふかく)にも可愛いと思ってしまった。

「あぁ、凄く楽しみだ」

そんなことを俺が考えていると彼女に気づかれない様に、ここは平静を(よそお)う。

しかし、俺の言葉を受けた音羽の顔が更に赤くなる。

やっぱり、誰かに期待されたりすると嬉しいものなのかな?

こういう一面を見ると、音羽も普通の女の子だなと感じたりする。


しばらくすると、俺達の? 家が見えてきた。

「「ただいま」」

家には誰もいないが、一応挨拶をする。我が家のルールである。

「は~い、おかえり~」

「「…………」」

誰もいる筈のない家の中から、声が聞こえてきた。

俺と音羽は身構(みがま)えたが直ぐに声の主が現れた。

「あら、遅かったわね……」

「あ、あぁ……姉さん」

水無(みずなし)(かおり)。俺の姉である。

「ん? 和斗その()は? もしかして……彼女?」

姉は、口の端をつりあげる。

「いや、違うけど」

すぐ人のことをからかう(くせ)は、相変わらずのようだ。

「なんだ、面白くないな。それで、名前は?」

「あ、はい。神川音羽といいます。宜しくお願いします」

「あら、こちらこそ、宜しくね音羽ちゃん」

まさか姉さんが家に来ているとは思ってもいなかった。

「それにしても、女の子を家の中に連れ込むなんて、和斗もやるじゃない?」

「誤解だ! 俺と音羽は――――」

「へぇ……音羽って、名前で呼んでるんだ?」

「……」

本当のことだから、反論できない。

「まぁ、いいわ。音羽ちゃんは今日は何しにここへ?」

「何をしにもなにも……私と和斗はこの家で一緒に暮らしてるので」

「「…………」」

こいつ……わざとやってるのか!

「え、えぇぇええ! か、和斗が女の子と、ど、同棲(どうせい)!?」

「ね、姉さん落ち着いて!」

俺は、取り乱している姉さんを落ち着かせようとする。

「昨夜も、和斗と二人で――――」

「ご、ごごごごめんなさい。私、お邪魔よね。私、もう帰るから」

珍しく姉さんが押されている。

「姉さん、俺と音羽は姉さんが想像している様な関係じゃないから!」

俺が必死に姉さんを引き止め様としていると

「ふふっ……ごめんなさい。少し、お姉さんをからかってしまいました。お姉さんの(あわ)て様が面白くて、つい……」

音羽が機転を利かせてくれたのだろう。

少しホッとした。

姉さんの慌て様が面白かったのも、また事実だ。

でも、姉さんは怒るような素振りも見せず優しく彼女に笑いかけていた。

「初めからわかっていたわ。和斗が、こんな可愛い娘とそういう関係なわけがないって」

「それどういう意味?」

「そのままの意味だけど?」

「…………」

あんまりだ! 俺への姉さんの認識がこれほどまでに(ひど)いなんて……。

とはいえ、俺が女の子と縁が無いのは事実である。いや、美奈実と美由希がいる……か。

「まぁ、玄関で立ち話もなんだから上がって」

「いや、ここ俺の家なんだけど」

「小さいことは、気にしないの」

小さくない。

「それで、何の用だよ。わざわざ家にまで来て」

「大した理由はないの。和斗がちゃんと健康に良い生活をしているのかどうか見に来ただけよ」

「あ、そう」

「それで、和斗はきちんと健康の良い生活をしてるのかしら、音羽ちゃん?」

「え、なんで音羽に聞くの?」

「和斗に聞いたら、私を安心させようと嘘をつくでしょう?」

「いや、つかないけど」

何故俺が姉さんを安心させねばならないのだ。

「それで、どうなの音羽ちゃん」

やっぱり音羽に聞くのか……。

「はい! いつも私と幸せな夢をみて、私の手料理で栄養もしっかりと摂取(せっしゅ)しています」

……ん? 何言ってるの? こいつ。

「そうですか。それは、良かった」

「ちょっと待って! 何が良いの?」

「あ、そろそろ夕飯の時間ね。私、何か作ろうか?」

「姉さん、俺の話を聞いて! あと、夕飯は音羽に作ってもらうから!」

「え? 音羽ちゃんに?」

しまった! つい、口が滑った。

「あら、音羽ちゃんはいいお嫁さんになれるわね」

駄目だ、この人……話を全く聞いてない。



夜も遅くなってきて、俺たちは音羽に作ってもらった料理を食べ終えていた。

「ごちそうさま。音羽ちゃんは本当に料理が上手なのね」

「ありがとうございます。お姉様」

この二人が、仲良くなるのにはそう時間はかからなかった。

「あら、もうこんな時間。音羽ちゃんは帰らなくていいの? そうだ和斗、家まで送って行ってあげなさい」

「え、何言ってるの? 音羽はこの家に俺と一緒に住んでるって、音羽が説明したじゃないか?」

「え!? あれって、私をからかう為の冗談じゃなかったの!?」

「いや、違うけど」

すると、姉さんは顔を赤くして――――

「そ、それじゃあ。邪魔しちゃ悪いから、私は帰るわね!」

という二度目の捨て台詞を残して帰っていった。

「ふふっ、貴方のお姉さんってとても面白い人なのね」

何故か、音羽は上機嫌だ。

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