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俺の彼女は異世界住人  作者: なで神(中村啓太)
1/6

転校生の美少女は異世界住人

「えっ! お、音羽(おとは)!?」

「ようやく気がついた様ね。和斗(かずと)くん」

どういうことだ? 一体何がどうなっているのか状況がさっぱり理解できない。

確か、教室に残っていたら周りの景色が一瞬のうちに暗闇に飲み込まれて――――

駄目だ。思い出せない。

どうして彼女がここにいるのかわからないが、それよりも気になる事があった。

「な、何があったんだ?」

「説明したいけど、もう時間がないみたい」

「それは、どういう――――」

「しっ。静かに」

彼女が俺の言葉を指で(さえぎ)る。

「――――」

声が出ない!!!

それからすぐに教室の扉が開いた。

「!?」

な、なんだアレは!

「……」

音羽は黙っている。

そして、その気配が少しずつ近づいてきて、窓から差し込む薄い光に照らされ姿を現した。

「――――!!」

言葉を失った。

ソレはとても不思議な形をしていた。ソレは一体何なのか、生物なのかさえわからない。

「何だ……あの怪物は……」

いつの間にか声が出るようになっていた。が、そんなことはどうでも良い。

「音羽、逃げろ!」

女の子に怪我(けが)をさせる訳にはいかない。

瞬間、気持ちの悪い音と共に、目の前で黒い液体の様なものが飛び散った。

「お、音羽……?」

目をやると剣を手にした音羽が怪物の胴体を貫いていた。

そして一気に胴体を切り裂く。

怪物はうめき声をあげながら、勢いよくこちらに突っ込んでくる。

「音羽!」

「ふっ、私を甘く見ないでくれる」

そう言うと、音羽は怪物にとどめの一撃を叩き込む。

「ウギャアァァアアーー」

怪物の叫び声が辺りに響き、そして、消えていった。

黒い(ちり)になって。

いつの間にか薄暗かった周りの景色が、嘘だったかの様に綺麗な夕日を映し出している。

「い、今のは?」

零使(れいし)よ」

「れ、零使? 何だよそれ?」

「簡単に言うと時空(じくう)を行き来できる怪物のこと」

「な、何で音羽がそんな事知ってるんだよ?」

彼女はため息まじりに言う。

「私はもともとこの世界の住人じゃないのよ」

音羽が何を言っているのかわからなかった。

「……」

心を落ち着かせて今一度音羽に尋ねてみる。

「つまり、音羽は異世界から来たってことか?」

「そういうこと」

「ちょっとまて! 俺は異世界があるなんて聞いたこともないぞ!」

「それはそうでしょう。普通の人間には分からないコトです」

「俺は普通の人間だ!」

「確かに貴方(あなた)は普通の人間だった」

「……それは、どういうことだ?」

「実のところ、此処に貴方を連れてきたのは私」

何を言っているんだ。

こいつは、俺をわざと危険な目に()わせたとでも言うのか。

「どうしてそんなことを……一歩間違えたら死んでたかもしれないんだぞ!」

「確かに、その可能性はあったわ」

続けて音羽は言う。

「私はここ数日、貴方の行動を見させてもらって、貴方が一番適していると感じたわ」

「な、何に?」

「私の(ブレード)に」

「剣?」

「そうよ、貴方は私を守る剣になりなさい!」

「人を危険な目に遭わせといて、今度は守れだ? ふざけるな! それにお前、めちゃくちゃ強かったじゃねーか!」

「あんな雑魚(ざこ)、私でも倒せるわ。もっと強い零使が来たらどうするのよ」

「お前より弱い俺が、お前を守れる訳がないだろ!」

「いい? 貴方は私を守る剣になるの!」

「いい加減に――――わかった。少しくらいなら付き合ってやる」

「あと、私は周囲の人間の行動を思いのままにできるから。そして、操られた本人は操られた事にも気づかない。……と言っても、口調や身体の動きまでは操れないけど」

「くっ、わかったよ! お前の剣にでも何でもなってやる!」



―――数日前―――

今日は、このクラスに新しい仲間が増える日である。

「それでは、今からHR(ホームルーム)を始めるぞ」

担任の細川(ほそかわ)先生が教室に入ってきた。

立ち歩いていた生徒達も一斉(いっせい)に席に着く。

「前から言っていた通り、今日このクラスに新しい仲間が増えるぞ。私も会うまで知らなかったが海外からの帰国子女だそうだ。皆、仲良くしてやってくれ」

帰国子女? 聞いていなかった情報に教室内が少し(ざわ)つく。

「それでは入ってきなさい」

先生が、廊下で待機しているであろう転校生に教室へ入る様に(うなが)した。

ガラッと教室の扉が開き転校生が入ってくる。

その生徒は、長い黒髪が美しく、大きな紅い瞳をした可愛いらしい少女だった。

「では、挨拶をして下さい」

「はい。神川(かみかわ)音羽(おとは)です。今日から宜しくお願いします」

()き通る様な、美しい声をしていた。

「じゃあ、神川さんはあそこの席に座って下さい」

と、俺の右隣の席を先生が指さす。

彼女は(うなず)き、こちらに近づいてくる。

「……」

そして、隣の席に神川が腰を下ろす。

「あ、あの宜しくお願いします」

少し緊張していると、彼女の方から挨拶をしてくれた。

「ああ、俺は水無(みずなし)和斗。こちらこそ宜しく、神川」

「音羽でいいですよ」

「そうか、宜しく音羽」

「はい。宜しくお願いしますね、和斗くん」

『和斗くん』か……。まぁ、嫌ではないけど。

「それでは、これにてHR(ホームルーム)を終わります。今日も授業を頑張って下さい」

そう言い残し、先生は教室から出ていった。



そして、一時間目の授業が始まった。

少し彼女を横目でみると、(すさ)まじい集中力で勉学に(はげ)んでいた。

だが、その前に気になる事があった。

姿勢(しせい)良すぎだろ!

普通、ノートを取る時は少し前かがみになってしまう(はず)

しかし、彼女にはその様子が全くない。

「きっと育ちが良いんだろうな」

同じ事を考えていたのか、前の席に座っている洸山(ひろやま)荘司(そうじ)が小声で話しかけてきた。

荘司は俺の親友で、同じ美術部に所属している。背がとても高く、文化部なのに何故(なぜ)か運動神経が良い。

どうして右斜め後ろの音羽の姿が見えるんだ! こいつは……。

「そうだろうな。どこかのお嬢様なのかもしれない」

俺も小声で返事をする。

「その可能性は否定できない」

「でもお嬢様は座っている姿勢も指導されるのか、大変だな」

「確かにそうだな」

「お前の家でも何か言われているか?」

「まぁ、行儀(ぎょうぎ)良くとは言われてるな」

それはどこの家でもそうだと思うが……。

「てか、この話で授業終わっちまう!」

すると、授業終了を(しら)せるチャイムが鳴り響いた。

ほら。

「なぁ、授業内容覚えてるか?」

駄目元(だめもと)で荘司に聞いてみる。

「いや、ノートすらとってない」

「だよな……」



休み時間がやってくると、音羽の周りには多くの生徒が群がっていた。

「ねぇ、音羽ちゃんはどこの国から来たの?」

「彼氏とかいるの?」

「趣味は?」

転校生は大変だな。質問責めじゃないか。これは数日苦労するぞ。

「イギリスです」

「い、いえ。彼氏はいません」

「趣味は読書です」

よく一人一々に的確に返せてるな、凄いを通り越して関心してくる。

俺は輪に入る事もせずに、一人特にする事も無くぼうっとしていた。

すると、転校生に興味を持たない奴らが俺の席へとやってきた。

「和斗。お前は神川に話しかけなくて良いのか?」

俺の前に座っている荘司もその一人だ。

「俺は結構だ。あんなに沢山の人がいるんだ。話しかける事すら困難な筈だ」

「そうでもないと思うぞ。ほら、アレを見てみろ」

荘司の指さす方を見ると、音羽に馴れ馴れしく話しかけている小柄(こがら)な生徒の姿があった。

「ねぇねぇ、音羽っちはこの学校でどの部活に入部するつもりなの?」

「い、いえ。まだ、決めてないです」

「じゃあ、家庭部に来なよ。家庭部はいいよ。料理を作って食べたり――――」

その生徒は、俺たちのグループの一人で、家庭部に所属している川島(かわしま)美由希(みゆき)だ。

「まぁ、美由希は誰とでも仲良くなれる性格だからな」

「しかも、新しい事に直ぐに興味を持つからな」

「和くんったら、神川さんの方ばかり見てにやけちゃって!」

「い、いや、そういうつもりは」

「むぅ、別にいいわよ。和くんが誰を見てたって私には関係の無いことだもんね!」

と、登場早々不機嫌な顔をしてるこいつは俺たちのグループの最後の一人であり、俺の幼馴染である西条(さいじょう)美奈実(みなみ)だ。体格は俺とあまり変わらない。現在、コンピューター部に所属しているが、あの部は遊んでいるだけにしか見えない。

「まぁ、美奈実。和斗が大好きなのはいいが、あまり好きな人を困らせるものじゃないぞ」

「な、何言ってるのよ荘司! 私は、別に……」

「いや、それはないだろ」

と、俺も美奈実の好きな人について、すかさず否定する。

「か、和くんのばかぁ!」

「えぇ!? 何で俺が怒られてんの!?」

「和くんには、絶対彼女なんてできないよ!」

どうして、そこまで言われなくちゃいけないんだろう……。

そんな話をしている内にチャイムが鳴り二時間目の授業が始まったが――――

「見ろ、あの姿勢。やはり――――」

「もうその話はいい! 授業に集中させろ!」



そして、二度目の休み時間がやってきた。

隣の音羽の席の周りには、また沢山の人が群がっている。

また、俺の席にもいつものメンバー(美由希はいない)が集まっていた。

「で、神川に話しかける覚悟はできたか?」

と、まだ荘司がそんなことを言っている。

「いや、俺は別に」

「そうだよ! 和くんには私がいるもの!」

「あれ? お前、和斗のこと好きじゃないんじゃなかった?」

「そ、そうよ。好きな訳ないでしょ!」

「…………」

嫌われてはないよな?

「それより、お前こそいいのか? 彼女に話しかけなくても」

俺も荘司に聞いてみる。

「構わないさ。お前らだけでも大変なのに、もう一人増えるとな……」

「俺達も美由希の様に音羽のとこに行こうか? 美奈実」

「そうね」

「冗談だ! 謝るから!」

((なんて扱いやすいんだ))



それから二時間が経ち、昼食の時間がやってきた。

音羽の人気も相変わらずで、昼食を彼女と食べようと女子生徒が彼女の席の周りに椅子を持ってきて座っている。

対する俺たちは、いつものメンバー(美由希はいない)で昼を食べている。

「はぁ、昼くらいは静かにして欲しいものだ」

俺の言葉に反応した周りの女子生徒達が一斉に俺を(にら)みつけてきた。

「……いえ、何でもないです」

数による暴力だ!

「ねぇ? 和斗くん達も一緒に食べない?」

隣から予想もしていなかった言葉が聞こえてきた。

「い、いや、俺達の事は気にしなくても良いから」

「そう?」

それから音羽はまた周りの生徒達と話し始めた。

「どうしてあんな事言ったの? 神川さんと仲良くなるチャンスだったのに」

美奈実が聞いてくる。

「いや、無理だろ。あの中に入るのは」

「どうして?」

「そういうものだ。わかってやれ」

美奈実を納得させようと、荘司が入ってきてくれた。

「そうなの……」

美奈実もわかってくれたみたいだ。

「あと、いつから名前で呼び会う関係になったの?」

美奈実が意味深な聞き方をしてきた。

「今朝、音羽が隣の席に座った時だよ」

「あぁ、そういや何か話してたな」

「一応自己紹介をな」

「そうなんだ」



俺達は、帰路についていた。

「いやぁ、神川凄い人気だったな」

と、荘司が今日転校して来たばかりの音羽の話を出してきた。

「そうだな」

「そういや、神川にすげー、馴れなれしく話しかけてる奴いたよな」

荘司は、隣で歩いている美由希を横目に言う。

「確かに」

俺と荘司は苦笑する。

「それって、私のこと言ってる?」

その話を聞いた美由希が反応する。

「「いや、お前以外に誰がいるんだよ」」

荘司と俺の声が重なる。

「失礼な! これが、女の子同士のコミュニケーションなのだよ!」

「「へぇ」」

「なにその反応……」

「でも、人と直ぐに仲良くなれる事はとても素敵なことだと思うよ」

美奈実が美由希にフォロー? を入れてあげている。

「「そうだな」」

美由希は、人懐っこく、明るい性格していて、周りにいる俺達まで元気を貰うこともある。

「でも、クラスに新しい仲間が増えたのは嬉しいことだよな」

転校生が来たことについての俺の率直な感想だ。

「そうだよ。これからもっと楽しくなるよ!」

「……そうだな」

話し込んでいると、目の前に別れ道が現れた。

ここからは全員帰る方角が違う。

「じゃあ、また明日」

「おう」

「「またねー」」

皆と別れ、一人で歩いていると、いつもより早く家が見えてきた。

今日は時間の流れが早い気がする。

家に着いてからは、直ぐに眠りについてしまったらしく、目を覚ました頃には朝が来ていた。



彼女の転入から三日が経った。

あんなに人が絶えなかった彼女の周りは、一日が過ぎる(ごと)に集まる生徒が減っていき、今では誰もいない。

皆冷たいなぁ。あんなに話していたのに。

「あの、和斗くん。貴方とはあまり話せていなかったから……」

いきなり音羽に話しかけられた。

「あ、あぁ」

「それで……あの、学校の案内をしてもらいたくて」

俺は妙な違和感を覚えた。

あんなに沢山の女子生徒達に囲まれて話していたのに、まだ誰にも学校を案内してもらっていないなんて。

おかしい。

「…………」

まぁ、いいか。

「なんだ、そんな事なら全然構わないよ」

「それでは、今日の放課後にお願いしてもいいですか?」

急だな。でも、特に予定がある訳でもないし、断る理由も無いだろう。

勿論(もちろん)



そして、彼女を案内する時がきた。

「それじゃあ行こうか?」

「宜しくお願いします」

「案内してほしい所とかあるのか?」

「学校の設備を一通りお願いしたいです」

[じゃあ、図書館とか?」

「はい! お願いします!」

明るい返事がかえってきた。

「…………」

「…………」

図書館に向かうまでの間何を話せばいいんだ?

いや、図書館だけじゃない……。急に焦りを感じ始めた。

あ、図書館といえば本だ!

「……音羽はさ、本好きなの?」

「そうですねぇ。小説をよく読みます」

「へぇ、どんなの?」

「『俺の彼女は異世界住人』とか?」

「ね、ネット小説?」

「はい。日本のアニメ文化はイギリスでも有名ですから」

いや、その小説アニメ化どころか書籍化すらされてないからね! (二千十八年六月現在)

これなら話題には困らなくて済みそうだ。

「でも意外だな。音羽はアニメとかに興味無いのかと思ってた」

「いえ、興味が有るわけではないです」

「じゃあ何故アニメの話を出した!」

「私は、イギリスで日本のアニメが有名だと言っただけですよ」

「普通話の流れから音羽もアニメが好きなのかな? って、誰でも思うと思うぞ」

「そういうものなの?」

ハァと、ため息を吐く。

「ほら、ここが図書館だ」

話していたら、直ぐに図書館に着いた。

「想像してたのより大きいですね」

彼女の言うように、この学校の図書館はこの町一番の大きさだ。

図書館自体は校舎から離れていて、一度靴に履き替える必要がある。そのせいで少し時間がかかってしまった。

「中に入ってみるか?」

「いえ、今日はもう時間がないですし次の場所の案内をお願いします」

「そうだな。また今度来てみるといいよ」

俺達は図書館を後にして、校舎の中に戻ってきていた。

どうせ校舎に戻ってくるなら図書館の案内は最後にするべきだったか……。

時間的に次の場所が最後になるかな。

「音羽。コンピュータールームは知ってるか?」

「はい。校舎の四階にあるんですよね? 詳しくはよく知らないです」

「じゃあ、そこを最後にするか」

「そうですね」

四階に来るまではあっという間だった。

誰にも遭うことがなく静まり返った廊下は不気味さを覚えた。

まぁ、もう四時半だしな。そんなものなのだろうが。

そして、コンピュータールームの前まで来た。

「ここがコンピュータールームだ。調べものがある時はここに来るといいよ」

「ひ、広いんですね」

そうなんだよなぁ。図書館もそうだけどこの学校の設備はいちいち大きい。しかも、あまり利用されてないものに限ってだ。

コンピュータールームは、鍵が閉まっていて、この時間に入ることは出来そうにない。

それから俺達は教室へと戻ってきていた。

「悪いな。二ヶ所しか案内できなくて」

「いえ、無理を聞いてくださってありがとうございました。とても助かりました」

「それは良かった。また今度部活の紹介もしようか?」

「はい。またお願いします」

「それでは、また明日」

「ああ」

彼女が帰りの支度を始めるが――――

「……あれ? 和斗くんは、まだ帰らないのですか?」

「まだレポートあって」

レポートなんて実は無いが、例え靴箱までだとしても女の子と一緒に歩くのは照れくさいという理由で、咄嗟(とっさ)に嘘をついた。

「そうなの? 頑張ってくださいね」

「おう。音羽も帰り気をつけろよ」

「はい。また明日」

タッタッタッと廊下に響く彼女の足音が徐々に小さくなっていき、教室に静寂(せいじゃく)が訪れた。

すると、一瞬で周りの景色が薄暗く変わり俺は意識を失った――――


――――目を覚ますと目の前に、帰ったはずの音羽の姿があった。

なんだか、いつもと少し雰囲気が違う気がする様な。

「えっ! お、音羽!?」

「ようやく、気がついたようね」

一体何がどうなっているのか状況がさっぱり理解できない。

確か、教室に残って勉強していたら一瞬のうちに周りの景色が暗闇に飲み込まれ――――

駄目だ。思い出せない。

なぜ彼女がここにいるのかわからないが、それよりも気になることがあった。

「な、何があったんだ?」

「説明したいけど、もう時間がないみたい」

「それは、どういう――――」

「しっ。静かに」

彼女が俺の言葉を指で遮る。

「――――」

声が出ない!!!

それからすぐに教室の扉が開いた。

「!?」

な、何だアレは!

そして、その気配が少しずつ近づいてきて窓から差し込む薄い光に照らされ姿を現した。

「――――!!」

言葉を失った。

ソレはとても不思議な形をしていた。ソレが一体何なのか、生物なのかさえわからない。

「何だ……あの怪物は……」

いつの間にか声が出るようになっていた。が、そんな事はどうでもいい。

「音羽、逃げろ!」

女の子に怪我をさせる訳にはいかない。

瞬間、気持ちの悪い音と共に目の前で黒い液体の様なものが飛び散った。

「えっ! お、音羽……?」

目をやると剣を手にした音羽が怪物の胴体を貫いていた。

そして一気に胴体を切り裂く。

怪物はうめき声をあげながら、勢いよくこちらに突っ込んでくる。

「音羽!」

「ふっ、私を甘く見ないでくれる」

そう言うと音羽は、怪物にとどめの一撃をかます。

「ウギャアァァアアーー」

怪物の叫び声が辺りに響き、そして、消えていった。

黒い塵になって。

いつの間にか、薄暗かった周りの景色が嘘だったかの様に綺麗な夕日を映し出した。

「い、今のは――――」

零使(れいし)よ」

「れ、零使? 何だよそれ?」

「簡単に言うと時空を行き来できる怪物のこと」

「何で音羽がそんな事知ってるんだよ?」

彼女はため息まじりに言う。

「私はもともとこの世界の住人じゃないのよ」

音羽が何を言っているのかわからなかった。

音羽は、イギリス出身じゃなかったっけ?

「……」

心を落ち着かせて今一度音羽に尋ねてみる。

「……つまり、音羽は異世界から来たってこと?」

「そういうこと」

「ちょっとまて! 俺は異世界があるなんて聞いたこともないぞ!」

「それはそうでしょう普通の人間にはわからないことです」

「俺は普通の人間だ!」

「確かに貴方は普通の人間だった」

「……それは、どういうことだ?」

「実のところ、此処に貴方を連れてきたのは私」

何を言っているんだ。

こいつは、俺をわざと危険な目に遭わせたとでも言うのか。

「どうしてそんなことを……一歩間違えたら死んでたかもしれないんだぞ!」

「確かに、その可能性もあったわ」

続けて音羽は言う。

「私はここ数日、貴方の行動を見させてもらって、貴方が一番適していると感じたわ」

「な、何に?」

「私の剣に」

「剣?」

「そうよ、貴方は私を守る剣になりなさい!」

「人を危険な目に遭わせといて、今度は守れだ? ふざけるな! それにお前、めちゃくちゃ強かったじゃねぇか!」

「あんな雑魚、私でも倒せるわ。もっと強い零使が来たらどうするのよ!」

「お前より弱い俺が、お前を守れる訳がないだろ!」

「いい? 貴方は私を守る剣になるの!」

「いい加減に――――わかった。少しくらいなら付き合ってやる」

なっ!? 口が勝手に!

「あと、私は周囲の人間の行動を思いのままにできるから。と言っても、口調や身体の動きまでは操れないけど」

いや、おかしい。俺は気づいた。操られた事に。

今度、聞いてみるか。

「くっ、わかったよ! お前の剣にでも何でもなってやる!」



帰り道。

「…………」

「どうしたの? 黙り込んで?」

「本当なのか? 音羽が異世界の住人だって」

「ええ。こっちの世界に零使が現れたという、情報を聞きつけてやって来たのだけど――――」

「だけど?」

「だけど、私一人の力では倒せない様な零使もいる事を知って、私の剣を探していたところだったの。でも、良かった。貴方を見つけることができたのだから」

「ふふっ」

音羽が、また怪しく微笑む。

一体、何なんだ……。

「なら、他の異世界の仲間を連れてきたらよかったんじゃ?」

「異世界や時空を移動できる者は私の国では、私を含めて五人しかいないのよ」

少なっ!!

「それで、あの零使とかいう怪物を何故倒さないといけないんだ?」

「倒さなければ、その世界を零使の世界に塗り替えられてしまうのよ」

「零使の世界?」

「さっき、教室にいる時、辺りが暗くなったでしょ」

「あぁ、確かに少し変な感じかったな」

「はじめは小さい空間なの。でも、放っておくと世界を呑み込んで……支配する」

「……………………」

「もう一つ質問いいか?」

「何?」

「何故、俺なんだ?」

「剣のこと?」

「そうだ」

「さっきも言ったでしょう? 数日貴方の行動を見させてもらったって」

「それじゃあ納得出来ない! 他の奴と何が違う!?」

「…………」

一呼吸おいて音羽が口を開く。

「目に見える物では無く、それが何かは分からない。でも、貴方の中には何か特別なモノがある。そう感じてるわ」

……今は、それで納得するしかなさそうだ。



しばらくすると俺の家が見えてきた。

「あ、じゃあ俺はこれで――――」

「何言ってるの? 私もここに住むに決まってるじゃない!」

「え?」

「貴方は私の剣なのだから、私の近くにいないといけないわ! それに……一人暮らしなんでしょう?」

どうして、俺が一人暮らしをしているのを知っているんだ?

まあ、どうせ、クラスメイトから聞いたんだろうけど。

「いや、お前の家は?」

「今は小さな家を借りてるのだけど、明日には返してくるわ」

「…………」

「それに、その方が何かと都合が良いしね」

彼女はさらに口の端をつりあげる。

「はぁ。わかったよ」

こうして、彼女は俺の家で暮らす様になった。

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