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異世界転生でチートになったけど、魔王がいないのでとりあえず少女を助けました。

作者: うみたか

少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。評価、コメントお待ちしております。

 はい、やって参りました異世界。

 唐突ですいません。でも経緯を話すと長くなりそうだったもので。

 それでも話すとすれば、俺は元の世界で死んで、よくわからん女神様にこの世界に送り込まれた、ということだ。

 まあ小説なんかでもよくある展開、最初は少々驚いたが、まあいざこうなると、意外と冷静でいられる。

 ちなみに俺は、魔王討伐のためにこの世界に召喚されたので、いわゆる「チート能力」というものを持っている。なんでも、自分の想像した魔法を自由に使えるのだという。

 さっき試しに、ムッチャ強い光線が掌から出ないかなーとか思って、山に向けてビームを出したら、その方向に遮蔽物がなくなって見晴らしが良くなった。


 とまあ、ここまではよくある話(転生がよくあるならば)。しかし、今俺のいる街の住人に聞き込みをした所、重大な事実を知ることになる。

 なんと、この世界の魔王は三年前に、別の転生者に倒されているようだ。

 このときばかりは「なんだよ駄女神、魔王死んでんじゃん。俺これからどうするんだよ」みたいな感じで焦った。けど、酒場で未成年飲酒をしていたら、そんな事どうでも良くなってしまった。


 で、今俺は何をしているか。

 特に何もしていない。街をぶらぶら散策中。

 既にこの世界に来てから一週間。その間、昼は街をぶらぶらし、夜は酒場で酒を飲む。宿屋に戻って爆睡の三拍子をただ繰り返しているだけだった。

 さすがに暇だ、何か事件はないだろうか。なんかこう、凶悪なモンスターが街に襲来してくるとか、新たな魔王現るとか。


 まあ流石にそんな都合よく事件なんて起きないだろとか思いながら歩いていると、路地裏から何やら騒がしい声が聞こえてきた。お、事件か?とか軽い気持ちで覗きに行く。路地裏は薄暗く、少し進んだだけて表の賑やかな音が聞こえなくなる。


「おら!畜生が!」「へっ、ガキが調子のんなよ!」


 どうやら誰からが喧嘩をしているようだ。まあこんな大きな街なんだ、こんな事もよくある事なのだろう。声を聞く限りでは男が二人か?ここは俺が恋のキューピットならぬ友情のキューピットとなって、二人を見事仲直りさせてみせようぞ!

 まあそんな事はさておき、ここを曲がった所で喧嘩をしているようだ。さあ、どんな状況かな?


 ーーこのとき、俺は大きな勘違いをしていた。それも重大な勘違いを。

 顔を壁から覗かせた先には、俺の予想通り二人の男がいた。一人は厳つい大男で、頬に大きな傷がある。もう一人は細身な男、手にはナイフを持っている。

 ここまでは俺の予想通り、これなら問題なかった。しかし、男達は向かいあっているのではなく、二人並んで足元を睨んでいた。

 この事が何を意味するのかは、感のいい人ならもう分かっただろう。


 男達の視線の先、彼らの足元には、ボロボロになった少女が横たわっていた。


「おら!よくも俺らの食料を盗んだな!」

「この代償はたかいぜぇ~、嬢ちゃんよぉ!」


 男達は容赦なく少女を蹴りつける。少女は為す術もなく蹴られ、苦しそうな呻き声をあげるだけ。

 俺はあまりの光景に見入ってしまった。


「どうします、兄貴」

「そうだな、お前のナイフの味でも味わらせてやれ」

「へい!そのめ命令を待ってましたぜ!」


 細身の男が少女に歩み寄り、持っていたナイフを逆手に持ちかえる。

 そこで俺は我に返った。隠れていた壁から飛び出し、男達の元へと全力疾走。


「へへっ、じゃあな、嬢ちゃんよぉ!」


 男がナイフを振り下ろす。

 間に合え!間に合え!

 ヘットスライディングのように身を投げ出し、ナイフと少女の間に手を滑り込ませる。

 見事間に合い、ナイフは少女に届くことなく、俺の腕に突き刺さる。飛び込んだ勢いで、ナイフが腕に刺さったまま男達の後ろへと飛んでいく。

 受身も取れないまま、俺は地面に着地した。


「っぐ!クッソ、いでぇ!」


 右腕に刺さったナイフを抜いて、後ろへ投げ捨てる。傷口からは血がドクドクと流れ出し、焼けるような激痛が脳へと伝わってくる。痛い、痛い。


「なんだ、お前!?」


 男達は少女からこちらへ目を移す。そうだ、痛がっている場合じゃない。何か魔法をイメージするんだ。


「へっ、兄ちゃんには悪いがこんなとこを見られちゃあしょうがねぇ。消えてもらうぜ!」


 先程の細身の男が何処からかナイフを取り出し、俺に襲いかかってくる。よし、落ち着いてイメージするんだ。こんな傷、後でどうとでもなる。


「おらあぁぁ!」


 男がナイフを突き出して突進してくる。しかし、それは失敗に終わった。

 何故なら、その進行路に巨大な氷柱を作ったからである。

 男は反射的に急停止、とても驚いた顔をする。


「な、魔法だと!」

「クソ!こいつ魔法使いか!おい、ズラがるぞ!」


 細身の男は大男の指示に従って、背中を見せて逃げ出した。


「ふう、っつ!ああ、やっぱクソ痛てぇ!」


 危険が過ぎ去った瞬間、腕に痛みが戻ってきた。痛みのあまり、右腕の感覚が麻痺する。

 早く傷を治さねば。俺は左手を傷口に当てて、頭の中で傷が治っていくイメージをする。もう少しで魔法が発動する。その時だった。


「………腕、出して」


 俺に声をかけてきたのは、先程の少女だった。所々に傷があり、血も流れている。


「いや、でも」

「早く」


 もう少しで魔法が発動しそうだったが、彼女に押し切られて腕を差し出す。

 すると少女は、俺の腕の傷口を優しく触り、よく分らない事をぶつぶつと唱え初めた。

 すると、少女の掌から緑色の光が発せられて、俺の腕を包み込む。その光は不思議と暖かく、太陽の光のような温もりを感じる。

 しばらくすると、段々と腕から痛みがなくなってきた。よく見ると、傷口がどんどん閉じていってる。どうやら彼女は、治癒魔法を使ったみたいだ。


 五分もする頃には、俺の傷口は痕が残ってるものの、完全に塞がった。痛みももう無い。

 少女は手を腕から離し、疲れたように大きなため息を一つついた。


「おい、お前の方の傷は大丈夫なのか?」

「………………(コクコク)」


 少女は無言で顔を縦にふり、肯定の意思を表す。しかし、どう見ても大丈夫じゃない傷の量だ。所々から血を流して、足や腕には内出血が見られる。

 少女は立ち上がろうとするが、ふらついて倒れそうになる。俺はさっと手を差し伸べて彼女を支えてやった。


「やっぱ大丈夫じゃねーな。よし、大人しくそこに座れ」


 少女は素直に俺の言う事を聞いて、俺の手を借りながらゆっくりと座った。


「よし、そのまま動くなよ」


 少女に向かって掌を向けて、魔法をイメージする。イメージするものは、先程の緑色の光。しかし、あれでは威力が足りない気がするので、もっと大きな光。そして体が治っていくイメージ。

 目を閉じて心を落ち着かせ、ゆっくりと深呼吸。目を開けた時には魔法は発動していた。


「………………!?」


 少女は驚いているようだ。無理もない、先程の魔法よりこちらの方が断然治りが早い。ものの一分くらいでほぼ跡形もなく傷が治った。

 ついでに服も治してやった。


「なんだ、その、さっきのお礼だ。気にするな」


 少女がさっきから憧れでも抱いているかの様な目線を向けてくるので、なんだか恥ずかしくなってきた。


「じゃ、俺は行くからな。今度は気をつけろよ」


 後ろ向きに手を振り、少女に別れを告げる。まあ次からはこれに懲りて、さっきの奴らみたいなのには近づかないだろう。

 路地裏の出口を目指し、来た道を戻っていく。やはりここは静かで、まるであの賑やかな通りから別次元に来ているみたいだ。

 静かな空間に響く俺の足音、その後ろから小さな足音が聞こえてくる。

 振り返ってみると、さっきの少女が俺の少し後ろを付いてきていた。


「……どうした、何かようか?」

「………………(ブンブン)」

「そうか、なら行くぞ」


 再び歩きだす。


 大通りに戻ると、先程とは一変して賑やかな音が広い空間を支配している。街行く人々、道を走る馬車。こんな所の隣にあんな静かな空間があるとは思えない。

 通りに出てまた目的地もなく歩き出す。行き交う人々を眺めていると、何だか気分が明るくなるきがする。

 しばらく行って、広場にあるベンチに腰掛ける。ここも人が多く、色々な人が忙しなく動き回っている。

 その人混みの中に、ひときわ見窄らしい格好をした人物がこちらを見ていた。

 そう、さっきの少女だ。


 人が多くて気づかなかったが、どうやらずっと俺を追いかけてきていたらしい。俺が目を向けると、少女は慌てて近くの木に隠れて、頭だけをひょこっと覗かせこちらを見てくる。少し遠いが、改めて見るとかなり可愛い少女だ。

 何故こんな所まで付いてきたのかわからないが、とりあえず事情を聞いてみることにする。


 俺が近づくと、少し戸惑いながらも少女の方からこちらにやってきた。


「あー、お前さ、どうして付いてくるんだ?」

「………………」

「何か理由があるのか?」

「………………」

「早く家に帰った方がいいぞ、家くらいあるだろう」

「………………(ブンブン)」


 なるほどそういうことか。どうやらこの少女は俺の想像以上に大変な目にあっているらしい。


「……そうか、なら俺は行くぞ」


 少女に背を向けて歩き出す。後ろをチラ見すると、やはり少女は付いてくる。

 無理もない、見た目からすればまだ13歳くらいの女の子だ。人恋しくなるに決まっている。

 しかし、俺は彼女に声をかけることなく商店街を目指し歩く。


 目的地に着くまで、少女は黙って俺の後ろをとぼとぼ付いてきた。まるでアヒルの子供だ。

 目的地はというと、この果物屋さん。三日前くらいからお世話になっている。腹が減ったので、腹ごしらえでもしようと思ったのだ。


「おっちゃん、リンゴ二つ」

「あいよ、好きなやつ持ってきな」


 お代を渡してリンゴ選び。そうだな、この赤いのは艶があって旨そうだ。あとはこっちの大きなやつにしよう。


「ほれ、受け取れ」


 俺は大きな方のリンゴを少女に差し出す。なに、気まぐれだ。これくらい恵んでやってもいいだろう。


「………………?」

「なんだ、要らないのか?」

「………………!?(ブンブン)」


 少女は俺の手に乗るリンゴを勢いよく取り、そのまま豪快に齧りつく。相当腹がへっていたのだろう。

 美味しそうに笑顔でリンゴを食べるその姿は、さながら天使のようとでも言うのか、年相応の可愛いらしさが感じられた。


「さ、行くぞ」

「………………?」

「なんだ、来ないのか?」

「………………!?(ブンブン)」


 再び歩き出す俺の後ろを、少女が付いてくる。その顔は俺を見上げていて、目はキラキラと輝いているように思えた。


「そういえば名前聞いてなかったな、なんて言うんだ?」

「………………(ブンブン)」

「まさか自分の名前も知らないのか!?」

「………………(コクコク)」

「マジか……じゃあ俺が名前付けてやるよ、嫌か?」

「………………!?(ブンブン)」

「そうか、じゃあちょっと待ってろ」


 歩きながら候補を挙げてみる。今春だから、はる。なんかベタだな。じゃあひかり、これも捻りがないなぁ。シャーロット、は長いしなぁ。

 俺がうんうん唸りながら考えていると、不意に少女が俺の腕を掴んで組んできた。組むというより抱きついてきた。

 俺を見上る顔には笑顔で、やっぱりとても可愛かった。

 その笑顔を見ていると、なんだか幸せな気持ちになってくる。これが笑顔の魔法というやつか?


 この世界に来て、魔王を倒して勇者になるはずが、その魔王はいなくて俺は勇者になりそびれた。けど、俺はそんなたいそれた事をやらなくてもいい、彼女の勇者になれればそれでいい。その笑顔を見ているだけで、そんな気になった。


「さっ、行くか」

「…………うん!」

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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