ここはどこだ?
生徒会長
それはその学校の最も権力ある生徒のことである。
俺、陸はここ柊学園の生徒会長で、日々大量の業務?をこなし、生徒が毎日快適なハイスクールライフを送れるよう努めている……といつのが先生たちからの御評価である。
誰がそんな忙しい日々を送りたいだろうか。ただ俺は授業をサボる名目が欲しいがために生徒会長に立候補し見事当選したのだった。
先生からの高評価を得ている俺は「先生、生徒会関係の仕事があるので生徒会室へ行っても構わないですか?」なんて言えば「おう!ちゃんと出席していることにしとくから安心しろ!」と言われる毎日だ。
そんなわけで、まだ二時間目が始まったばかりだというのに、今日も俺は生徒会室で昼寝をしている。平和だ。平和すぎる。
「グフッ、グフフフフ」
変な笑い声が思わず出てしまったが、まぁ誰もいないのでいいだろう。そんな生活が半年続いていた。
「また昼寝ですか、先輩。」
声のする方を見るとドアの前にはかなりの美少女。日本とは思わせないような金髪にブルーの瞳、さらに真っ白な肌。副生徒会長の彩香だった。
「ほうほう、ロシア帰りのお嬢様もサボりですかな?」
「一緒にしないでください。私はちゃんと仕事をしに来ただけです。」
俺が生徒会長として上手くやっていけているのは、一つ下の彩香が全てやってくれているからだろう。そこは心から感謝していた。
「ところで先輩、異世界について考えたことありますか?」
パソコンを打ちながら彩香が聞いてきた。
「え?何お前?もしかしてファンタジーな世界にでも移住したいのか?」
俺は小馬鹿にするようにするように彩香に言う。真剣な表情で仕事をする彼女と今の発言が全く合わない。
「移住っていうか少し行ってみたいだけですよ。なんかこの世界、毎日が窮屈な感じがして嫌気がさしてきましたので。」
多分それは俺が毎日大量の仕事を押し付けているからだろう。俺の渡す仕事の量は異世界に行きたくなるほどなのかと我ながら感心した。
「ところで先輩、今日はいつまでここにいるつもりですか?」
「んー、学校終わるまでかな。なんだ?放課後の仕事でもあるのか?」
「はい、ちょっと今日は多めなので遅くなりそうなんです。」
その量を渡した俺に文句の一言も言わないこいつはある意味すごいな。
「じゃあ今日は俺も残るよ。先輩として!」
「先輩としてじゃなくて会長として残ってください!」
つまりそれは俺に仕事をしろということだろうか。そう言うと彩香は生徒会室から出て行った。
しばらくゴロゴロしていたが、落ち着かなくなってきたのでちょっとウロウロ歩いてみる。
「お?いいものみっけ!」
手にしたのは現在連載中の人気漫画。多分去年の先輩が置いてったものだろう。棚に10冊ほど並べられていた。
そんなわけで俺は右手に漫画、左手に家から持ってきたポッキーを持って自分の世界を満喫する。果たしてこれを学校と呼んでいいのやら。
「生徒会室は遊ぶ所じゃありませんよ!」
そう叫んだのはまたもや彩香だった。
「あれ?お前三時間目の授業受けに行ったんじゃなかったのか?」
「もう六時間目も終わりましたよ!!」
俺の隣には並べられていた漫画がいつのまにか10冊すべて積まれていた。1冊30分強かかるとしたら……まぁそんな時間になるのだろう。
「さぁ先輩!仕事やりますよ!」
そういえばそんな約束をした気がする。逃げようとする俺の襟を彩香の右腕が捕らえた。そしてそのまま椅子に座らされ、縄でぐるぐる巻きにされる。
「はい、これ今日の分です!」
そう言って俺の前に出されたのは高さにして20センチほどの大量の紙。そこにビッシリと小さい文字が書かれている。
「とりあえずそこに書かれているのパソコンに打ったらそれでいいですから。」
パソコンを両手の人差し指でしか打てない俺がそんなことをしたら、多分一年じゃ終わらないだろう。
そうは言っても縄も硬く結ばれていて自分では解けそうにないので、とりあえずやってみることにする。
「えっと?き、ょ、う、の、せ、い、と、か、い、き、ろ、く、改行改行、ほ、ん、じ、つ、の、な、い、よ、う、は、…………AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「諦めずに頑張ってください!」
どこから出てきたのかハリセンで頭を殴られる。
このまま続けていれば多分俺の精神は崩壊へと一直線だろう。たった紙一枚で、彩香の異世界に行ってみたいと言う気持ちがわかったような気がした。
「もう。この一枚でいいですから少しは根性見せてくださいよ。あとは私がやりますから。」
そう言うと彩香は俺の前にあった厚さ20センチもある紙をヒョイと持ち上げると自分の席に置いた。
「で、できた!?彩香出来たぞ!ほら!」
しかし胸を張る俺とは違い、彩香の顔はただただシラけているだけだった。
「先輩、一枚やるのに3時間もかかってどうするんですか!もう7時ですよ!?学校閉まっちゃいましたよ!?」
どうやら俺はいくら呼んでも反応しなかったらしい。それほどに集中していたのか。
「はぁ、とりあえず警備員さんに入り口開けてもらいましょうか。」
深くため息を吐いた後、彩香は生徒会室から出ようとドアを開けた。
「………………」
バタン。
何故かドアを閉める彩香。顔が面白いくらいにハテナマークが浮かんでいる表情になっている。
もう一度開けてみる。が、また閉めた。今度は顔が真っ青になる。
「どうした?真っ暗な廊下に出るのが怖いのか?」
「……先輩、それ以上にヤバい状況かもしれないです。」
泣きながら笑っているようにも見えるその表情は実に面白い。が、本当にヤバそうなので、俺も確認することにした。
「……………………」
ドアを開けた後の俺の表情は多分彩香と似たようなものになっているだろう。そこに廊下というものは存在せず、ただ緑の草原が広がっているだけだった。
夜の7時だが何故明るい!なぜそのツッコミが最初に出てきたのだろう。他にもあるはずだが。
俺は彩香同様、ドアをバタンと閉めた。
「……………………」
「……………………」
とりあえずどうすればいいのだろう。生徒会室から飛び出してみる?救助を待つ?夢から覚めるのを待つ?暴れてみる?
「……出ましょう!」
困惑した表情を見せながらも、彩香がそう言う。頼もしい後輩、いや副生徒会長だ。俺が卒業したらこいつを生徒会長に推薦しよう。
そうこう考えているうちに、また彩香がドアを開けた。景色はさっき見た通りのままだった。
「よし!」
なんか心に決めたみたいなこと言うと、彩香は突然走り出す。俺もシューズを履き直すと彩香を追った。
「ちょ、ちょい待てよ!」
普段生徒会室でゴロゴロしている俺に陸上部の彼女に追いつくための体力があるはずもなく、俺はその場に腰を下ろした。
「つ、疲れた……全力で走ったの、何年ぶりだよ……」
俺はそのままの状態であたりを見渡す。が、あたりは緑一色の草原が広がっているだけだった。
ここはいったいどこだろう。こんだけ広いとなると、やっぱり大きい国なんだろうか。じゃあロシア?もしかしてあいつは見覚えのある景色だったから突っ走ったんじゃないのか?
そんなことを考えていると金髪の二人がこっちに向かってくるのがわかる。彩香と…………誰だ?
「先輩、ここの住人見つけましたよー!」
遠くから彩香が叫んでいるのがわかる。俺はそこまでもう一踏ん張りと歩くことにした。
「で、こっちの子は?」
二人のもとに着いた俺はそのままの勢いで聞いた。
「ここの住人らしいですよ。この子の村が近くにあるみたいです。」
金髪の女の子の代わりに彩香が答えた。歳は10歳くらいだろうか。赤い瞳を除けば彩香そっくりな子だった。
「とりあえず、君の村に案内してもらっていいかな?」
俺がそう言うと、女の子は俺に背を向けて歩き出す。付いて来いということなのだろうか。
俺は彩香と顔を見合わせると、とりあえずついて行くことにした。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!素人でまだまだ未熟ですが暖かく見守って頂けると幸いです。
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