最終話-最後の・・・- ・ 1
蜜がプレゼントを買いに行く日。
林檎は待ち合わせ場所に着く頃、気持ちがどうにもならずに泣き出してしまう。
願うのは、何も知らなかった、あの日に帰りたいという事。
外は朝から生憎の雨。
-…そう。あの、蜜から衝撃の言葉を聞いた悪夢の日と同じ・・・雨。
林檎は、以前は雨が好きだった。雨の匂いが好きだった。
幼い頃、雨の日には蜜の部屋で遊ぶ事が多かったから。楽しい思い出の多い雨が、今では苦痛以外の何者でも無い。
林檎は小さく溜息をついた。そうした所で、別に胸の奥の痛みがおさまる訳でも無いのだが-・・・。
待ち合わせの時間が近付いた。時計を見る度に憂鬱な気分が増すが、悩んだ所で何か変わる訳でも無い。
「行こっかな」
誰に言う訳でも無い独り言を呟き、林檎は部屋を後にした。
「あ、れ?」
待ち合わせ時間より20分程早く着いた林檎だが、既に蜜は来ていた。
二人で遊ぶのは、中学生以来だ。高校生になってからは何故か、蜜が素っ気無くなったから。
今思えば「自分の知らない誰か」に、片思いをしているのだから当然だ。
そして、この買物が最後になるかもしれない。
蜜に彼女が出来たら、今までみたいに接してはダメな事くらい分かっている。
(あの日に帰りたい・・・)
唐突に、心の中に浮かんだ言葉を噛み締めた瞬間。
林檎の中で何かが崩れ、急速に視界がボヤけて行った。
一生懸命したメイクも、無駄になる勢いで涙が零れて行った。
「林檎っ!何、泣いてんだよ!」
ちょうど待ち合わせ場所に現れた蜜が、ぎょっとしながらも慌ててハンカチを差し出す。だが、涙を止めたくても止まらなかった。
林檎はもう、どうして良いのか分からず、蜜が貸してくれたハンカチで涙を隠す事しか出来なかった。
***
「落ち着いた?」
泣き止まない林檎を、近くのカフェに連れて来た。
蜜はタイミングを見計らって問い掛ける。
林檎も、多少落ち着いた様子で小さくコクリ、と頷いた。
二人の間には、今までに無い気まずい空気が漂っている。
蜜は、飲みかけのカフェオレを飲み干すと「出ようか」とだけ言い先に店を出てしまった。
(蜜くん、怒ってるよなぁ・・・)
仕方ない事だが、何も言わない蜜に肩を落としつつ林檎は蜜の後に続いた。