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「それにしても、はぐれ魔術師って結構居るんだな」
「報告に上がってるだけで、50人近く?」
「翼に翔大、準備は出来てるのか?」
椅子に座り上がった報告書を見ながら、翼が話すのは同じ年で連利が居ない間の相棒である翔大。
若月家当主の弟である翔大は、元々は翼の相棒であった。
早くに連利と名を交わした事によって、大半の仕事を翼は連利と行っていたが。
時として、翔大と行う事もあり。今回のような時には、当然のように組む。
「終わってるよ、匡兄」
「ああ、大丈夫だぜ匡介」
「智哉が待ってる、話を聞いて来い」
匡介の言葉に、2人は立ち上がり智哉の待つ部屋に向かう。
基本的に一族の方針を決めるのは、本家当主である翼だが仕事の振り分け等、統率指揮に就いては各家の当主であれば誰でも勤められるように経験を積むようにしている。
それは、何かあった時に直ぐに動けるようにという配慮であり。
まだ、当主として経験の浅い栗原家当主である智哉が今回の大任を担う事になったのは、サポートに若月・南條家の当主が回った為でもある。
「纏まりました?」
「ああ、纏まった」
部屋を訪ねれば、椅子にグッタリと座る栗原家当主智哉の姿。
そんな智哉に、翼と翔大は顔を見合わせて苦笑を漏らす。
何故、智哉がそんなに疲れているのかは痛い程理解しているから。
長く当主の座に就いていれば、否応なしに経験をする事であり、翼と翔大はもう何度も経験をしている。
「お疲れさま、智兄」
「マジで疲れた」
「まあ、慣れないとあの連中の相手は疲れるよな」
労う二人に、智哉は全くだと言わんばかりに頷く。
「とりあえず、詳細はコレに記してある。二人に任せるから、護衛を頼むな」
「りょーかい!人員に配置は、私達で決めていいのね?」
「ああ、下見はしてあるんだろう?それなら、現場を知ってるお前達に任せた方がいいからな」
問う智哉に、翼と翔大は頷いて答えると笑って智哉は応じる。
指揮を執るが、それ以前に智哉自身も現場に出て何度も仕事をした事がある。
だからこそ、大まかな指示だけで細かな事は実際に動く者に任せた方がいい事は理解していた。
どんなに入念に準備をしていても、予想外の事が起きる事は多々ある。
その時に、素早く動けるような人員配置だけ怠らずにおけばいい。
それが、各家当主の一致した意見であった。
「んじゃ、行動するな」
「頼んだ」
翔大の声で、翼は部屋を先に出る。
「翔大」
「んあ?」
「翼」
「分かってる。連利以外では、俺が1番アイツを理解してるから」
智哉の心配な声に、手を振って応じる。
そうして、部屋を出て行く。
そんな二人を見送り、智哉は深々と項垂れ小さく呟く。
「もしかしたら、動くかもしれない。そうなったら、止められるのは、翔大だけなんだ」
苦々し気に、智哉は吐き出す。
一族で唯一の能力を持つ智哉は、呑み込んだ言葉に、変えられない人員にただ、案じるしかなかった。