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「……、という訳です。現在、諜報の者に探らせるように手筈は整えました。後は、誰が潜入するかが問題となります」
説明を終えた連利が一礼をして、再び後ろに控えると、翼は目をゆっくりと開いて話を聞き終えた一同を見た。
「さて、難問が1つ」
「潜入か……。翼は、適任は誰だと思っている」
「若月、私がそれを言ってしまったら命じるようなものではなくて?」
一同の中で最年長である、若月家当主であり、翼にとって兄のような存在の若月匡介の言葉に、やんわりと首を横に振る翼に、匡介は頷き答える。
「しかし、潜入となると能力もだが。物事を冷静に判断出来、尚且つ有事の際の保険が必要不可欠。それらを満たした者でないとな」
「若月の言う全てを満たす人間は、限られて来るんじゃないか?」
「確かに、藤宮の言う通り限られて来るな」
匡介に続き、藤宮家当主である藤宮櫂杜の言葉に同意するのは、腕を組みながら全員を見回す、南條家当主の奏。
若月家当主と同じ年である南條家当主奏は、滅多に発言をしないだけに全員の視線が集まる。
「事は重要であり、且つ迅速さが求められている。ならば、今決めないといかんだろう。全ての条件を満たす者は、蒼柳当主か藤宮当主、どちらかではないか?」
奏の言葉に、連利と櫂杜に視線が集まる。
2人共に、真名を交わした相手が居るので有事の際に保険がある。
そして、実力を持った中で冷静沈着な者を上げるとすれば2人が上がるのは、誰もが知っている事であり。同じく、名を上げた奏自身も当て嵌まるのだが、いかんせん言葉少ない為に情報を集めるという点では、向いていない。それほどに、奏という人間は寡黙であった。
「2人とも、どうかしら?引き受けて貰える?」
翼が櫂杜と連利に問えば。
「引き受けない訳には、いかないだろうが」
「同じく、引き受けさせて頂きます」
「ありがとう。では、細かい段取り等は諜報の情報待ち。尚、二人のサポートとして若月、南條の双方に任せる。この間、私は直ぐに動けるようにしておく。故に、統括指揮は栗原に預ける。以上!」
連利と櫂杜の同意を得ると、翼は一気に纏めて指示を出して解散を告げた。
反対意見も出る事なく、各々が議場から退出すると、翼は椅子にだらしなく座り長い息を吐き出し項垂れた。
「お疲れ様、翼」
「う~……」
「気にする事はない、最善の道を選んだ」
「あ~……」
「離れる事になるが、何時だって1番傍に居る」
「……帰る」
連利の言葉に耳を傾けながらも、力なく言うとゆっくりと立ち上がる。
普段は、各々屋敷とは別に住まいを構えており、翼も連利と一緒にマンションで生活をしている。
「翼、連利。帰るなら、乗せて行くぞ」
「ありがとう、匡兄」
「連利、潜入前までに翼を何とかしとけ」
「櫂兄、どういう意味よ」
部屋を出て、屋敷の玄関に行けば二人を待っていた匡介と櫂杜が出迎える。
各家の当主は全員が幼馴染みであり、付き合いが長い分、言葉にしなくても相手の心情を理解出来るだけの付き合いがある。
「そのままの意味だ。お前は、ドンと構えてろ。俺と連利、二人でキチンと成果を上げる。上げた時に、使いもんにならなかったら意味がないだろう」
「分かってる」
「ならいいがな、サッサと帰るぞ」
厳しくも優しい櫂杜の言葉に、翼は真っ直ぐ見詰めて答える。
そんな翼に、頷き玄関外に停めてある車に乗り込む。
「連利、翼の事なら俺達がサポートする。櫂杜と頼むな」
「もちろんです」
匡介に声を掛けられ、頷き返す連利。
各々の思惑がありながらも、一路は一先ず帰路に着く。