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妹の身代わりで嫁いだら、冷血公爵の家計簿が泣いていました

作者: 入河 珈一
掲載日:2026/05/28

冷血公爵より、家計簿のほうが先に泣いていました。

 妹が泣いたので、わたしが嫁ぐことになった。


 相手は冷血公爵と呼ばれるエリオット様。愛など期待していない。そう思って馬車を降りたわたしを迎えたのは、本人ではなく、厚さ三寸の家計簿だった。


「奥様、どうか見なかったことに」


 執事は震えていた。だが、数字を見なかったことにすると、人が泣く。


 使用人の給与は三か月遅れ。薬草園の費用は削られ、代わりに親戚筋の夜会費が膨らんでいる。冷血公爵の名で恐れられていた屋敷は、実際には親族に食い荒らされていた。


「まず夜会費を止めます」


 親族たちは怒鳴った。妹は「そんな家に行かなくてよかった」と笑った。けれど公爵は、黙ってわたしの組み替えた予算表を見ていた。


「君は、私を怖がらないのか」


「怖いです。でも赤字のほうが怖いです」


 公爵は初めて笑った。


 翌月、使用人の給与が戻った。薬草園も再開し、領民の診療所に灯りがついた。親族たちは屋敷から去り、妹の家には使い込みの請求書が届いたらしい。


 結婚式の日、公爵は小さな声で言った。


「身代わりではなく、君を妻に迎えたい」


 わたしは家計簿を閉じて答えた。


「ではまず、結婚式の予算から一緒に見直しましょう」

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