表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

第七夜 知っているよ

 ひと雨来るよ。


 ほら、拝殿の上をごらん。龍神がぐるぐると渦を巻いて翔びまわっているのが見えるだろう。お嬢さん、早く屋根のある所までお逃げなさい。


 あ、見えない? 山藤、そこの制服姿のお嬢さんを休憩所まで誘導してあげておくれ。ああ、また不審がられている。

 でも幸いなことにお嬢さんが鳥居をくぐって逃げ込んできたから、社殿の軒下に入れてあげよう。さぁ、遠慮しないでお入り。


 おや、泣いているのかい?

 どうしたの? 話してごらん。うん。うん。そう、明日遠くへ引っ越しちゃうのか。寂しくなるな。私はあなたが幼い頃からずっと見守ってきたからね。弱虫で泣き虫なところも知っている。


 だから、あなたがいじめに遭っていたことも知っている。

 悔しいよね。いじめられた側が逃げなきゃいけないなんて理不尽だ。いじめる側が無傷なんて絶対に間違っている。


 私はちゃんと知っているよ。

 あなたの前にもいじめられて転校を余儀なくされた子がいたことを。


 ああ、もちろん知っているよ。あなたがその子をいじめていたことも。


 その子がいなくなったから、今度はあなたが標的にされてしまったんだよね。

 人間ってね、共通の敵を作ることでしか結束することができない弱くて愚かな生き物なのさ。その敵がいなくなったら、また別の標的を探すまで。

 まさか、自分は標的にならないと思ってた? お馬鹿さん。そんな虫のいい話はない。


 でも安心おし。残された人間たちはまた愚かなことを繰り返すから。

 残されたほうにも地獄の日々が待っている。疑心暗鬼という地獄がね。次は自分の番じゃないかと、毎日怯えて暮らすのさ。うわべだけの仲良しごっこに心を削られながら。

 気づけば周りには誰もいなくなっていて、最後に残った人間は永遠にひとりぼっちだ。


 いいんだよ。自分を守るために逃げることは悪いことじゃない。


 ほら、雷鳴が聴こえてきた。龍神が罰を下す人間を探している。

 早くお逃げ。私の最後の情けだよ。次はない。

次回は「第八夜 お姫様は許さない」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ