第六夜 二つ目の穴
こらこら、神木を傷つけるんじゃない。
藁人形に釘を打ちつけたって、なんの解決にもならないんだよ。
まぁ、こういう人間には何を言っても聞こえないだろうけどね。きっと、すべてを承知の上で愚行に及んでいるのだろう。
人を呪わば穴二つ——。こんなのは百も承知だろうけど、念のため確認しておくよ。
一つ目の穴は、呪った相手を埋めるための穴。
二つ目の穴は自分の……、え、そんなことわかってるって? 聞きたくない? あ、そう。じゃあ、もう教えてあげない。
あなた、自分の命なんかどうなってもいいと思うほど相手を憎んでいるんだね。相打ち覚悟ってやつ? 相手さえ不幸になってくれれば、自分が二つ目の穴に入ることも厭わない。
でもさ、本当にそれでいいの? 本当に後悔しないならあなたの望み、叶えてあげてもいいよ。約束する。断言する。自慢じゃないが、私は嘘をついたことがない。
さぁ、夜が明ける前にお帰り。そろそろ神主たちが動き出す。神木に藁人形を打ち付けている姿なんか見つかったら、あなたの望みが水の泡だ。
さて、そろそろ家に着いたかな。きっと今頃、びっくりしているに違いない。望みが叶った証を見つけているだろう。私はやるときはやるってこと、わかってもらえたよね。
ん? 何を怒っているのかな? せっかく望みを叶えてあげたのに、何が不満なんだい? だって、私の話を最後まで聞かなかったのはあなただよ。私はせっかく教えてあげようとしたのに。
二つ目の穴は、自分の大切なものを埋めるため、ってさ。
あたりまえだろう。人を呪うってそういうことなんだ。人の不幸を願うなら、自分の幸せと引き換えにしなくちゃ割に合わないよ。
心配しなくていい。あなたの大切なワンちゃんは、私が可愛がってあげるから。
ほら、虹の橋でお友達と楽しそうに走り回っている。
よかったね。とっても幸せそうだよ。
他人を羨んでばかりで自分のことしか考えない人間と一緒にいるよりは。
……でも、どこか寂し気だ。あなたのもとに帰りたがっている。
仕方ない、今度ばかりは見逃してあげるとするか。
ワンちゃんのためだよ。あなたのためじゃない。
勘違いするな。
次回は「第七夜 知っているよ」です。




