第五夜 御神籤を見誤ると
※残酷な描写が含まれています。ご注意ください。
心の病は怖い。
追いつめられると何かに取り憑かれたみたいに、普段では考えられないような選択をする。
きみだって知っていたはずだ。質問に答えられるのは一回につき一つだけだって。
たしかにきみは作法を正しくおこなった。普段から私のことを理解しようと努めていたから完璧だ。神経質なほどに。これはもう、生まれついての性分なのだろう。
前日までにご先祖様と氏神に挨拶を済ませ、参拝で質問事項を私に伝えてから神籤を引く。そこまではよかったんだけどね。でも、そのあとがまずかった。
ねぇ、どうして違う項目を見ちゃったの?
そうだよ、きみ、見る項目が間違っていたんだ。
仕事についての質問なんだから仕事の項目を見なくちゃいけなかったのに、願い事の項目を見ちゃっただろう? 以前のきみだったら絶対に選択を誤るはずはなかった。
心の病は本当に怖い。
吉とか凶とかどうでもいいことばかりに囚われてしまう。あれはね、ただ単にそう書いてあったほうが盛り上がるから書いとくだけなんだ。本当にどうでもいいことなんだよ。
あ、ちなみに「大凶」はかなりレアだからね。よほどじゃないかぎり、私はまず引かせない。引いたらラッキー!と思っていいよ。だってレアだもの。これ以上落ちることはない。運気は上がる一方さ。
だからね、はっきり言うよ。質問の項目以外は300%テキトーです。
なのにきみったら、願い事の項目を鵜呑みにしちゃうんだもの。
「叶わぬ。あきらめよ」って言葉をさ。
私のせいにされても困る。私はちゃんと仕事の項目で答えてあげたんだ。
「機を待てば利多し。早まればすべてを失う」ってね。
心の病は本当に怖いんだ。誤った選択をしてしまうから。
そんな顔したって無駄だよ。今さら後悔しても手遅れさ。
線路を見てごらん。壊れた器に魂は戻れない。
きみは永遠にここから動けないままだ。
次回は「第六夜 二つ目の穴」です。




