第三夜 とんだ誤算
ちゃんと家の近くの氏神に挨拶してきた?
住所と名前を教えてくれるのはいいんだけど、あなたの願い事、氏神から神使を派遣されていないから後回しになっちゃうよ。
ほら、こちらの女性を見てごらん。ちゃんと氏神に、氏神に……。あ、この女性の実家は私の氏子でした。
やはり氏子は可愛いものだよ。彼女は地元の子でね、今は上京して働いているのさ。彼女の職場は……おや、あなたの家のすぐそばだね。なんたる偶然。
とはいえ、願い事の優先順位は彼女が先になる。悪いがこれは譲れない。あなたも5時間かけて遠路はるばる来てくれたみたいだけど、こればっかりは駄目なんだ。ごめんよ。
さて、彼女の願い事は、なになに? 彼と結婚できますように。うんうん、可愛い可愛い。いいよ、いいよ。その願い事、今すぐ叶えてあげるからね。
ピロピロリン、ピロピロリン。ほら、着信音が鳴った。きっと彼からプロポーズだよ。画面を見つめる彼女の表情がみるみる喜びに変わっていく。やったぁ、結婚、おめでとう。
痛っ。何かにぶつかられたようだ。誰だい、こんなめでたいときに。ん? 足元に小動物が転がっているぞ。なんだ、よく見たらどこぞの神使じゃないか。
これこれ、おまえさん、どこから来た神使だい? ん? そこって、彼女の職場界隈を守護する氏神がいるところだな。
そうか、彼女、念には念を入れて、職場の氏神にもお願いしていたのだね。そんなに彼が好きなのか。ならば私は実にいいことをした。大満足。
え? 違う? 彼は妻子持ちで、ギャンブル癖もあって、会社の金を横領して1000万円の借金を抱えてるって?
待って待って、それどういうことだい? なんでもっと早く教えに来てくれなかったのさ? それが先にわかっていたら、彼女と彼の縁を結ぶなんてことしなかったのに。
え? なんだって? 彼女が後輩をいじめているって、それ本当かい?
私はもう一人の女性に視線を移した。
ああ、そうか。この神使を遣わした氏神は、あなたの願いを叶えてくれたんだね。
とんだ誤算だけど、まぁ、いいか。このままで。
次回は「第四夜 苦手な子供」です。




