第二夜 気になる人間
おや? 神使が来ないと思ったら、ただの観光客か。
いきなり来てお願いされても、悪いが助けてあげることはできないよ。
私にお願いを聞いてもらいたければ、まずは近所の氏神に挨拶しておいで。そうしたら神使を私のもとへ遣わして、あなたのことをよろしくお願いしますと伝えてくれるから。
でもね、たまに気になる人間がいるんだな。
山藤、この女性に声をかけておくれ。ああ、山藤というのは、神域を出禁になった小太りの中年男だよ。ジャージ姿で参拝者に声をかけまくるものだから、宮司に不審者扱いされてしまったのさ。
ごめん、それ、私が山藤を使って声をかけさせているんだ。波長の合う人間が彼しかいないもので。
山藤はなんの疑いもなく、私の頼みを聞いてくれるから便利だ。このときも躊躇なく、鳥居の外で女性に声をかけてくれた。
案の定、不審がられている。
それでも、女性は笑顔を忘れない。うんうん、殊勝な心掛けだ。誰にでもやさしくできる人、私は好きだな。
よし、ご褒美にいいことを教えてあげよう。山藤、彼女に伝えてやっておくれ。
あなた、肥えた人の念がいっぱいついているよ、って。
彼女、びっくりしているね。どうやら図星のようだ。おそらくそのことで悩んで、私に救いを求めに来たのだろう。血の臭いがするから、かなり危険な目にも遭っている。
でも詳しいことがわからないから力になれるかどうかわからない。本来なら神使が教えてくれるはずだが、今回はそれがなかったからね。
おや? 山藤がプライベートを訊ねている。私はそこまで問えとは言っていない。好みのタイプなのか。まったく困った男だ。職業まで訊いているよ。
なになに? 女性の職業は高級スポーツジムのインストラクター?
おや、意気投合しているね。あとのことは知らないよ。だって神使から何も聞いていないもの。
大丈夫か? 私は山藤が気になるな。そのブランド物のジャージ、きみはやめたほうがいい。
狙われているよ。欲深な女に。
次回は「第三夜 とんだ誤算」です。




