表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

最終夜 風鈴の知らせ

 風鈴の音が聴こえる。


 風もないのに鳴っている。美しい音色だね。

 チリンチリン……と、やさしくて、どこか懐かしくて、温もりを感じさせる音が風もないのに聴こえたら、それは、大好きだった故人が会いに来てくれたサイン。




 おや、風もないのに境内の風鈴が揺れている。チリンチリン……と心地よい音色とともに、高齢のご婦人が一人の青年のそばに降り立った。

 見えないかもしれないけど、その人、彼の亡くなったおばあちゃんだね。やさしい眼差しで見守っている。彼はおばあちゃん子だったみたいだ。


 今日は恋人と一緒にお詣りかな? 彼のポケットの中に指輪が見える。ここでプロポーズか。おばあちゃんは応援しに来てくれたんだね。よし、私も見守っていてあげよう。


 おやおや? 彼女のお腹の中に新しい命が宿っているのが見えるよ。彼も彼女の体を気遣っている。やさしい青年に育ったのは、おばあちゃんからも愛情をたっぷりもらったお陰だろう。



 チリンチリン……チリンチリン……チリンチリン……。

 あれ? 急に風鈴の音が騒がしくなってきた。相変わらず風はない。


 チリンチリン……チリンチリン……チリンチリン……。

 境内の無数の風鈴が、風もないのに一斉に鳴り響いている。互いにぶつかり合って、今にも壊れてしまいそう。

 彼の手もポケットに入れたまま止まってしまった。



 そのとき私は、激しい怒りが神域に踏み込んできたことに気づいた。

 怒りをまとった男が参道を憤然と走ってくる。男は拝殿の前にいる二人に立ちふさがった。どうやら彼女の元彼らしい。しかもその男、驚いたことにお腹の子の父親だって言うじゃないか。彼女はかなりうろたえている。真相は確かめるまでもない。



 カッコウが南の空へと飛んでいく。托卵して逃げ去る鳥よりまだましか。


 拝殿前に目を戻すと、青年の姿はなかった。別れを選んだようだね。賢明な判断だ。


 いつしか風鈴の音は止んでいた。


 おばあちゃん、あなたの愛の力には私でも敵いません。

ご高覧いただきましてありがとうございました。

評価・ブクマ・感想等いただけましたら幸いです。

◎すでにブクマ・感想をくださった方、心より御礼申し上げます!


物語は一旦ここで区切りますが、いつか続編を書けたらと思っています。

そのときはまたご覧いただけますようよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ