第九夜 御守りの効力
誰かが呼んでいる。
助けを求めて呼んでいる。聞き覚えのある声。それどころか、よく知っている声だ。
様子見で先に式神を向かわせようとも考えたが、胸騒ぎがした私は自ら向かうことにした。
見えてきた。海沿いのカーブ。男女4人の乗った一台の軽自動車が猛スピードで走り抜けていく。
あそこだ。あそこから私を呼ぶ声が聞こえてくる。私に助けを求めているのは女性の声。あれ、このお嬢さん、知っている。月次祭には必ず参拝に来るよね。いつもありがとう。
だけど、カーブを曲がり切れず、ガードレールを突き破って海に転落する未来が見える。運転しているのは彼氏だね。免許取り立てでカッコつけたいんだろう。彼女はそんな彼氏に危機感を抱き、私に助けを求めたんだ。
あれほどこの男はやめておけと忠告したのにね。まぁ、しかたない。今回は助けてあげるよ。だが無傷というわけにはいかない。それ相応の覚悟はしておいておくれ。
私はガードレールを突き破りそうになった車をはね返した。車は切り立った岩肌に激突し、言うまでもなく、大破。お嬢さんは大怪我を負ったが一命は取り留めた。あとの3人は……。
ええと、あとの3人ね。ちょっと見てみようか。
彼氏は御守りを持っていなかった。ご先祖さまも守ってくれなかった。自業自得か。
もう一人の男性は御守りを持っていたけど、これ、4年も前のだね。毎年新しいのに変えなくちゃ。効力は1年しかもたないよ。あとは寿命次第かな。ご加護があれば多少操作できるんだけどね。
あと、お嬢さんのお友達。この子は御守り代わりに石の腕輪——パワーストーンブレスレットってやつを着けていたけど、これ、なんの効力もないから。
え、効果あったって? これのお陰で彼氏ができた? たまたまじゃない? まがい物を売りつけられたんだろう。だって水晶から二つ目と五つ目の石は死んでいるよ。他の石にも悪い霊が入り込んでいて、おそらくそれがお友達を連れていってしまったようだ。
さて、お嬢さんだけれども。なぜ助かったのか。それはね、私に助けを求めた女性の声、あれ、お嬢さんのひいおばあさんの声だったからなんだ。
彼女はお嬢さんの肌守りの中で、いつも温かく見守っているんだよ。
ひいおばあさんの手作りの肌守り、代々受け継がれるこの効力は永遠になくならない。
次回は「第十夜 知らないよ」です。




