8、気配の元
「遠藤さん聞きたいのですが本当にギルドに入る気は無いんですね」
「ないです。ていうか話しかけてこないでください。」
現在、私、遠藤 凪は変人…じゃなくて烏一 千日(ういち ちひ)と光月 輝の2人と共に謎の気配の方向に向かっている。先程天を岩陰に下ろして1人にして来たのが心配でならないが。
しかもこいつ…烏一はずっとギルドとかいうふざけたものに勧誘してくる。
はぁ、天に会いたい。
「千日あんまり絡むなよ…」
そう困ったように眉を下げて言った。
光月は第一印象はヤバいやつかと思っていたご案外まともな人のようで少し安心した。
「あれ?カラスだぁ!」
気配のする方向に向かっていると突然上から声が聞こえた。そして視線を上に向けると、天井に逆さまにぶら下がるようにしている褐色がかったオリーブ色の髪の長い髪を1つ結びにしたやけに露出の多い服を着ている少年がいた。少年の尾てい骨辺りには蛇のしっぽのようなものが着いている。
「カラス〜!探したよ!今までどこにいたの?」
タッ
少年は少し興奮した様子で天井から降りて烏一の方へと近づいていく。
「誰ですか?こんな小さな知り合い居た覚えがありませんけれど?」
彼女は目を細め不快そうに少年を睨んだ。
「めんどくせぇ…」
光月はそう呟くとゆっくりとその場を離れようとする。
「あれ?犬っころもいるじゃん!」
彼が少年に背を向けた瞬間彼の存在に気づいた少年はそう嘲笑うように言った。
「誰が犬だ!俺は…あ」
「…」
彼は何か失言をしたようだ。烏一が笑顔を浮かべてはいるが、キレかけている。
「やっぱりオオカミクンだぁ(笑)!てことはやっぱり君はカラスだね!髪色と目の色を変えてもやっぱり分かるよ!」
光月の失言を聞いた少年は振り返り烏一の方向を見て指をさした。
「いや、人違いです」
「そんなわけないじゃーん」
「チッ」
少年は彼女を見つめたままニヤニヤしている。
指をさされた彼女はとても不服そうにしながら少年と視線を合わないようにしている。
…まさか、こいつらあいつと知り合いなのか?
「はぁ、またやらかしましたね?輝。」
「…あ!ていうかお前、あの陰キャクソトカゲ野郎はどこにいる!」
詰められた光月は1歩後ずさり、話を逸らした。
話の感じこいつらみたいなのがもっといるのか…最悪だ早急に天のところに戻りたい。
「あー、ルゥくんのこと?知らないよ、ルゥくん今どこにいるんだろ?ていうかオオカミは今てるって名前なんだね!どうしてそうなったの?」
少年は顎に手を当てて嘘っぽく考えるように不思議そうにしてから揶揄うように光月の名前について言及した。
「お前には関係ない、ていうかあいつその呼び方嫌がってるだろ。」
彼は少し声を低くしてそう言った。
「生意気だよね!ルゥくんは僕に勝てたことないのに!あれ?ていうか君は?」
少年は楽しそうそう語ると私の存在に気づいたようでこちらを見てきた。こっちにくんな。
「あれ?人間だぁ!カラスたち人間飼ってるの?」
こちらへ近付いて私を見上げながら先程とは違い本当に不思議そうにしている。
「飼う?どういうこと…」
「ヘビ、そろそろ、戻ってくれませんか?」
私が「飼う」という言葉に反応して質問をしようとすると遮るように烏一が割り込んできた。
「ヘビじゃなくて、ウィンって呼んでよ!その名前を呼んでいいのは主だけ!」
どこにでもいそうな生物の名前の何がそんなに特別なのかウィンと名乗る少年は先程の雰囲気とは違い少し殺気を感じる気がする。
「あぁ、すみません。ところでウィン、本題に入ってくれませんか?」
「あ!そうだね!僕らのご主人様最近どっかのペットが居なくなったせいで不機嫌でさ〜、僕はそれを連れ戻しに来たって訳!」
は?話に追い付けない。どういうことだ?
「ということで!一応聞くけどカラス!オオカミ!抵抗せずにご主人様の元に帰る気は?」
困惑する私をよそにウィンは結果がまるで分かってるように2人を見てそう質問をした。
おい、話を勝手に進めるな。
「無いに決まってますよね」
「絶対に無い」
2人が食い気味にそう言う。どんだけ嫌なんだ…
「…仕方ないね。実力行使しかないかぁ〜」
少年がそう呟き2人の方へと向かっていく。右手には手乗りサイズの禍々しい何かが乗っている。戦うんだ。帰っていいかな…天に会いたいんだけど…
◇
「負けたぁ!なんか、オオカミ強くなってない!?」
戦いに負けた少年は縄で縛られ身動きの取れない状態にされている。
戦いはというと数分で終わった。
戦闘が始まり、少年は禍々しい何かを変形させて武器のように扱っていた最初は順調だったようだが、1分ほどたつとどんどんと押されていきそれからは一瞬だった。
これはなんの戦いだったんだろう…
「お前が弱いだけだ。とりあえず解いてやるから帰れ」
「僕このまま帰ったら怒られちゃうんだけど…」
少年は不安そうにしているが何か少し楽しみにしているようにも見える。
「お前キモイからそれくらいが良いだろ」
光月は軽蔑した表情で少年を見下ろした。
「ひっどーい!ていうかさ、君のお仲間は大丈夫なのぉ?」
「仲間?」
「そー!黒髪の女の子!」
仲間で黒髪の女の子…もしかしたら。
「天…っ!?」
私は最悪の可能性を考えて直ぐに振り返って走り出した。
早く戻らないと…天に何か起きているかもしれない。
「烏一さん?」
「じゃあね〜♪」
「あっ!あいつ、逃げやがった!」